1話-弾丸少女-
「よ…呼び戻したぁぁぁあッ!?」
「光莉くんさ~、これで何人目だと思ってるの~。一席空いてるんだからそろそろ新人さんをだね~・・・」
光莉と向かい合うは『霊撃部隊ゴーストスピリッツ』社長。『宴魔鉄男』。あの世にて地獄行きか天国行きかを判決する閻魔の血を引いている男。しかし、閻魔の血族に似合わずおっとりとした優しい性格故に何かとメンバー達の無理な要望を仕方なく許してしまう節がある。
「訳の分からない子はウチにはいりません!そもそも社長は彼女のプロフィールを拝見なさったんですか?」
【名前】八尺囮刃子
【年齢】15歳
【血統】八尺様
【能力】不明
【趣味】不明
【資格】不明
【短所】不明
【長所】不明
【自己アピール】不明
「名前。年齢。血統!それ以外空白なんですよ?!やる気が感じられません!」
「ぼ、僕だって見ましたとも!プロフィールくらい・・・」
「ハァ…しかしまぁ、呼び戻してしまった以上は仕方ありません。1日だけ。この1日で彼女の素質を見極めます。もし無いと私が判断したら・・・即刻帰らせますからね!」
「は、はい・・・」
X月X日。時間は午前7時を刻む。
「あっ!刃子!忘れ物よ!」
都会には珍しく大自然広がる敷地のど真ん中に彼女の自宅は存在していた。なんとその敷地面積は半径数十キロメートルにも及ぶ大高原。一族でさへ全てを把握する者は居るか居ないか沙汰かではないと言われている程だ。
「ありがっとマァマ。んじゃ、行ってくるのであります」
「うん。がんばってきなさい!」
玄関を抜けた先に待つ社会は人として必要な人材か必要ない人材かの二択のみ。この仕事の案内状が家に届いた時から刃子は思っていた。自分はここで必要になる存在だと。
「大丈夫かしらあの子・・・ついには言葉もちゃんと使えないまま育っちゃったし・・・お母さん心配だわ~・・・。あっ!今日は朝から安売りの特売があるんだったわね!急いで準備しなきゃ!夜はお祝いになりそうね」
自宅から徒歩6時間。これは決して家から仕事場までの時間を表しているものではない。そう、敷地を抜けるまでに要求される時間だ。常人ならば車を用意しても呆れ果てる距離だが、彼女の場合。
「遅刻は不味い。とても美味しくない。うむっ、使うしかないのだ」
敷地を突破するのに要した時間、たったの10分。一方で、霊撃部隊ゴースト・スピリットでは刃子の存在が噂になっていた。
「今日から新しいルーキーが来るらしいな!リーダー!」
見るからにサバサバとした性格でノリの良さげなスポーティー少女。名を『星空奏』【血統・織姫と彦星】。当時、裏の界隈で最凶と謳われた暴走族チーム・龍星軍の元総長で、現役時代には百戦錬磨の伝説を掲げ他のチームとの抗争を繰り返し暴れ回っていた。だが、彼女の一族だけに訪れるとされる運命『別れの儀』により親友を失った事で後に自分と同じ運命を血族に辿らせない為にその力で天ノ川を断ち切った。
「八尺様ってなんですの?何処の田舎者ですのよ」
お嬢様のような風貌と異質な輝きを宿らせる瞳を持つ自信家な少女。名を『セーナル・ルシファー・神子十』【血統・大天使ルシファー】。童顔と低身長がコンプレックスな超大富豪の娘。その瞳は全てを見通すと言われており、血統の中でも人間に扮したルシファーに容姿が酷似している事からルシファーの再来とも言われている。能力だけなら実力はナンバー2との呼び声も高い。
「私も聞いた事が無い。古い文献にも名前すら載っていなかった・・・詐称?詐欺?なんなのコレ」
