ミイラ取りが
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河原は静まり返っていた。
砕けた岩の破片が散らばる音だけが僅かに響いている。
「どうだ! これで俺に不老長寿の秘訣を教えてくれるな!?」
自信満々に叫んだ俺だったが、いきなり月天丸から耳を引っ張られた。
「痛てて。何すんだ」
「本当に阿呆か貴様は。不老長寿なんてデタラメに決まっておろう。こんなところで悪目立ちしてどうする。さっさとトンズラするぞ」
「待ってくれ。とりあえずあの孔雀男の話だけでも聞いてから――」
と、そのとき。
やや遅れ気味に、河原の群衆たちがわっと歓声を上げた。さきほど孔雀男が岩を割ってみせたとき以上の熱狂と興奮である。
「いやはやこれは素晴らしい! お見それ致しました!」
歓声に混じり、孔雀男も惜しみない様子でこちらに拍手を向けてくる。
「これも縁というものでしょうか。ここまでの素質を持った方と出会えるとは」
「そうだろ? じゃあさっそく不老長寿の秘訣を――」
「いえいえ。そう焦らないでください」
ぽん、と。
やたらと馴れ馴れしい仕草で孔雀男は俺の肩に手を載せてくる。
「まず、知りたくはありませんか? あなたがなぜそのような人並み外れた力を持っているのか……その力の源泉にご興味は?」
「単に俺が天才だからじゃないのか?」
「ええ、そうですとも。あなたには森羅万象に愛される資質が備わっています。それは十分に天才と呼べるものです。他ならぬ私も」
そう言うと、孔雀男はゆっくりと足を振り上げた。
轟音。
凄まじい踏み込みの威力に地が揺れ、河原の地面には深々と孔雀男の足跡が刻まれた。
「武の嗜みなど一切ないのですが、このとおりの力を誇っています。あなたも同じでは? それだけの才をお持ちなら、生まれてから力比べで負けたことなどないでしょう」
「確かにそうだな……」
兄弟の中でも俺の才能は群を抜いている。殺す気でぶつかり合えば最後に立っているのは俺のはずだ。
皇帝については――まあいずれ抜かせばいいだけの話だ。心で敗北を認めなければ、負けたことにはならない。
「その天才は磨けばさらに光ります。その先に不老長寿という高みも見えるというもの……どうでしょう? 我々とともに神仙術を極めるつもりはありませんか? ぜひあなたを同志として我々の教団に迎え入れたい」
「神仙術?」
「ええ。森羅万象より気力を吸い集め、人を越えた神仙の力を得る技術です」
ここで月天丸が俺の尻を蹴った。
それから小声で囁いてくる。
「ほれ見ろ、やっぱりどこからどう聞いてもインチキではないか」
「落ち着け月天丸。俺だってこんな話を鵜呑みにするほど馬鹿じゃない」
「信用ならん」
月天丸は細めた目でじっと俺を睨んでくる。これまでもたびたび俺の明晰な頭脳を見せてきたというのに、この末妹はずいぶん不安症なようだ。
「九割九分の可能性でインチキだろうが、あの胡散臭い孔雀男が本当に人並み外れた力を持ってるのは事実だ。何か秘伝の薬物とかはあるのかもしれない。それをあのクソ親父に試せば不老長寿も見えてくる」
「インチキ宗教の怪しい薬を実の親に試すつもりか貴様……?」
「大丈夫だ。とりあえず一虎あたりに盛って毒見させるから」
生半可なことで死ぬ親父ではないが、労働力としての貴重な寿命を少しでも縮められては困る。安全性を確保するためには一虎の犠牲が不可欠である。医学の尊い犠牲だ。
「それに、これは絶好の潜入調査の機会だ。俺が内部に潜り込んで奴らの内情を探れば、お前の当初の目的も果たせるだろう?」
月天丸はもともと、この連中を胡散臭いと見て錬爺に調査依頼の矢文を持ち込んできたのだ。ここで俺が潜入して調べれば、そちらの目的も自ずと達成される。
「それはそうだが……本当に貴様で大丈夫か?」
「俺を信じろ。なあに心配するな。もし潜入捜査だってバレて襲われたら、そのときは連中を全員ぶっ倒せばいい。絶対無事に帰る」
「いや、貴様の身の安全については大して心配しておらんのだが……」
俺はぐっと親指を立てた。
「なら問題ないな。ざっと偵察して明後日にはお前の根城に報告しに戻るから、それまで錬爺への告げ口は控えてくれよ。まあ、告げ口しようとしても馬鹿兄姉たちが妨害してくると思うが……」
「あいつらもグルか」
ぐしゃぐしゃと月天丸が髪を掻く。
「んじゃもう好きにしろ。ただし、何の成果もなかったら今度こそあの錬副という爺に頼むからな」
「任せろ」
俺は孔雀男に向き直り、潜入捜査の自覚を持って好意的な態度を作る。
握手の手を差し出し、
「待たせて悪かった。この妹が心配性でな。でもようやく今認めてくれたよ。入信しようと思うからよろしくな」
「それは喜ばしい。妹君もご安心ください。我々の修行を終えて帰ってくる頃には、お兄様は人としてさらなる高みへ昇っていることでしょう」
「本当にもう少しマシな人間になって欲しいものだがな」
冷徹な言葉を吐き、くるりと踵を返して河原から去っていく月天丸。
この貧民街で女の一人歩きは本来感心できないが、数人の野郎連中が好色そうな視線を彼女に向けた途端、月天丸はするりと廃墟の物陰に消えた。
遮蔽物の多い場所での逃げ隠れは月天丸の得意分野だ。ああなってはもう俺ですら追跡できない。追った不埒者がいれば、忽然と消えた少女に唖然とすることだろう。
「あなたの妹君もなかなか素養がおありのようだ」
と、孔雀男が小さく呟いた。
あの一瞬の身のこなしで月天丸の素早さを見抜いたのだろうか。だとすればなかなか侮れない。
――俺も心してかからねば。
そしてこいつらの秘密をすべて暴き出してやるのだ。
―――――――――……
そして二日後。
晴れて調査を終えた俺は、約束通りに月天丸の根城を訪ねた。
無論、多大なる調査成果を携えて。
その結論からいえば、
「――聞いてくれ月天丸。どうやら俺には仙人の才能があったらしい」
月天丸の飛び蹴りが俺の顔面に突き刺さった。




