7話-最悪なゴールテープ-
「ぉぉぉおお!…おおぉぉぉ…」
『頑張れ頑張れ。無駄な時間をうんと育むのじゃ』
ウチは走った…果てしなく続く大地の砂浜を。
ウチは泳いだ…果てしなく続く神秘な海上を。
「ぬぉぉぉおーッ!!おおぉぉぉ…」
『さてと、妾はアイツの記憶から面白いもんでも引っ張り出して暇潰しでもしようかの』
こんちくしょぉぉぉぉおおッ!!!!……
ウチがなぜこんなにも必死なのかって?
是非、聞いて欲しい…いや絶対聞いてッ!!
はい!数分前まで巻き戻しッ!
「八尺の血を受け入れる覚悟?」
『ずばりじゃな!…』
「まさか!…あれやこれやと苦難な試練を受けた後にパワーアップみたいな!?今までは未熟体だったウチが本当の強さを手に入れるみたいな!?」
『はぇ?…いや、八尺として生きていくって事じゃよ?そのままの意味じゃよ~、ぽっ!ぽっ!ぽっ!』
「はっ?」
『だーかーらー…現実を受け止めてじゃな~、怪物として過ごす覚悟を持てって事じゃ』
「え、何々なに?ウチはっ?…なんて?…」
『・・・っ怪物じゃッ!!』
「違わいッ!!!」
甘い考を持っていたウチがバカだった。
何が困難な試練だ、何がパワーアップだ…
ワクワクも糞もあったもんじゃない
「うあぁぁぁあああッ!!」
『な!何処行くんじゃ!またれい!』
そして現在に至るわけなのだ。
「ぬおおぉぉぉッ!!…」
都合の言い様にいかないのもまた人生。ちがう、身を任せていてはダメなのだ。言い訳で語れる人生なんて選んでたまるか。諦めてたまるか、自身を無くしてたまるか。
しかし、走れば走る程元の場所へと戻され。泳げば泳ぐ程波に返される…
『ぬお!この「すまほ」?とやらわ凄いの!48の人々が小さな箱の中で舞って歌っとるぞッ!』
「はいはい、さようでございやすか…」
『なんじゃ?諦めたのか?』
「諦めるかッ! グスン… ど~しよぉ…」
『また何処かに行きおった。しかしまぁ…あの二人と違って可愛げはあるの。泣き虫の癖してそれを押し殺し強がっとる。まるで娘の忌魅子を見ているみたいじゃ』
一方で、ぶつかり合う両者の争いは過激化を増して行き、もはや無法地帯とも言える環境へとなり果てようとしていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…下手に手が出せない分…キツイものがありますね…」
「そりゃ言えてるぜ死乃美…はぁ…はぁ…」
「お前らは少し休んでろ、遊茄の力の範囲内なら死ぬ事は無い」
飛び交う瓦礫の破片に凄まじい衝撃波。獅子八と刃子による純粋なパワーファイトが火花を散らす。
腕力を主体とした獅子八と違い、方や刃子の戦闘スタイルは両手両足を遺憾無く振り回し飛び回るアクロバットスタイル。だが、その衝突の最中で彼女は自身の逆さになった視界に入り込む一人の男を確認した。廊下の突き当たりで半身をこっそりと出し、こちらを見つめる不愉快な男。
"貴様、我を見ていたな?…"
「何の話しだ!俺は君の事を…っ」
"貴様じゃない!"
ズゴンッ!!!
「うぐっ…ッ!!」
邪魔と言わんばかりの回し蹴りが獅子八の頭部に直撃。筋肉質の図体は壁へとめり込み砂ぼこりを舞い上がらせた。彼女は再び先程の場所へ視線を戻すが男の姿は既に無く、暗闇が後を濁すかのように消えていた。
"何が目的だ…なぜ貴様は我を見るのだ…気に食わん、即殺だ"
「おいおい、何処行く気だよ!竜姫・灰炎ノ海ッ!」
空子の口から吐き出されるは火の粉を帯びた灰炎のスチーム。それが猛熱を宿しながら刃子の進もうとする道を覆い尽くしルート塞ぐのだ。
「そこからは立ち入り禁止だ。踏み込めば下半身からただれるぜ」
「もう貴方に勝ち目などない…さぁ、刃子を返しなさいッ!!」
"不思議な物事を言う小娘だな…殺夜、我は我なんだがな"
「貴方は刃子じゃない…」
"...っなんと!ウチは自分を間違えていたのでありますか殺夜!"