キリッとした顔立ちに威圧感を与える眼鏡がトレードマークな組織の風紀委員的存在。そして、何処か殺伐としたオーラで危険な雰囲気を漂わせる少女。名を『霧咲殺夜』【血統・切り裂きジャック】。頭脳明晰の裏に殺意ありと言われる彼女は血統の中でも1~2位を争う程の頭脳を持っているとされており、頭もさる事ながら殺人鬼の才能はジャックの血を一番受け継いでいるとも言われている。
「唯一分かっているのは名前と血統、それに年齢。後は実家が馬鹿デカイ事くらいね」
ポニーテール姿が皆の信頼を集めるメンバーのリーダー。名を『安倍光莉』【血統・安倍晴明】彼女は彼の有名なあの安倍晴明の子孫であり血統の中でもずば抜けて陰陽術の才能に長けている少女である。その力はリーダーにふさわしく絶大で、お札一枚でもあれば一般陰陽師200人分と同等の力を出せると言われている。
「まあまあ諸君!今日もファイトな1日にしようじゃないか!」
最後にゴースト・スピリッツの運営、社長を務める男『宴魔鉄男』【血統・閻魔様】。
そんな個性的な者たちが集まる社長室にて今、ノックが響き渡る。
「おっ!来たかね。入りなさい」
社長改め鉄男がそう呼び掛けると、ドアを開けて姿を現したのは秘書兼マネージャーを務めるスーツ姿の美しい女性。
「失礼します。社長」
火翼飛鳥【血統・鳳凰】。社長の秘書にしてメンバーたちのマネージャーを共に受け持つ女性。その素性は謎に満ち溢れており、彼女の本性は鉄男しか知らない。
「八尺囮刃子さんをお連れしました」
飛鳥に連れられおどおどしく出てきたのは今日1日お試しで働く事となった八尺囮刃子【血統・八尺様】。彼女の素性も又、謎だらけでありまだ誰もその本性を知らない。それ故に皆の視線は一気に刃子へと集中する。
「こ、こんちわ・・・です」
訪れる静寂。中でも殺夜と光莉の視線だけは歓迎とは程遠い疑いの目を浮かべていた。
「よぉルーキーっ!そんな緊張すんなって!可愛い顔が台無しだぜ?俺は奏ってんだ。よろしくな!」
そこへ、何のお構いも無しに刃子へと近付きその肩に腕を回して笑顔を見せる者がいた。奏である。
「うっ…痛いっちゃ・・・」
「おっ、すまねぇすまねぇ。まぁ、気楽に行こうぜルーキー!」
今度はそれに続くようにして神子十が刃子の前へと立ちはだかる。
「貴方!この私!セーナル・ルシファー・神子十が貴方より年下で身長が低いからって偉そうにしない事ですわよ!ここでは力が序列を決めますの!オリジンに「様」がついてるからって調子にのらないでくださいましね!」
「・・・偉そうに」
「今、何かおっしゃって?」
「もうその辺でいいでしょ、二人とも。社長の前よ」
鉄男の一咳き。閻魔の気迫がメンバー達の表情を一変させ礼儀正しく横並びに姿勢を正させる。
「今回は刃子くんを入れた5人で仕事をしてもらう。場所は『サマーデイズランド』のお化け屋敷だ。運営側からの依頼としは幽霊役の不足で人員を派遣してほしいとだけ聞いてはいるが・・・分かっているね?油断は禁物だ。何かあれば光莉くん、頼んだぞ」
「はい。お任せください」
彼女たちの表情は確かに真剣だった。でも、不思議とウチには不気味に笑ってるように見えて仕方がなかったんだ。血が騒ぐのだろうか。恐らくはそうだ。力を使いたくて、見せびらかせたくてうずうずしている筈なのだ。何せ、人間が持つにはどんなブランド品よりも一級品の持ち物なのだから・・・。現場には特別なバスで向かうとの事らしい。少人数にしては無駄に大きなバスだ。神子十って人はウチの隣に座ってひたすら客の怖がらせ方をレクチャーしてくる。
「顔はこうですわよ!恨めしい感じを全面に出すの!ハイ、こう!」
