気持ち
「ダメだって何でさ!? タイミングはバッチリなはずだよ!」
魔法の行方を再度確認してリッシュはオラグに顔をむける。
遠く離れた隕石に向かい二十本の魔法の後を、オラグの魔法が後を追う形になってはいるが、隕石にぶつかるタイミングで交わる事はオラグでもわかっている。
しかし、オラグはそれでも破壊にはならないし、軌道を変えることすら魔力が足りないと、魔力を使いながら思ってしまったのだ。
それが【精神の極み】で覚醒したオラグの見解だった。
「純粋に魔力が足りないんだ。このままでは破壊にはならないっ」
タイミングばかり気にしていたリッシュは魔力の量と感じようと、今度は威力に集中した。
「うそっ⋯⋯」
「くっ」
「どうするのさ? Sランクでもなければあそこまでは届かないよ。ギリギリまで引き付けて魔法を放ったら、衝撃で地上に甚大なダメージが残る」
「わかってるよ!!」
目線は巨大隕石に向けたまま、オラグは感情に任せて叫ぶ。叫んだ所で何かが変わるわけでもないとは理解していても、叫ぶ事しか出来なかった。
「っ!⋯⋯ごめん」
「いいさ、君は頑張ったんだ。僕のためにもやろうとしてくれたんだ。無理を承知でね。ありがとう」
叫んだ事で冷静さを取り戻したオラグはやはり目線は変えずに、リッシュに謝った。それを優しい声音でオラグへ感謝の気持ちを伝える。
(無理を承知で。⋯⋯っ!)
「リッシュ、まだやれることはあったよ!」
「どんなことだい?」
オラグは言葉を発する事はせず、一瞬だけリッシュを見てニコッと笑った。
「っ! ダメだよっ! それだけはダメだっ! みんなが許したって僕は絶対に許さないっ!」
オラグの笑顔で、やろうとしていることを悟ったリッシュは叫ぶ。
絶対に許さないと。
「⋯⋯ごめん。でも、ここでやらなきゃ変わらないから」
「だからって、だからって⋯⋯」
「この魔力がいつまでも続くわけじゃないんだ。俺も、そして皆も」
「なら、僕はここにいる! それは譲らない! もう決めたんだ!」
「⋯⋯」
「僕のわがままを聞いてくれるのが君の役目だろ?」
「うん。そうだね」
「千年の丘のドングリで祝杯をあげるんだらね」
「うん。そうしよう」
オラグは自身の中に眠る力を目一杯、無理やりにこじ開ける。
(これで本当に終わりにする)
「はぁっー!」
オラグを中心に魔力の渦が大きく広がっていき、その渦から猛スピードの魔法が隕石に向かって飛んでいった。
バルコニーから魔法を放ち続けている者達にもそれは確認出来た。その中でも真っ先にリーアンが叫んだ。
「オラグっ!」
「あのバカっ! 無理やり魔力を解放してやがるぞ。暴走をワザと引き起こしやがった」
「⋯⋯私、行かなかきゃ」
渦は次第に雷と炎を交互に発生させ、いつ爆発してもおかしくはない状況になる。その現象を目の辺りにしたバッシュはリーアンに叫ぶ。
「もう遅い! 今はあのバカを信じて魔法を打ち続けろ!」
「でも⋯⋯」
その瞬間、オラグを中心の魔力の渦が限界を迎え爆発を起こし、魔法の線は五倍ほどに膨張し隕石に向かって飛んでいった。
「オラグー!」