「....っ」
"クハハハ…っ!!笑っても良いのだぞ殺夜!このバカなら言いそうなセリフだ"
「殺すッ!!」
その手に握るは『名刀・人道斬り』
人の血を浴び続けたのそ短刀は人間の感情や想い、本能や心まで全てを取り込む事でいずれ人ならざる刃と化す。とまで言われた不の時代を象徴する輝かし殺戮刀。
"人道斬りとは…また古風なおもてなし。それで我を殺せるかの?"
一方で。
『なんじゃ刃子。何をそんなにビクビクとしておるんじゃ?』
「い、いや…何だか急に恐怖心ががが…」
『は?…』
「って、そんな事はどーでもいいのです!早く戻らなきゃ!」
『なぁ刃子よ、お主はこの血が嫌いか?…』
「なにさ…急に」
『だって…』
・・・・・・・・・っ
「マァマと同じ血が嫌いな訳無いのだ」
『...っ!?忌弥子…』
そこに全ての意味が詰まっていた事を女は知っていた。
何せこの質問は自分の娘である忌美子にもした事があったからだ。同じ質問に対し同じ答え。刃子と忌美子が重なって見えたのも母親としての繋がりなのかもしれない。
ーやっと、見つけた!!ー
「んっ?…何を?」
『妾ではない!…誰じゃ!!』
二人以外存在する筈の無い空間で響き渡った声は誰だろうとあり得ない事だった。
故に女は驚き周囲を見渡した。
『風切り音!…誰じゃ貴様!…』
なんと、そこに姿を現したのは遥か地平線の彼方から高速で突っ込んでくる…
「ん?あれって…何か見覚えが…」
漆黒を纏いし手持ちの荷物ケースだった。
ー 帰るよ刃子!掴まって! ー
『箱がしゃべりおったぁぁ!……』
すると漆黒のケースは高速で刃子へと接近するや否や持ち手の部分を彼女の手に引っ掛け空へと舞い上がっていったのだ。
「なんでコレが…ここに」
ー ずっと…昔から、友達だから…だからね…一緒に帰ろ ー
オーロラ色に輝く夕暮れは記憶にある筈のない景色を思い出させる。
霞んで映る5人の後ろ姿は何故だか楽しそうで笑い声を想像できた。
そんな美しい1ページ。
『悦に浸っとるのも構わんのんじゃがな!た、助けろ!落ちる!!』
「ん?ぬぉおーッ!何で2号ばあちゃんがいんのさッ!」
刃子の足にしがみ付き掴んで離さない人物
言うまでも無く八尺桜炎ノ霊子、あの女だった。
『妾も…行くの…じゃ!』
「いやいや、何でくんのさ!」
『今の世界に興味がわいたのじゃ!お主の事にもな』
「言っとくけど、ウチはあんたの娘じゃないからな」
『なんじゃ、聞こえておったのか…』
(まさか…こんな代物がこの世に存在しておったとはの…友達か…そんなモノが妾にもあったのなら生前は怪物にならずに済んだのかもしれぬな…)
夕暮れに昇る一筋の光が今、空に消える。
激しい衝突を続ける現実世界では既にお互いがズタボロの状態を受け入れ膝を付き呼吸を乱していた。
「かはっ!…はぁ…はぁ…決着は…付いた…私の…勝ちです…」
"阿呆が…自惚れるなよ…少し遊んでやればいい気になりやがって…"
「大事な所を除いて…ほとんどの急所は断ちました…それでも…動けますか?…」
"くっ…糞がぁぁああーッ!!"