これが又全然怖いと思わない。
「のろのろしてたってダメだろ神子十!勢いがなくちゃさ!ウガーッ!って感じでやんだよ!」
そしたら今度は後ろの席だ。奏って人が背もたれに乗り出してきてアレやコレやと絡んでくる。初日から先輩にこんな事を思うのもアレだけど、結構うっとうしい。それに比べてあの二人は異常に大人しくウチに興味すら無い感じだ。けど、ちょいちょいこっちを見てくるのは何故なのだろうか。
「ちょっと奏!今私が教えてるの!邪魔しないでくださいまし!」
「いいじゃねぇかよ神子十ォ。俺も寄せてくれってぇ!」
午前9時。そうこうしている内に彼女たちは現場である『サマーデイズランド』へと到着した。
「結構でけぇ遊園地だな!てか…あっつーッ!」
「ですわね…息苦しいですわ・・・」
現在の気温は30度。体感温度はそれよりも上な筈だ。おそらく真夏の昼間ともなれば更に気温は上々。とは言え30度。トランクに入れていた荷物が心配なところだ。何せウチの荷物は熱に若干弱い。
「準備は良いわね。じゃっ、行くわよ」
各々が持参した荷物を手に取り向かった先は人目にもつかない場所に建てられた事務所。
「失礼します。今回、依頼を承りましたゴースト・スピリットのリーダー、安倍光莉です」
「ちーっス。ゴースト・スピリット、星空奏。どうも」
「ごきげんよう。ゴースト・スピリット、セーナル・ルシファー・神子十ですわ。どうぞ良しなに」
「初めまして。ゴーストスピリット、霧咲殺夜です。よろしくお願いします」
「こんちゃ。お化け隊、八尺囮刃子なる者だ。え~っ…まいど」
沈黙を招いてしまった。だってゴースト・スピリットって何か長いし言いにくいしちょっと恥ずかしい。わざわざ横文字で言わなくてもいいのに・・・正直そう思った。
「す、すいません…何分新人な者で・・・っ!」
やだなんかめっちゃ見てくる。あんな怖い顔するんだ・・・なんの血統か知らないけど何かしらの力で滅せられそう。
「ん"ん"っ!・・・では、気を取り直して現場での状況を兼ねた打ち合わせをお願いしても宜しいでしょうか」
差し出されたのはお化け屋敷内部の地形図。それがテーブルの上にデカデカと広げられた。サマーデイズランドの規模からして妥当な金額をつぎ込んでつくられたアトラクションだ。いや、一からつくられたと言うよりも・・・。
「なるほど。廃病院を改装したと言うことですか」
どうやら元の原型を残しつつ、場内のルートだけを少しだけいじりそのままお化け屋敷にしたというまさに天然お化け屋敷らしい。
「これクリアした奴いんのかよ・・・」
奏のいう通りだ。名物のアトラクションとはいっても5階建ての巨大な建造物だ。運営側が首を横に降るしかないのも頷ける。
「では、いつものでいきますか。リーダー」
「そうね。後は八尺囮さんを何処に配置するか・・・」
「それなら神子十が適任じゃない?」
「な、なんで私が!」
「あら、てっきり気に入ってると思ってたけど?貴方にとっては初めての後輩だし」
「後輩・・・し、仕方ないですわね」
「満更でもないなら任せたわよ」
出された指示は以下の通りだ。殺夜が監視室にてメンバー全員を監視カメラで見張り行動のサポートを。光莉は受付で怪しいモノの侵入がないかを監視。奏は客が真っ先に通るであろう一階の廊下にてスタンバイ。刃子は体験者謙素人である為、四階の廊下にてスタンバイ。神子十も付き添いで同じく四階へとスタンバイする。何かトラブルがあれば各自に支給されたイヤホン式通信機から殺夜の指示が飛ぶ仕組みだ。無論、こちら側からでも報告は可能という訳だ。いよいよ遊園地の入場のサイレンが待機している大勢の人々を招き入れる時間だ。いざ、仕事開始だ。
