毎日の過ごし方
最後まで楽しく読んでいただければ幸いです。
ここは静かな森の中。
その森の中の開けた場所に小さな湖がある。動物だけが水呑場として利用している湖。
その畔の岩の上にオラグは目をつぶり座禅を組んでいる。
これは幼少の頃からの彼の日課だ。
「ねぇねぇ、いつまでそうしているつもりだい? ボクは飽きてしまっているよ」
そう言いながら、小さな掌でオラグのほっぺたをツンツンとしているのは、リスのリッシュだ。薄茶色の15cmほどの小動物。
オラグが幼少の時からの友達のリッシュは、オラグの思い付きの魔法によって人と話すことが出来るようになっていた。
「もう、そうやって邪魔する。俺の日課だっていつも言ってるだろ?」
「そうは言っても今日はもう三時間も座禅を組んでいるじゃないか。ボクはもうお腹ペコペコだよ。ねぇドングリを探しに行こうよ」
そう言われて、首からぶら下げている懐中時計に目を向ける。
たしかに、もう三時間も経っている。今日は凄く集中出来たと満足感に浸ると、立ち上がり背伸びをする。
「ん~、よし。じゃあドングリを探しに行こうか」
「今日のボクはいっぱい食べるから覚悟しておいてくれよ」
いつもの様に二人は森の奥へと進み、リッシュのご飯を探しに行く。
オラグは冒険者としては、最低の【Fランク】だが、この巨大な森で彼を襲おうなんて命知らずのモンスターは居やしない。
『いいかい、オラグ。お前の力は異端の力だ。決して人前で使ってはいけないよ』
父に憧れたオラグは魔法使いにも関わらず、独学で毎日訓練をしたおかげで武道家の最終奥義【精神の極み】を取得してしまっていたからだ。
「それにしてもキミの額の傷痕はいつ見てもカッコイイね」
「そんなこと無いよ。魔法使いなのに消えないほどの傷痕をつけるなんてマヌケだ~。ってよくバカにされるさ」
ドングリを探して歩きながらそんな話しをする一人と一匹。
「それは周りが見る目が無いってことだね。それにそのおかげでこうしてボクはキミと話す事が出来ているじゃないか。ボクはとっても嬉しいよ」
オラグの肩にちょこんと座りながら、リッシュはうんうんと頷きながら笑顔で伝える。
【精神の極み】とは、体内エネルギーを使う事で一時的に肉体強化出来る技である。逆に魔法使いは自然エネルギーを魔法に変える。
オラグは初めて【精神の極み】を使った時にエネルギーが暴走を起こし、九死に一生を得た結果。
暴走の後遺症として額には大きな傷痕は残ったが、奇跡的に精神エネルギーと自然エネルギーが融合したのだった。
「そういえば、森の仲間達が噂していたんだけど、千年の丘にはとっても美味しいドングリの木があるんだって」
「ちょっと遠くない?」
ここから一時間はかかるであろう場所を提案してくるリッシュに対してオラグは怪訝な顔をする。
「でも美味しいんだよ。ボクはキミを三時間も待ったんだ。一時間位はボクに付き合ってくれてもいいと思わないかい?」
「はいはい。わかりましたよー」
そんなこんなで千年の丘まで向かうのだったが、こんな何気ない日々がいつもの一人と一匹の日課だった。