「よくやった、殺夜…」
「いえ、橘花さんが本気ならば一瞬で終わっていたでしょうから…刃子に気を使っていただきありがとうございます」
「おい見たかよ…死乃美…」
「はい…さすが伝説の殺人鬼切り裂きジャックの子孫と言うべきでしょうか…人間の壊し方を良く熟知してます」
「獅子八…拘束しろ」
「だけどよ…もうこの子も動けないし、拘束までしなくてもよー…」
その時。跪く刃子の身体中から黒い煙の様な気体が吹き荒れ彼女を包んで行くのだ。
何が起きたのか理解できないまま刃子の姿がだんだんと認識出来なくなって行く
「………っ!!」
「まて殺夜!力が弱まっている…おそらく…任務完了だ」
黒い煙は徐々に薄れ始め見えて来る。
先ほどよりも小さな足に細身の身体、うっすらした褐色肌に幼さ残る顔立ち。
間違いなく葬火刃子本人、ついに帰還したのだ。
「やっと帰って来れた?……ってか、身体が痛い…」
「刃子ッ!!」
「ん?…さ、殺夜… ひ、久しぶり…」
キャハハ…さぁ、お化け屋敷もそろそろ終演だな…
予期せぬ事態は起こったが…
それも計画の内だったって事にしておくか…キヒヒ
最終的には言い様になったんだからよ。
最後に残る主犯とも言える悪魔はこの時を待っていた。
悪霊を使い、混乱を呼び寄せた悪魔の目的。
それは…
「葬火…刃子ッ!」
突如としてこちらに走り抜けて来る男性は刃子を睨む。
「お前はッ!!記憶にあるぞ!ずっとウチを見てた!己刃を蹴り飛ばした!悪い男ッ!!こんどこそ!解ッ!」
手元に存在していた漆黒の手持ちケースは各部品へと散らばり彼女の右手に終結。ガントレットへと変化。
[起動…本人確認及ビログインニ成功シマシタ。イザ出陣デス。ゴ主人サマ]
しかし、立ち向かおうにも足がまともに動かない。
「痛!…」
迫り来る男の駆け足はただの人間が出せる早さでは無い。
まるで猛獣の様な気迫を感じさせる走りだ。
最中一瞬の内に二人の距離は1メートルを切り睨み合う目線は手の届く距離にまで至るが。
男はここで目線を再び前へと戻し、何故か刃子を横切っていったのだ。
「な、なんで!…」
振り向いた刃子は見てしまった。
己刃を地面に押さえ付ける男の姿を…
「……ッ!!」
訳が分からぬまま刃子は袖から取り出した注射器を
ガントレットへ注入。
[スキャン中…魂ノ認識ニ成功シマシタ。適合率95%…自信ノ肉体ト共鳴サセマスカ?]
「早くッ!!」
[了解。許可ヲ確認…『ひきこさん』ノ力ヲ解放シマス。衝撃ニ備エテ下サイ。]
この時のウチは無我夢中だった。
痛みがほとばしる身体を無理やり捻り拳を構えたんだ
全部コイツのせいだ。この男が全部悪いんだ
コイツがいなければ…普通に試験ができたんだ。
全部…全部全部全部全部全部!コイツが!…
[5…4…3…2…1…解放シマスッ!]
「己刃から離れろーッ!!…」
「やめろッ!!葬火刃子!」
男は片手を刃子に付き出し止まるよう指示を促すも、そんな指示を聞く筈もない。
「消し飛ぶんッ…だぁぁぁああああッ!!!」
しかし、目前でスーツを纏った複数の男女が刃子へとしがみつき、行動を制限
動きを止めたのだ。
空振った力は爆風を巻き起こし建物を軽く揺らす。
「離せ…!!なぜ止めるのだ!!…殺夜!!…己刃が!…」
殺夜はその場を動こうとしたが
それを橘花が止めに入る
「間に合ったかお前ら、そのまま葬火刃子を捕まえてろ。いいな」
「分かりました…が、早めに頼みますよ…力が凄すぎて5人掛かりでも持ちません…」
すると謎の男は己刃を更に強く押さえ込んだ。
「た、助けて!刃子さんッ!!」
「無駄な演技は止めろ…グール・ホープだと?その部隊を語るなんざいい根性してやがる」
「ぼ、僕は正真正銘グール・ホープだ…!」
「確かに…手の込んだ偽造だったな、この場においては誰もがお前をグール・ホープだと思ってるさ…だがな俺の部隊だ…お前なんざ見たことない」
「キヒヒ…もう少しだったのに…」
「目的はなんだ…」
「もう少しでアイツを殺せたんだ!!連れて帰る事が出来たんだ!!」
「喋る気はあるようだな、もう一人のお仲間が別室でお待ちかねだ。行くぞ…」
「この子はどうします」