「(おっ!早速来やがったな。ゴースト・スピリットの最新技術で造り上げた特殊メイクとギミックを味わいやがれ!)」
男女のカップルが二人、一階の廊下を暗闇の中歩く。この空間では男が主導権を握り、大いに強がる事が出来る。ここで頼もしい姿勢を恋人に示せばポイントは高い。しかし、運悪く今回に限ってゴースト・スピリットがこの現場を支配している。彼女たちの主なモットー。それは意地でも客をクリアさせない事。だが、そのモットーもここではそもそも意味をなさない。ならば、今までにない程の絶叫を味わってもらうのが得策だろう。
「こ…怖いよォ・・・」
「だ、大丈夫だって!俺がついてるから!」
そこにカラカラカラ…と不気味な音を立てながら暗闇にて姿を現す車椅子。と、そこに座り込む髪の長い女。
「きゃっ!だ…誰っ!?」
「ハハッ。な、何だよ…意外とクオリティー高いじゃねぇの・・・」
その女はただただ顔をじっとうつむかせ、カップル目掛けてゆっくりと車輪を進ませる。錆びた部品が擦れ合い出る奇怪な音が又薄気味悪く恐怖心を煽って行く。
「やだ…こっちに来るわよ?!ねぇ、早く行こうよ!」
すると、残り数メートルまで互いの距離が縮まったところで車椅子は停止。女が顔を上げ始めると同時に二人は固唾を飲んだ。その顔は絶妙なラインで人の形を保った中年女性のようで、真っ青な顔色に痛々しい程に捲れたズタボロの皮膚。それが叫びと共に頭だけを浮遊させて飛んでくるのだからカップルは絶叫。完全なるトラウマレベルで初動からのリタイアを余儀なくされた。
「一丁上がり!やっぱ勢いだよな」
そんなカップルを見送った奏は車椅子のまま元の場所へと帰って行くのだった。入場する客は次々と奏の迫力に敢え無く撃沈されて行くが、一方でそこを突破する猛者達も増え始めていた、その頃。
「来ましたわよ刃子。まずは私が出ます」
神子十が扮するはナース姿のゾンビ。相手は男女の4人グループだ。
「あ"ぁ"ぁ"~…(さぁ、逃げなさい!恐怖しなさい!阿鼻叫喚を叫びなさいな!)」
「・・・なに君!可愛いねー!」
「あ"ぁ"ぁ"~・・・へっ?」
「おっ!本当だ!俺、いけっかも」
「あっ…いや…その・・・」
チャラ男二人に何故か照れ出す神子十。
「ゾンビにもナンパとかウケるー」
「ちょっとやめなよー。ゾンビちゃんが困ってんじゃんか~。クスクスっ」
結局、何も出来ずじまいで神子十は刃子の元へと帰還した。
「あのさ、神子十とやら。程度がそれだから素人のウチと一緒にされたのではあるまいか?」
「じっ、冗談じゃない!バカ言わないでよ!ほ、ほら!次は貴方の番よ!」
はっきり言ってウチには自信が無かった。人の驚かし方なんて知らないし、勢い余って殴られでもしたら最悪だ。最初は皆そうだと言うかもしれないが、出来る人はある程度最初から出来ると思う。というかこの如何にもな白いワンピースに三角頭巾はどうにかならないものか。
次なる相手は見るからに女子高生な二人組み。呼吸を整え、いざ出陣。
「うらめしや~・・・」
清々しい程のド直球。なんのひねりも無い『うらめしや』が炸裂した。
「きゃぁぁぁあッ!!!」
世界初ではなかろうか。こんなありきたりなセリフで客をリタイアさせたお化け役は。しかも逃げていったあの客は少なくとも奏を突破してきた猛者の部類だ。なのにも関わらずこの結果。
「や、やるじゃない・・・」
するとその時、監視室に待機していた殺夜から突如として全員の耳に通信が入った。どうやら奏の様子に異変が起きたのだと言う。
