決心
王様は再度、すまん。と頭を下げ高台から姿を消した。魔法使いも武道家も護衛の兵士達も俯いたまま王様に続き高台から姿を消した。
取り残された人々は、誰も言葉を発するものはいなかった。それはそうだ、二週間あまりで世界の半分が消滅してしまう。その事を直ぐには受け入れられる者だとごく僅かだった。
空を仰ぐ者。崩れ落ちる者。その場で泣き出す者。
「被害が無い場所に避難しよう!」
「王様ならどこか安全か知ってるはずだ。教えてもらおう!」
「生きてさえいればなんとかなるはずだよ!」
現状を受け止めた人々は逃げることを選んだ。それはそうだ、自分達では何も出来ないんだから。ならば少しでも生き残れる可能性にかけるしかない。
千差万別ではあったが、人々は絶望に打ちひしがられた。ただ、一人を除いて。
「リッシュ⋯⋯。俺、やるよ」
「⋯⋯っ!?」
「きっと俺だけならこの運命を受け入れられたと思う。でもさ⋯⋯俺には君がいるんだ。君には好きなリスがいる。俺は君には幸せになってほしい!」
オラグはニコッと笑い、静かにそう伝えた。
「確かに君は強い。それは今までずっと一緒にいたからわかるよ。で、でも⋯⋯。また暴走したらどうするんだい?」
心配そうにオラグの顔を見返しながらリッシュは問いかける。
「そんなの決まってるさ。隕石で消滅して死ぬか、暴走して死ぬかなんてたいした時間の違いは無いよ」
「だとしても⋯⋯」
自分の為に無茶をしてほしくは無い。そう言いたかったが、オラグの決心した顔を見てしまったリッシュは口を閉じるしか無かった。
「わかったよ、でも僕も行くよ。良いだろ? 失敗したら結局は同じなんだ」
「⋯⋯うん、わかった」
オラグもリッシュと同じで決心した顔の前では、何を言っても聞かないだろうと納得せざる得なかった。
それでもオラグが笑っていたのは、一緒にいてくれることが嬉しかったからだろう。
そんな話しを横で項垂れながらも耳にしていたアマンダは混乱していた。
Fランクのオラグに何が出きると言うのか。Cランクの私でさえ何も出来ない。そればかりか、英雄と呼ばれるSランク十一人だって失敗に終わったんだ。
ただそれでもオラグを信じたい。何かやってくれると思える顔を見て一言だけ言葉を発するのが精一杯だった。
「⋯⋯頑張って」
「ありがと」
それだけ言うと、お城へと走り始めた。人混みをぬって走っているといつもの三人組と遭遇した。
カタバ、サナマ、ヤバダだ。
「お、おい! オラグじゃねーか、なにしてんだよ?」
「やぁ、詳しくは後ろの方にいるアマンダに聞いてくれ」
そう言いながらアマンダの方を指差して、三人組はアマンダへ任せてまたお城へ向かい走り始めた。
「おいアマンダ。アイツ焦って走って行ったけど、まさかお城へ行ったのか?」
「あんなヤツがお城へ行ったって門前払いだぜ」
「むしろ民衆に押し潰されて終わりじゃん」
そんな三人組の話しを、あの事がなければ私もそう思っていたんだろうと、クスッと笑いが込み上げた。
「今まで黙っていたけどさ。私がCランクになったばかりの時に西の森でオラグに助けられたのよ」
「はっ? なんだよそれ、そんな事があるわけないだろ。アイツはFランクだぞ」
「そうよね、私も信じられなかったわ。道に迷った私は、運悪くギャラクティカルオーガに遭遇してしまったの。その時に、たまたま通りかかったオラグがね」
「「「はっ?」」」
「ギャラクティカルオーガって言ったらAランクだって苦戦するって言われる化物たぞ」
ビックリしている三人組をほっといて、アマンダは当時を思い出しながら、簡潔に説明した。
「この事は秘密だよ。ってそう言って、たった一撃の魔法で倒したのよ。見たことも無い魔法だったから今までわからなかったけど、さっき空に放たれた魔法と同じ光だったわ」
「⋯⋯っ!」
「しかもオラグの両親は、バッシュとリーアンって言うんだから、きっと何か隠し事があったんだろうね」
「「「⋯⋯」」」
アマンダが話し終えると、四人はオラグが走り去った後に目を向けた。
「帰ってきてよね⋯⋯」