「もう離してやれ…既に意識を無くしている」
「はい…」
殺夜は意識を失いながらも座り込む刃子へ近寄り抱き締めた。
着用していたガントレットはエネルギーを失いケースへと形を戻したのだった。
被害を出してしまった今回の試験。結果はどうあれ終わりを迎えた。
「よくやってくれたな諸君。今回は長引いてしまったがこれにて終了とさせていただく」
「では我が部隊。サイレント・イージスは持ち場に戻らせていただきます川桐隊長」
「うむ。君達も良くやってくれた!所属本部へ戻りゆっくり休むといい。各隊の社長にはこちらから報告しておく」
試験に参加していた研修生全員が病院へと搬送された事実は直ぐ様世間へと広がってしまい
総本部セカイは会見を余儀なくされた。
侵入者を許してしまい、この事件を招いてしまった総本部は無論、信用のガタ落ちを免れず大打撃を受けてしまった。
もちろん秘密の多い組織な故に広がった情報は専属のマスコミにより上手く操作され事なきを得た。
「よお、川桐」
「取り調べは上手くいってるかな。鎖壁さん」
「ぼちぼちってところだな」
鎖壁狼我。【血統】フェンリル
霊撃部隊グール・ホープの社長兼総本部役員
「あの時は君が居て助かったよ」
「たまたまだ。うちには滅多に新人なんて入らないからな…どんなモノか確かめたくなったんだよ」
「最初から気づいてた訳?犯人」
「あの山城己刃って奴は受付ロビーから殺気満載であの子を見ていた。怪しいと思ったよ…案の定資料をみりゃあ偽装の嵐だ、そこから俺は葬火刃子を監視していた」
「なぜあの子を?山城己刃じゃなく」
「基本だろ、守る方を監視するのは」
「貴方らしいな…なんで黙ってた」
「ふんっ…蹴り飛ばした時点で本性を現すかと思ったらアイツ…あの年でなかなかの仕事人だ…偽装も完璧だった」
「まさか…気に入ったから…とか言わないよな」
「さーね、ついでにもう一人の暁永久だが。セカイのあちこちをいじくり回して機能停止させたのは奴だ。一時的とは言え総本部のシステムを停めやがったんだぜ」
「まさか鎖壁さん…その子も…」
「とりあえずだ。聞かなきゃならない事は山ほどある…じゃーな」
「相手の素性は知り得ない…油断しないように」
「俺はお前らより鼻が効く、奴等が何を考えようが無意味なのさ」
その日、刃子が病院に運ばれた事を知ったゴースト・スピリッツは社長総出で彼女の病室へと押し掛けた
しばらく仕事には出られそうになかったが命に別状は無く
大人しくしていれば回復するとの事だった。
殺夜は自分がいながらとメンバー達に謝罪
しかしそれを責める者など居る筈もない
刃子でさえ震える手を付きだしグッドサインを見せた。
殺夜は弱る刃子を見つめながらあの言葉を思い出していた。
『殺夜、ちょっといいか』
『橘花さん…』
『なんだ?もうリーダーとは言ってくれんのか』
『今のリーダーは光莉ですから…』
『相変わらず真面目だな…』
『私は…』
『後輩が怖くなったか?』
『い、いえ!…ただ…あの子を傷付けただけで…私は何もできませんでした…』
『誰がやっても結果は同じだったさ。自分を責めるな』
『…………っ』
『なら、傷つけた分…守ってやればいいだろ。お前が今あの子にしてやれる事は限られてる。立派に育ててやれよ頼れる先輩』
傷つけた分、守る。
その気持ちを胸に殺夜は刃子の手を握った。
「焼茨様…どーやら失敗した模様です」
「あぁ、その情報は耳に入ってるさ」
「彼はどうします、向こうの手に渡ってしまった訳ですが」
「吸血の血なんざ腐るほど所有してる」
「いえ…その事では…」
「心配ない、大事な部分の記憶は頭に埋めたチップで消去済みだ。喋りはしない」
「そーですか」
「それより君、過子を呼んで来てくれないか?」
「冗談は止めてください…私が殺されてしまいます!…」
「はぁ…仕方ないたまには出向いてやるか…何号室だったかな?」
「666号室ですが…なぜですか?」
「新たなパッセンジャーを見つけたらしくてね…どーやら重力を操るんだとか、面白そうだろ?…」
『刃子よ~…どこ行ったのじゃ~…
ん?何とか何とかゴースト・スピリッツ?なんじゃここは?
ん~…よし!ここで寝ようかの!』