「こちら光莉。奏に異変?どう言う事?」
《何かに向かって叫んでる。相手の姿は角度的に確認できないわ。客とのトラブル?通信も途切れて状況把握不可》
「(よりにもよって奏が?)…それは考え難いわね。分かった、取り敢えず八尺囮さんはその場で待機。神子十は奏の様子を見て来てちょうだい。何かあったら直ぐに連絡、いいわね」
「了解しましたわ」
そこへ又しても通信が入る。
《こちら殺夜。奏との通信が復旧した。繋ぎます》
「こちら奏だ!」
「奏、現在の状況を報告して。一応、神子十をそっちに向かわせたけど、一体何があったの?」
「出やがった!かなりの大物だ!」
「まさかそれって・・・あり得ない!私が入り口にいる以上、奴らは入ってこれない筈!」
「ちげぇよ!元から中に居やがったんだよ!壁に違和感があったから何気なく至る所を捲ってみたら一面お札だらけだ!この建物、ルートを確保しただけでお清めも除霊もしてないブラックお化け屋敷だ!」
奏の通信はこれを最後に途絶えてしまい、監視カメラからも姿を消してしまった。
《ダメ。反応消失・・・見失った》
「仕方ないわね。殺夜はそのまま神子十にルートの指示をお願い」
《了解。》
要望通り殺夜は神子十に指示を飛ばし彼女を走らせる。だが、未だに客は何も知らず出口を求め建物内をさ迷っている。出来事を悟られず秘密裏に行動するには客との接触はもちろん、他の従業員にも悟られず裏のルートを選択せざる終えなかった。
《そこ、左》
「次ッ!」
《階段を下って右》
「次ッ!」
《二つ目の曲がり角を左》
「次ッ!」
《ナースステーションが見えたら道なりに右。そこが事件の発生源と思われる場所よ》
「遅くなりましたわ。奏!何処ですの?!」
《落ち着きなさい。貴方ならこの暗闇の中でも見える筈でしょ?何が見える》
「・・・・居る!」
刹那。不気味に黒ずむ大量の腕が天井から、はた又は壁から、そして床から勢いよく神子十を掴もうと襲い掛かってきたのだ。
「くっ・・・これは!」
咄嗟に体を捻らせスタイリッシュな身のこなしでそれらを全て回避していく彼女はそんな最中でも目線を一点に集中したまま相手の正体から目を離そうとしなかった。
「確認完了。正体は悪霊化しつつある呪縛霊の女。しかも妊婦ですわ」
《分か…急…で…する…》
「通信障害?たった一体の霊に妨害を受けるなんて・・・」
その頃、ウチはどうしたらいいのかを考えていた。行くべきか。それとも様子を見るべきか。そう、客を前にして驚かせるバリエーションが既に底をついていたのだ。うらめしい気分でもないし、悩めば悩む程首が傾く・・・って、一回転させても無理なものは無理かもしれない。
「殺夜、状況報告をお願い!」
《現在、神子十が交戦中だけど、未だに奏の姿は確認できていないのが現状かしらね》
「そう・・・私も行くべきかしら?」
《ちょっと待って。私から提案なんだけど、ここで彼女を向かわせてみるっていうのはどう?》
「まさか、冗談・・・」
《もちろんリーダーも同伴でって事でいいんじゃない?客の対応は私でもできるし、なにより彼女の素質を見極めるチャンスじゃない?今日1日で見極めるんでしょ?》
「・・・いいわ、乗った。貴方がそこまでいうなら見てみようじゃない。八尺囮刃子がどこまで出来るのかを」
一方で、神子十はその力を使い攻撃の姿勢へと移る。
「大天使ルシファーの名の元に。貴方を浄化しますわッ!」
その声と共に、目の前へと突き出された手のひらからは小さな太陽の様な光球が眩い光を放ち暗闇を照らしていく。
