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秘伝の正体

スニーカー文庫から『最低皇子』第1巻が10月1日発売です!

ぜひよろしくお願いします!


「見せるのは構わねえけどよ、意味分かんねえ絵が描いてるだけだぞ」


 一虎が巻物を開くと、そこに記されていたのは謎の図柄である。


 格子状にいくつもの直線が引かれ、ぱっと見は戦棋の盤面のように見える。

 ただ、その上に波線や矢印、赤い渦巻きといった記号がいくつも描かれている。


「ふむ、確かによく意味の分からない絵図ですね……。何かの暗号でしょうか?」


 三龍も首を傾げる。

 俺もこっそり写したはいいものの、結局これの意味が分からず放置していたのだ。


「姉上は何か分からないか? 暗号なら得意だろう?」


 二朱を振り向くと、既に彼女は悪辣な笑みを浮かべていた。


「その顔……何か分かったんだな?」

「いいえ? あたしにもさっぱりよ。どうやらまだ秘伝を知るには修行が足りないみたいね」


 いかにも嘘くさい。

 と、月天丸が背伸びをして横から地図を覗き込んでくる。


「なんだ。これは都の地図ではないか? ずいぶん手抜きに描いているが……」

「地図?」


 俺が聞き返すと、月天丸はあっさり頷いた。


「ほれ。縦横の線は盤面状の街並みそのままだ。波線は川だな」


 言われてみれば、確かに都の形状と絵図は一致している。

 極限まで簡略化した地図というので間違いないようだ。


「よく気付いたな月天丸」

「まあ、職業柄だ。逃走経路とか考えるのに地形の把握は必須だしな」

「残念だったな姉上。いつもみたいに一人だけ訳知り顔をしたかったみたいだが、あっさり俺と月天丸が看破したぞ」

「さりげなく手柄を連名にするな」


 二朱は「はいはい」と扇をひらつかせてこちらをあしらってくる。飄々としているが、内心ではかなり悔しがっているはずだ。


 しかし地図ときたか。

 そう考えると、地図の中でもっとも意味ありげに描かれている赤い渦巻きの位置は――


 宮廷だ。


 都の中枢ともいえる場所であるから、特別扱いで描かれていることは不思議ではない。

 しかし、なぜ都の略地図が不老長寿を語る教団の秘伝の書に描かれているのだろうか。



 そのとき、俺たちの集まっている路地裏に、拍手の音が響き渡った。


「いやはや。おめでとうございます。ついに秘伝に辿り着かれたのですね」


 気配もなく路地の入口に立っていたのは教団幹部の孔雀男である。

 油断していたとはいえ、俺たちに勘付かれずここまで接近してくるとは。


「ちっ、盗んだのがバレたか。口封じするか?」


 臨戦態勢でゴキゴキと拳を鳴らし始める一虎。

 だが、孔雀男は慌てる様子もなくこちらに掌を広げてきた。


「いいえ、咎めるつもりはありません。もとよりその秘伝書は盗まれるために置いていたのですから」

「あぁ? 盗まれるため?」

「ええ。与えられる修行をただこなすだけでなく、ときには禁を犯してでも己を高めようとする向上心。それを持つ者だけにその秘伝書は与えられるのです。あなたにはその資質があったといえましょう」


 よせやい、と一虎は一転して上機嫌に照れる。

 向上心とはこの世でもっとも程遠い人種だというのに、とんだ買い被りである。同じように盗んだ俺も、既にこの世で最上級の人間であるから向上心とは無縁の存在といえるが。


「あたしたちは盗んだ主犯じゃないけど見てよかったのかしら?」

「もちろんです。あなた方はいずれも才能に満ち溢れている。遅かれ早かれ、この秘伝書を手に入れていたことでしょう……おや、杜安トアン殿も戻られたのですか」


 杜安と呼ばれて、一瞬遅れて自分のことかと思い出す。

 教団に潜入したときはこの幼名を使っていたのだった。


「ところでよ、ついでにこの秘伝書の意味も教えてくれねえか? 都の地図が描いてあるだけじゃ意味が分かんねえよ」


 多かれ少なかれ警戒する俺たちだったが、一虎だけはすっかり間抜け面である。孔雀男の肩に肘を載せ、馴れ馴れしい態度で解説まで求めている。


「……はて? 何のことやら。それは都の地図ではありませんよ」

「あ? 違うのか?」

「ええ。それは神羅万象の気力を吸い集めるための特殊な陣です。仙人となるためには通常の修行に加え、自然から莫大な気力を集めねばなりません。その陣は地に描くことで、中心に気力を吸い集めるのです」


 まったく地図などではありませんよ、と孔雀男は胡散臭く笑う。


「たまたま都と似ているとしても、それは偶然の一致でしょう。この陣は我々が研究に研究を重ねて編み出した独自の秘術ですから」

「なんだ偶然かよ。で、具体的にはどう使うんだ? ぜひ親父に使ってやりてえんだ」


 歪んだ欲望を抱えて入信した二朱と三龍と違い、一虎はまだ親孝行の精神を忘れていなかった。

 粗暴ではあるが根は純粋な男なのだ。単に馬鹿ともいうが。


 と、月天丸が呆れたようにあくびを吐く。


「なんか妙な話になってきたな……。私は興味ないしもう帰るぞ。言っても無駄だとは思うが、貴様らもあまり変なことはするなよ」

「安心してくれ。こいつらが犯罪行為に及んで皇位争奪から逃れようとするなら、俺が全力で止める」

「既に貴様ら全員が半分くらい犯罪者と思うが……まあいい」


 そのまま踵を返して帰ろうとする月天丸だったが――


 孔雀男が一虎に語る秘伝の内容を聞いてぴたりと足を止めた。



「陣の使い方は簡単ですよ。この中心の渦の位置に立ち、膨大な気力を浴びながら修行をすればいいのです。そうすれば数年で、人知を超えた力を持つ仙人に至れることでしょう」


 渦の位置は、地図でいえば宮廷に相当した。




 おそらく能天気な一虎以外の全員が、その中心に住む超人的な存在を脳裏に浮かべた。

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