4話-見知らぬ来客-
闇は笑う。悪魔の様な笑みを浮かべ最大の機会を淡々と見つめながら。奥底で笑うのだ。
僕は君を、見ている…
僕の視線を受け入れてくれる君は…
きっと同じ真っ黒な悪魔なんだね。
「己刃なる者よ。なぜそんなに怯えとる…」
「じ、実は…脅かすのが苦手で…緊張してる…」
刃子にはその気持ちを理解する猶予があった。実際、自分もそうだからだ。お化け屋敷で驚かせる側だと分かっていても躊躇してしまう。受けが悪くスベってしまったのなら心の中でバカにされるかもしれない。もしかしたら興奮した客から殴られるかもしれない。そんな考えや心配が頭に居座り続けているからだ。
「君も…最初から出来ない人間であったか…仲間が居ることは非常に良きな事ですな」
「君もって…刃子さんも?」
「んだ、君と同じくまだ余裕を持てないのだよ」
「そっか…」
コツ…コツ…コツ…と音を立て迫り来る足音は二人の会話を遮ると同時に。緊張感ある空間へと引き戻させた。
{刃子、来ましたよ。距離20メートル…準備してください}
すると刃子は同じ場所へと潜む己刃の背に手を当て「君が先に居た。だから行くといいさ」なんと彼を優先させようとしたのだ。
{ちょっと刃子!なに言ってるんですか!ポイントを捨てる気!?}
この試験において自らポイントを捨てるなど考えられない事。それは刃子自信も十分理解していた。何せそれぞれが必死に自分をアピールし努力している中、刃子は見知らぬ研修生にチャンスを譲ろうとしているのだから
「いいの?…」
「うーむ。任せた」
「できるのかな…僕に…」
「勇気と自信を拾ってくるといいさ」
「…ありがとう」
己刃は刃子の後押しで何故だか勇気をもらった気がした。後は自信だけ。それだけを拾いに己刃は飛び出した。
「わ"あ"ーッ!」
何がダメだったかなんて僕には分からなかった。
この黒いマントに白いメイク。あからさまな吸血鬼スタイルが受け入れられなかったのかもしれない…確かにお化け屋敷でこの格好は見たことがない…おとなしくゾンビを選ぶべきだったのかな…
だってそーだろ。
試験官である男の表情は冷たくて。平常のままなんだから。
「う、うがー…」
ドスンッ!
「うぐ…!」
悪魔は笑う。血が騒ぐのだと…ほくそ笑む。
「どーした新人。手を出される事は想定にいれてただろ?それとも何か?蹴られる事は想定外だったか?」
そこで己刃は察した。
なぜ自分が痛みを感じ、膝から崩れ落ちたのかを。
「0ポイントだ。お前は怖くない」
冷たく蔑む瞳がいっそう男の薄気味悪さを漂わせる
「己刃とやら!大丈夫であるか!」
今この状況は本番でもあり得ない事ではない。この試験は常に正常運転を行っている、例え同じ仲間が蹴飛ばされようが…
「おい。この場合は退室願いの放送を視野にいれるべきなんじゃないのか?ノコノコと出て来て姿を見られたんじゃあ、お前まで用無しになるぞ。葬火…刃子…」
決して近づかず。無意味に姿を見せてはならない。
「お偉い奴。感じ悪いぞ…それに野蛮である」
「誰の為にやってると思ってるんだ?口の聞き方に気を付けろよ」
睨み合う両者の間には取り巻くものなど何もない。つまりここで何が起こっても二人次第。逆上するのも自由。謝るのも自由。立ち去るのも自由なのだ。
{刃子。移動を…}
「…………っ」
{刃子、相手はあくまでお客様です。本番でもその態度が正しいと思っているのなら貴方の考えに価値などありませんよ}
「…………難しい言葉…分かりやすく『やめろ』と言ってくれ」
刃子は己刃の肩に腕を回し抱き抱えると、ゆっくりな足取りでその場を立ち去った。