「滅びなさいッ!『光剱・サンライト・レインッ!!』」
その光球から放たれる複数の刃はまるで太陽が地上を照らすかの如き天日の輝き。が、しかし。
「でしょうね。この程度で消滅したのなら奏がやられる筈がないのですから」
女の腹部から飛び出す巨大な赤ん坊を模様したオーラの塊がそれを阻止。彼女の全ての攻撃を喰らい尽くし無効化したのだ。
「おぎゃぁぁぁぁああああッ!!!」
「るさッ!!」
その泣き声に引き寄せられ集うは・・・。
「このお化け屋敷…本物ですわね・・・」
多数の地縛霊や浮遊霊の数々であった。そして。
「神子十とやら。出番が終わったのなら次はオイラの番ではあるまいか?」
「貴方!なんでここに?!」
呼び寄せられた者が後一名。八尺囮刃子、ここにて見参。
「うらめしい気分を知るいい機会っぽかったので来たのであるよ」
その頃、光莉は殺夜の提案の元、4階へと到着していたが。
「殺夜!八尺囮刃子が定位置にいない!どうゆうこと?!」
《怒らずに聞いてねリーダー。彼女は今、事件発生現場にいる模様。やる気みたいよ》
「んなっ!!殺夜!まさか知ってて私を遠ざけたわね?!」
《だってリーダーに手を出されたらあの子の活躍の場がないじゃない》
「ああ、もうっ!!」
刃子はアタッシュケース片手にそれを空中に放り投げ「解ッ!!」と叫んだ。すると、ケースはパズルのように分解し始め一つ一つの部品へと姿を変えていく。プラズマを発しながら同時に彼女の右腕へと装着されたそれはただの黒いアタッシュケースからガントレットへと生まれ変わったのだ。
[起動。本人確認及ビログインニ成功シマシタ。イザ出陣デス。ゴ主人サマ]
「いざっ!突撃なのでやんすっ!!」
次の瞬間、構えるガントレットの後部から青いブースターが凄まじい火力で噴射。彼女を勢いよく押し出した。そして、襲い掛かってくる霊たちをスピーディー且つアクション映画さながらの動きで次々と薙ぎ払い弾丸の如き突き進んだ。そこへ、遅れて光莉も現場に到着したが、その光景に彼女は自身の目を疑った。刃子に襲い掛かる霊は片っ端から四方八方へ吹き飛ばされ、壁や天井、地面に叩き付けられ消滅していく。もはや作業ゲーである。
「これが彼女の力なの・・・」
「口が開いてますわよ、リーダー・・・」
「あらやだ・・・」
「(さすがに容易くは近づけないか・・・うじゃうじゃと浮遊霊が沸きやがりますな。でも、こいつらはうらめしい感じじゃない。意思を持ってない?あの女に操られてるだけ?それとも・・・とりまこれで一気にお片付けナリ)」
刃子が取り出したのは機械的な注射器。それをガントレットにぶっ射し中身を注入した。
[スキャン中…魂ノ認識ニ成功シマシタ。適合率50%マデ上昇。自信ノ肉体ト共鳴サセマスカ?]
「お頼みっ」
[了解。許可ヲ確認…『ひきこさん』ノ力ヲ解放シマス。衝撃ニ備エテ下サイ。]
ガントレットはキュイーンッ…と甲高い音を響かせ蓄積されたエネルギーで火花を散らし始める。
[3…2…1…解放シマスッ]
「消し飛ぶんッ…だぁぁぁぁあああッ!!!!」
刹那。前方へと放たれた鋭い一撃は爆発的暴風となって主犯格である地縛霊を囲んでいた霊たちを一瞬で一掃した。
《信じられない・・・》
「ええ…私達も驚いてるわよ・・・」
《『ひきこさん』って超レア種族ですよ・・・なんで彼女があの力を持って・・・》
突破口が開いたところで再び別の注射器を取り出しガントレットへ注入する刃子。
[スキャン中…魂ノ認識ニ成功シマシタ。適合率25%マデ上昇。自信ノ肉体ト共鳴サセマスカ?]
