砕かれた陰謀
コミックウォーカー・ニコニコ静画にてコミカライズが連載開始しました!
詳しくは活動報告にて!
「寿命を吸い上げるだって? なんてこった。あの親父、そんな非人道的なやり方で強くなってたのか。どうりで、この俺が手も足も出ないわけだ」
「阿呆が。そんな戯言を額面通りに受け取る馬鹿がどこにいる」
皇帝の人外じみた強さの真相に納得しかけた俺だったが、即座に月天丸がこちらの脛を蹴ってきた。
「要するに教団は『皇帝が民衆を食い物にしている』という悪評を立てようとしているわけか。よくある扇動の手口ではないか」
「うむ。しかし、よくある割になかなか周到な手管でな」
錬爺が月天丸に頷く。
「慈善活動の皮を被って貧民街を中心に活動していたのが、取締の遅れを招いてな。貧民街の荒くれものどもの中には、既にかなりの数の信者が出てきている」
「有象無象の信者がいくらいても、あの馬鹿親父の首には届かんだろ」
たとえ千人以上の反乱軍が相手だろうと、皇帝なら単騎で鎮圧可能だろう。
「四玄よ。貴様はやはり思慮が浅い。教団への信頼が広まった今、強引にそれを武力で捻り潰したらどうなる? 皇帝が寿命を吸い取っているなどという噂話は払拭できず、長く根を引くことになってしまう」
「心配性だな錬爺は。どうせ事実無根なんだから、放っといていいんじゃねえのか? 仙人がどうたらっていう荒唐無稽な話で治世が揺らいだりしないだろ」
「そんな荒唐無稽な話をほとんど信じていた貴様がそれを言うか……?」
月天丸が呆れたような薄めでこちらを見てくる。
錬爺はそこで大きくため息をついた。
「荒唐無稽とは言うがな。あの皇帝の強さも十分に荒唐無稽なのだ」
「なんだよいまさら。そんなこと嫌ってほど知ってるっての」
「よく考えろ。普通の人間は槍で突かれたり毒を盛られたりしたら死ぬ。火口に落ちても自力で這い上ってくる奴なぞ、儂はあの男以外に知らん」
「はっ、俺だっていつかはそのくらい……」
「おい待て。あの皇帝は溶岩でも死なんのか?」
ぐいぐいと月天丸が俺の服を引っ張ってくる。どうやら初耳だったらしい。
「ああ。若い頃に無茶やったらしい。『ちょっと死ぬかと思った』とは言ってたな……」
「なぜちょっとで済む」
「もとが荒唐無稽な強さなのだ。それを説明する理屈が荒唐無稽でも、誰もおかしいとは思わん」
おまけに、その説を唱える教団の幹部もなかなかの実力者ときている。大岩を割ってみせた芸にも、妙な小細工はなさそうだった。
錬爺は机上に置いた秘伝図を叩く。
「もしこの先、凶作や疫病で治世が荒れたとしよう。そのとき『皇帝が城下の民衆から寿命を吸っている』という説がまだ残っていれば、皇帝の力を削ぐために都を破壊したり火を放つ者すら出てくるかもしれん」
教団の図柄に基づくなら、この都と宮廷は『皇帝に力を捧げるため』の構造となっている。破壊すれば皇帝の力は失われる――という理屈は筋が通る。実際は少しも弱体化しないだろうが。
「教団を潰すのは容易くとも、噂を消すのは容易でないということか。どうするのだ?」
「教団の偉いさんでも締め上げて土下座させりゃいいのか?」
「だからそういう力ずくは逆効果だと言っておろうに」
「秘密裏にやればいいだろ」
俺と月天丸が言い合う中、錬爺はふむと髭を撫で、それから頭を掻いた。
「……要するに民衆が持つ奴らへの信頼を壊してしまえばいいのだが、気乗りせんな」
「ぬ、どういうことだご老人? よほど悪辣な策なのか?」
錬爺は老獪なる策士だ。敵を討つためには清濁を併せ呑む。その錬爺をして躊躇せしめるほどの策が必要だというのか。
「もし汚れ仕事になるなら俺がやるぜ錬爺。そういう汚れを働いておけば次期皇帝の指名から逃れやすいしな」
「この期に及んで貴様は」
錬爺はしばらく沈黙してから、ため息のように続けた。
「……ああ、まさしく汚れ仕事だ。とても皇子たるお前に投げられる仕事ではない」
「水臭いこと言うなよ錬爺。俺は力になりたいんだ」
「やめておけ馬鹿め。しかし老人、もし必要なら私も力を貸すぞ。隠れて仕事をするのは得意だしな」
錬爺は俺たちの申し出を断るように首を振った。
「いいや。不要だ。もはやこの件は片付いたも同然だからな。これ以上、お前たちは余計な手出しをしてくれるな」
―――――――――……
数日後。
すっかり教団の件を忘れて悠々自適の日々を送っていた俺は、信じがたいものを見た。
「まっ、待ちなさい! 私は何もやましいことはしていませんよ! いったいどのような罪状で私を連行するというのですか!」
それは、宮中の審問所に連行されていく孔雀男と――
「バレちゃ仕方ないわね! そうよ! 確かにあたしは法外な値段で壺とか巻物を売りまくったわよ! だけど全部この孔雀男の指示だからね!」
「僕もです! 信者の若い女性に迫ったことは事実ですが、すべては教団からの指示だったのです! あらゆる責任は教団にあります!」
「なんかよく分かんねえがオレは逮捕にゃ慣れてんぜ!」
見覚えのある教団の幹部の――馬鹿三名だった。




