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血闘!婚約者!

 イーダが逃げていたら探し出して首を刎ねるつもりだったが、脱いだ服を抱えて元の場所をうろうろしてたのでもうしばらく生かしておくことにした。この世界の事やクロイスの事など、まだまだ知っておきたいことはある。

「ほ、本当にアロイス様を殺してしまったんですか?」

「無論である。忍びが獲物を追った時、生き残るのは常に一人」

「うわぁ……」

 何がうわぁか。服を受け取り身に着け、今日の事は誰にもいうなと念を押しておいた。要らぬことを言えば即刻首が飛ぶと思え。そう言うとイーダは何度もうなずいた。

「アロイス様、おかわいそうに……」

「死して屍拾う者無し」


 アロイスの死骸は見つからなかったようだ。当然アロイスが行方不明になったとしばらく大騒ぎになった。よほど好かれていたらしい。幸いそれで拙者、クロイスの様子を気にするものは誰もおらずその間部屋にイーダを呼んであれこれと不足している情報を聞いていた。さらに、なまった手刀を鍛えなおすべく壺に砂や鉄くぎを入れた物に手刀を叩き込み続けた。

 忍びは、手も研ぐことができる

 なんでも城の人々はクロイスが暗殺者を雇ってアロイスを襲わせたのではないか、と噂しているらしい。愚かな事。本人が殺ったというのに。


 数日が過ぎた時、ボードウォーク公国公王と、その第一王子ハイドリヒなる男がこの国にやって来たとイーダから聞いた。

「何だその男は。武将か」

「本当にお忘れですか? ハイドリヒ様はクロイス様の婚約者の方ですのに」

「そうであった。最近物忘れが激しくてな」

 拙者の婚約者であったか。

「しかし、婚約者といいましても……」

「婚約破棄されそうなのであったな」

「それは覚えているんですね?」

「細かい事を気にすると長生きできんぞ」

「は、はいっ」

 このイーダ、時々こうして脅してやらんと調子に乗る用だ。

 イーダによるとハイドリヒはもともとどこぞの舞踏会とかいう宴でアロイスと知り合い、大いに気に入って求婚して来たのだが何の手違いか初めに会ったのをクロイスと勘違いしていたらしい。だんだんとクロイスの性根が腐っているのに気が付いて勘違いが解けて、クロイスとの婚約を破棄してアロイスに改めて求婚するつもりとのもっぱらの噂。

「ややこしい話だな。しかしそのハイドリヒというのは阿呆か、どうやったらアロイスと見間違うのだ。髪の色が全然違うではないか」

「そう言われましても……その他は外見は似てますし」

 内面は似てない、と言いたそうだった。

「ま、その阿呆が来ているということはいずれ会うこともあるだろう」

 金髪と銀髪の見わけもつかぬ阿呆の何が良いのか知らんが、元のクロイスにとっては婚約破棄されると聞いて首を吊るほどの相手であったわけだ。阿呆と夫婦になるなど(特に妻になるなど)拙者の好むところではないが、この世界における恩人クロイスのためには会っておかねばなるまい。

「何にせよアロイスはもはやいない。拙者との婚約破棄するわけにはいかぬな」



「クロイス・マーヴィンガーデン嬢。この場にて婚約を破棄させていただく」

 婚約を破棄された。あっさりと。

 ハイドリヒなる若造の印象はやはり阿呆であった。年のころは二十歳と少々、背は高く目鼻立ちはむやみに整っているが、白い服に金色の飾りをべたべたと貼りつけて得意そうにしているところなど虫唾が走る。少なくとも戦乱の日ノ本にかような阿呆はいなかった。その後ろに控えるボードウォーク公というのも歳が倍になっただけで同類かどうか。

 あきれている拙者を前にハイドリヒはとうとうと婚約破棄の理由を語っている。クロイスの数々の悪行、さらにアロイス失踪の黒幕と目されていることを理由に挙げてあれこれ言っているようだが話がくどく興味が持てない。