「OのK」
[了解。許可ヲ確認…『メリーさん』ノ力ヲ解放シマス。足元ニ気ヲ付ケテ下サイ。]
[3…2…]
腰を落としてスタートの時を待つ。
[…1…解放シマスッ]
そして、自身を捉える全ての視界から彼女は消失。
「き、消えましたわよ?!」
否。速すぎて次元の壁を突き破り今存在している秒数という概念の間をスキップしてワープしたのだ。もはや止まることを知らない弾丸を止める術などあらず。
「さようなら。誰かの大切なお母さん」
突き出された手は女の体を貫通し、怨念に染まり掛かっていた魂だけを握り潰し消滅させた。自分の子供にも逢えず、あの世にも行けず苦しみの中さ迷っていた地縛霊は今。成仏を許され子供が待つあの世へと旅立っていったのだ。
[警告。警告。オーバーヒート発生。冷却装置ニヨルクールダウンヲ開始シマス。再度使用可能ニナルマデ約十五時間ノインターバル発生。強制ログアウトシマス]
「終わった…の?」
「みたいですわね・・・」
そこに無事生還した奏が刃子に連れられ戻ってきた。どうやら女の地縛霊に取り込まれ身動きが出来なくなっていたようだ。
「ぶねぇー…もう少しで赤ん坊に食われちまう所だった・・・って二人共どうした?」
「い、いえ、何でもないわ」
「ええ、ですわね」
「はっ?なんだ?」
《取り敢えずお疲れ様でした。これにてミッション完了。でっ、依頼の方はどうするの?まだやる?》
「それこそ冗談」
彼女たちは良からぬハプニングから受けた依頼の中止を宣言。刃子の1日体験はこれで幕をおろす事となった。光莉は運営側のずさんな管理体制に怒りが収まらなかったようで猛抗議。事情隠蔽、契約違反、危険労働。全てを問い詰め運営が用意していた報酬までも投げ返してしまった。しかし、誰一人としてそれを止める者はいなかったのだった。そして、彼女たちは夕暮れが浮かぶ空の下、ゴースト・スピリットに帰って来ていた。
「えっ、明日も来ていいのですかい?光リーダー」
「ええ、認めてあげる。新人にしてはよくやった方じゃない?力もあるし度胸もある。素質としては合格点ラインね。後はその言葉使いをどうにかできれば尚いいんだけど」
「や、やったのじゃい!」
「そうね。大抵の人間は初めて現場を目の当たりにしたら恐怖で逃げ出すか、その場から動けなくなるのが相場だし、力を持っていたとしてもそこは人なのよね。貴方はまだマシな方って訳」
「まぁ、私から言わせてみれば?驚かす技術はまだまだ現場に伴ってないですけどね。でもそこはご心配なくてよ刃子!先輩としてちゃんと私が教えて差し上げますから」
「お前・・・毎回だだスベりしてんじゃんかよ」
「何か言いまして?危うくやられかけてた奏さん!」
「んだと!アレはフェイクだフェイク!ルーキーの実力を見定める為のフリだ!」
「あらら~。ムキになっちゃって。ぐふふ」
「お前なぁ!」
光莉は最後に一言「今日はゆっくりやすんで明日は遅刻しないでちゃんと来るのよ。お疲れ様」とだけ言い残し、一人本部へと向かうのだった。
「はいさっ!」
そんな刃子を知るような口ぶりで男は言う。「いいデータが取れたよ刃子。君はまだまだ成長を続けるだろうね。あの夜、わざと逃がしてあげたんだ・・・その分、期待しているよ」と。