それでこそ…葬火…刃子だ…
お前は優しいなぁー…化け物のクセに…キャハハハ…
男もまた。その場を後にしたのだった。
一方。五階フロアでは。
「ついて来るな!糞ビッ◯が!」
「お嬢ちゃんのクセに言葉だけは知ってるのね」
果実と小羽が裏ルールにて、デッドヒートを繰り広げていた。狙う場所は絶好のポジション。地点X
「若さには勝てないよーだ!お・ば・さ・んッ!」
「でも足の長さでは勝ってるわよ?クス…」
大人と子供ではもちろん足の長さでのリーチが圧倒的に違う。一歩一歩が大きい小羽に果実が追い付ける訳もなく。焦りからついにやってしまった。
「こんのぉぉおッ!!重力に囚われろッ!!グラビティ・プリズンッ!!」
力の解放である。
「なっ!嘘でしょ!」
突如として出現したリンゴを模様した巨大なオーラは小羽を閉じ込め、自由を奪ってしまった。
「ざまーッ!一生そこで歳とってなー!アハハハッ!…」
炎が灯る。それは目に見える業火ではない。
「これだから…子供は!…ムカつくのよッ!」
魂に宿る激情の業火。
「妖精よ…万物を貫きて…飛べッ!フェアリー・ダイブッ!」
小羽も同様に力を解放。背からはブースターの様な光の翼がジェットの如く噴射され、自信を閉じ込めていたオーラの塊を一瞬にして消し飛ばした。
{落ち着け輝実!}
「心底落ち着いてますけどッ!」
そして空間を突き破り、その場から消失
空間から空間へと星座の形をなぞるかの様なホバリング起動に目にも止まらぬ超スピード。
「ぬおッ!…ちょっと待てぇぇッ!!」
「お先に失礼するわ。ガキんちょ!!…」
力の差は歴然だった。
ーセカイ本部・指令部ー
「まだまだ元気が有り余ってるな…」
その様子は指令部のモニターにて職員達も目にしていた。
「まったく…人に向けて力を使うなんて…考えられません!」
巨大なモニターがずらりと並び最新テクノロジーが輝きを反射させる巨大な監視ルーム
「まぁ~…怪我は無いみたいだし本人達もちゃんと考えて使ってる」
「はぁ…甘いですよ川桐さん。コーヒー入れてきます…」
「ブラックは無しな!味のストレスで記憶が飛びそうになる」
誰も気づかないのか…?間抜けなアホどもが…
目を凝らしてよ~く見てみろ…キャハハハ…
すると一部のモニターを監視していた4名の職員から奇妙なざわめき声がヒソヒソと聞こえてくるのだ。それに気づいた川桐は原因を求め4名の元まで足を運ばせた。
「どーした?何かハプニングか?」
「なにかおかしんです。隠れている筈の乙女撫子が影から姿を現しません…」
「隠れてるだけなんじゃないか?…」
「試験官が通っても反応しないんです。それに指示室の様子も見てください」
「大鎌死乃美か?…」
「ええ…なにやら焦っている様なんです」
川桐はモニターを直視し続ける。確かに何かの違和感を感じずにはいられない、そんな感情が沸き上がってくる。
「指示を出す通信の不具合でもあったとか…」
「なら、こちら側になにかしらのコンタクトを取る筈です」
死乃美の焦り方からして重大な何かが起こったのは目に見えて理解できた。その重大な何かは恐らく良くない出来事として連鎖を巻き起こす。
「本部のプロを何人か向かわせろ…今すぐにッ!」
{撫子さん!応答を求めてます!返事して!しなさいッ!}
{落ち着け大鎌死乃美。こちら本部の川桐だ。なにがあった}
説明によると。
どうやら二人は一定の位置にてポイントを確保していのだが、今から10分前。撫子の姿は『はい』と言う返事を最後に応答が無くなってしまったのだと言う。最初は通信不良か何かだと思っていたのだが、気がつくと撫子を映す小さなモニターでさへ使えなくなってしまい完全に彼女を見失ったとの事。