「異存ありませんね」

「異存も何も命が惜しくないのか小童が」

「は?」

「そも婚姻とは国と国との盟約にほかならぬはず。個人の色恋や好悪でこれを破ろうとは、我が国への挑戦にほかならぬ。この場で討ち取られても文句は言えまい」

「クロイス嬢? 何を言っているんですか? 僕を脅す気ですが?」

「脅しではない。通告しているのだ。

 婚約破棄するのであればお前を殺し、我らマーヴィンガーデン家は一族郎党城を枕に討ち死にするまで戦う覚悟だと。

 で、ありましょうな父上」

 そのまま背後のこの世界での父、マーヴィンガーデン子爵を振り向く。これも顔は良いが顔に大粒の汗を浮かべ頼りなく笑っている。

「クロイスや、悪い冗談はそのくらいにしなさい。別の婿を見つけてやるから……」

「話にならぬ腰抜けよ」

 公然と侮辱を受け刀を抜かぬ領主のどこにある・

「ま、ま、ま。その、娘はこう言っていますが少し意地を張っているだけでしてな。私からよく言い聞かせますので……」

 殺るか。頼りにならぬであれば親でも殺し家督を奪うことは乱世では当然。

 その時、黙っていたボードウォーク公、婚約者の父親が口を開いた。

「いや。確かに一方的に婚約破棄と言われてはクロイス姫が怒るのも無理はない。しかし息子の意志は固く、このまま結婚したところで絆は深まらぬだろう。

 どういうけじめをつければ納得してもらえるかな? 違約金を払えば納得してもらえるのであれば相応に支払うものとしたいが」

 阿呆の息子よりはいくらかは話の分かる御仁のようだ。

「名誉を守るには古来より方法は一つ。果し合いを所望する」

「決闘というわけか? クロイス姫、失礼だが腕に自信があるのかね? 息子はこれで国一番の剣士なのだが」

「自信はあるとも」

 ボードウォーク公、マーヴィンガーデン子爵、ハイドリヒの三人が何事か目配せする。

「わかった。それで気が済むのであればそうしよう。確かに決闘の結果とすれば名誉を守って婚約を解消できる。賢い姫ですな」

 ボードウォーク公は何か勘違いしているようだが、敢えて訂正はしない。

「決闘であればファーストブラッドが作法だが、乙女の柔肌を傷つけるわけにもいくまい。息子は血を一滴でも流したら敗北。クロイス嬢はその、髪のリボンを落としたら負けとしたい。それでかまわないね?」

 なるほど今日は髪にリボンをしていた。イーダがいつもしているからとつけてくれたのだ。

「かまわぬ」


 自信たっぷりに剣を抜いたハイドリヒはやはり阿呆であった。何を思ったか剣を垂直に掲げ、この名誉をどうたらと下らぬセリフをつぶやきだした。

 ファーストブラッド、一滴でも血が流れれば終わり。温い決め事だが、ようは一撃で首を落とせばいいだけの事。

 「では尋常に……って、なっ、クロイス嬢! 何で服を!」

 女子の裸を見たくらいで話しにならぬほど動揺したハイドリヒ。その剣はまるで拙者の動きについて来れなかった。容易に剣をかいくぐり、鍛えたおかげもあり手刀一発で首を刎ねた。ファーストブラッド、最初の血が切断された首から勢いよく噴き出して天井まで赤く染める。

 あたりは恐ろしいほど静まり返っていた。拙者はハイドリヒの首を髪を掴んで拾い、ボードウォーク公にそれを差し出す。

「立派な最期であった。ねんごろに弔われよ」

 堂々と決闘したのである、遺恨の残るはずはない、と思ったのだが。

「この悪魔を捕らえよ! この国を亡ぼすぞ!」

 自らが悪鬼のような形相でボードウォーク公がわめき散らす。

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