隠された意味
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「要するに……もうとっくに俺たちの目論見は達成されてたってことだよな」
こんな偶然があるだろうか。
仙人化の秘伝。気力を集めるための陣が、奇しくも都の構造と一致していたとは。
皇帝が持つあの超人じみた力は、まさしく仙人の力だったというわけだ。もしかすると俺たち皇子にもその恩恵があったのかもしれない。
「それじゃ祝杯といこうぜ月天丸」
「待て。何の祝杯だ」
撤収して舞い戻ったのは月天丸の根城の廃墟である。
廃墟の戸棚に放置してあった釜で茶を沸かし、祝いの席としたかったが月天丸の顔に喜色はない。
「何の祝杯って『親父がもう既に不老不死でした記念』の祝杯だよ。これで俺たちは死ぬまで働かずに皇子の身分で遊び暮らせるわけだ。祝うしかないだろ」
最近、月天丸も何かと皇位継承を嫌がって反抗気味だった。そんな彼女にとっても皇帝が仙人だったという事実は吉報のはずだ。なんせ永久に馬車馬として働いてくれることが確定したのだから。
「あのな貴様。本気であんな与太話を信じているのか?」
「あのくらい思い切った理屈じゃないと、あのクソ親父の強さに説明が付かん」
「冷静になれ。あれが正しいのだったら、皇帝や貴様らだけではなく宮中の兵士やら使用人やらも皆が強くなっていなければおかしいではないか」
ふぅむ、と俺は唸る。
「たぶん適性とかがあるんだろう。細かいことは気にするな」
「仮にそうだとしてもやっぱり辻褄は合わんぞ」
「何がだ?」
「貴様の存在がだ」
そう言って月天丸はびしりと俺を指差す。
「皇帝や他の兄姉たちは『宮廷育ちで仙人の適性がある』という理屈で済むかもしれん。しかし貴様は、宮廷で暮らし始める前から強かったのだろう?」
「なんだそんなことか。単に俺が宮廷の特殊な立地に関係なく天才っていうだけだろ」
「……相変わらず自信だけは一丁前だな貴様」
俺が兄姉たちより優秀なのは厳然たる事実なのだから仕方ない。
いいや、純粋な才能でいえば皇帝にだって負ける気はしない。おそらく俺が今まで太刀打ちできなかったのは、皇帝の玉座が宮廷の中心のさらに中心だからだろう。浴びる気力の量で俺との才能差を埋めているわけだ。そうに違いない。
化物のように思えていた皇帝も、こうして強さのカラクリが分かればただの中年だ。
と、月天丸がしかめっ面で窓の外を眺める。
「しかし兄姉たちはよかったのか? あのまま教団に残るようだったが」
「構わないだろ。何かあってもやられる奴らじゃない」
「身の安全は毛ほども心配しておらん。教団を乗っ取ってインチキ商売を始めたり、信者に手を出そうとするような魂胆だったろう。あんな犯罪行為を放置していていいのか?」
「心配するな」
俺はぽんと月天丸の肩を叩く。
「今までの俺だったら殴ってでもあいつらを止めただろう。宗教インチキ商法になんて手を染めたら、皇帝候補から脱落待ったなしだからな。だが、皇帝が死なないと分かった今は話が別だ。あいつらが勝手に名声を落としていくのを止める理由はない」
「そういう話ではない」
他の三兄姉は天性の馬鹿であるが、俺は皇位を回避すべく今まで馬鹿を演じてきただけである。
状況が変わった今となっては、奴らの馬鹿水準に合わせてやる必要はないのだ。
「それどころか、あいつらが不祥事を起こせば起こした分だけ、相対的に俺の待遇が良くなるかもしれない。いいか月天丸、ここは高見の見物と洒落込むべきだ」
「本当に腐れた性根をしているな貴様」
俺が淹れた茶に手を付けようともせず、月天丸は床から立ち上がって履物の埃を叩く。
「どこ行くんだ?」
「宮廷だ。とりあえず一連の経緯をあの錬副という老人に伝える。あの秘伝とやら……都の地図と似た図柄、どうも妙な計略がある気がしてならん」
「おお、そうだな。錬爺とか親父にも伝えとくか。兄上たちが犯罪に手を染めてるから、あいつらの宮中予算を減らして優秀な皇子の俺だけに予算を集中すべきだって」
「後継の心配がなくなった途端にやりたい放題を言うな……」
やりたい放題というわけではない。至極当然の要求だ。
本来、俺のような優秀な皇子にはあの三人とは別格の待遇が敷かれるべきなのだ。
ただ一つ、今の懸案事項といえば。
「ところで月天丸。ついこの前、親父が体調崩したのはどういう理由だと思う? 仙人なのに風邪って引くものなのか?」
「親孝行する貴様らが気色悪かったからだろう」
それなら安心だ。
あれからすぐに体調回復したのでそこまで心配はしていなかったが、もしあれが何らかの病だったら俺の計画が根本から狂うところだった。
「親父には心配かけちまったな。ちゃんと正直に『俺たちを養うため、永久に親父に働き続けて欲しかっただけなんだ』って伝えてやらないと……」
俺がそう言っているうちに、月天丸は音もなく宮廷へと出発していた。
――――――――……
「というわけなんだ錬爺」
「何が『というわけ』だ。この愚か者」
月天丸とともに衛府省の長官室を尋ねて一連の経緯を説明すると、机上の錬爺は頭を抱えた。それに同意するように、月天丸もうんうんと頷いている。
「お前たちがコソコソ動いているのは知っていたが、事もあろうに本気で不老長寿などという戯言を信じていたとは……」
「それが違うんだ錬爺。あの教団には秘伝っていうのがあってな」
俺は懐から教団秘伝の図柄が描かれた紙を取り出す。自分が潜入していたときに写したものだ。
「何を隠そう、この図柄は自然の気力を集めて――」
「その図柄なら儂も持っとる」
ぴらり、と。
俺が秘伝の内容を語る前に、まったく同じ図柄の描かれた紙片を錬爺が掲げてみせた。
「……え? どういうことだ? 錬爺もあの教団に入ってたのか?」
「馬鹿者。都で動いとる怪しい連中に、この儂が探りを入れとらんとでも思ったか」
「おお、流石だご老人。で、奴らの狙いはもう調べがついているのか?」
紙片を置き、錬爺は図柄の中の渦巻きを指差す。地図とみなせば宮廷に当たる位置だ。
「あの教団はこの図柄と都の構造が似ているのは偶然と主張しているようだ。何の関係もないと。実際、お前たちが会った幹部の男はそう言ったのだったな?」
「おう」
「だが偶然の一致というにはあまりに似すぎているだろう」
月天丸が横槍を入れると、それを制するように錬爺が掌を広げた。
「もちろん儂も分かっている。それは言い訳の逃げ道だ」
「言い訳?」
「これは『気力を吸い集める陣』といったな。気力というのがどういう定義かは知らんが、おおよそ生命力とか寿命とかそういった類のものだろう。それを踏まえてこの陣をよく見ろ」
どうだ、と錬爺は続ける。
「まるで都の住民たちから、この宮廷が寿命を吸い上げているように見えるだろう」
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