捜索にのり出した本部所属隊である霊撃部隊は数分後現場に到着。
彼ら達の報告はすぐさま指令部へと渡り最高のサプライズとして衝撃を与える事となってしまった。
【我々が発見に至った時には既に血まみれになった乙女撫子が暗闇の中。黒目を失い倒れていた】
「すぐに試験を中止させろッ!放送を流すんだッ!」
「ダメです!放送マイクが反応を示しません!」
問題が起きた以上ここから先、何があっても不思議ではない。第2波や第3波を想定しなければならない。
「モニターを切り替えろ!会場の地図をスタンダードから索的モードへ!精度は最大に調整!いいな!」
「了解しました!」
さ~…本当のお化け屋敷へご招待だ…
地図が示した本当の答えが今。本性を現す。
「何かが…場内をうろついている…」
川桐の頬に冷や汗が滴り落ちる
「川桐さん…ここ…本部ですよね?…」
「あぁ…だから驚いているんだ…」
ようこそ…糞虫ども…
死を味わえる刺激的なアトラクションへ…キャハハハ
そんな事件が起きているとは露知らず。いや、知るはずも無い...警報もなければ放送も無いのだから
「近くから気配を感じるわ…あのお嬢ちゃん、今来たのかしら」
試験官では無い事はすぐに分かった。何しろその気配は通常廊下からではなく、裏ルートへと繋がる背後からだったからだ。ここを通るのは研修生だけ。即ち、さっきまで競っていた相手が今遅れて到着したと考えるのが普通だろう。
「急に気配が近づいたッ!真後ろ!?」
"私ト一緒二遊ボ…オ姉チャン…"
振り向くと。そこに果実の姿は無く…
全身焼きただれたボロボロの女の子が不気味な笑みを浮かべ顔を覗かせていたのだ。
"私ト一緒二遊ボ…オ姉チャン…"
きぁぁぁぁぁああッ!!!
「なに!なに!なんの声ッ!?」
小羽が潜む地点Xから少し離れた場所、地点W。ここに息を潜ませるは落田果実。あの後、敗けを悟った彼女は地点Xを諦め
近ければ何かしらの特がついてくるだろと言う考えの元ここ地点Wを選んでいた。物影から顔を少し出し。周りを確認する果実
「誰かぶっ飛んだ才能の持ち主でもいるのか?すごい絶叫だったぞ…」
薄明かりが灯る不気味な廊下。今にでも本物の幽霊が突き当たりから姿を現しそうな雰囲気だ。しかし、そこに姿を現したのは幽霊ではなく
「ん?…あれは~…ビッ○女!?」
「お、お嬢ちゃん!?こんな所に!!」
全力で逃げてきた輝実小羽であった。
「次はここを奪うつもりだな!?私は絶対に離れないぞ!」
「なら…あれと同席する勇気が貴方にあるのかしら?…」
点滅しだす蛍光灯。点いては消えるを繰り返す中でゆらゆらと歩く姿はまさにホラー映画のワンシーン。笑みを絶やさずボロボロの体を無理やり動かす女の子は機械仕掛けの人形かの様にぎこちない。
"私ト一緒二遊ボ…オ姉チャン…"
「お、おい…何だよ…あれ…妹か何かか?…一緒に遊ぼうって言ってるぞ…遊んで来いよ…」
「バ、バカ言わないで…私は…ひ、一人っ子よ…」
二人が恐怖するのも無理は無い。何せ霊撃部隊と言っても入りたてホヤホヤの超素人。特別な能力を持ちあわせようが怖い物は脳が否定出来ない。
「...じゃっ、私はお先に…一抜けたぁぁぁぁあッ!!」
「ちょっと待って!置いてかないでよーッ!!」
そこで二人が取った行動。全力逃走。
「てかっ!なにあれッ!第二試験始まってたっけ!?幽霊役痛め付けてポイントゲットすればいいのか!?」
「違うわよッ!完全に生気を感じられない!本物の幽霊よッ!」
んなぁぁぁぁぁあああッ!!!




