いつまでも元気で長生きしてくださいお父さん
「何よ四玄。いきなりあたしたちを呼び集めるなんて」
月天丸からの手紙で天啓を得た俺は、さっそく兄弟たちを軍議室に招集していた。月天丸は去ったまま居所が掴めなかったので、取り急ぎ一虎・二朱・三龍だけを集めた形だ。
「ったく、人の昼寝中にドタバタ呼び出しやがって。くだらねえ用事だったら承知しねえぞ」
「僕らも暇な身分ではありませんからね……」
年中暇人の兄たちが戯言を抜かしているが、いちいち相手にしてやる俺ではない。無視してさっそく本題を切り出す。
「この上なく重大な話だ、聞いてくれ。俺たちの誰も皇位を継がず、国の未来も明るくなる最高の手段を思いついた」
空気が変わった。
どこか弛緩していた軍議室の空気が、一瞬にして緊迫感で満たされる。
一虎がふんと鼻で笑う。
「そりゃ……面白そうな話じゃねえか。聞かせてみろよ」
「待ちなさい。期待は禁物よ馬鹿白髪。どうせ四玄の阿呆の発案なんだから」
すかさず二朱がそれを諌めると、三龍は眉根を指でつまんで唸った。
「その案というのは、月天丸を皇帝に据える案とは別物なのですか?」
「別だ。もちろんそっちの案も継続進行していくつもりではあるが、あいつ意外とダメなとこが……」
言いかけて俺は途中で言葉を切った。
城壁も蟻の一穴から崩壊するという。脇の甘い馬鹿兄姉たちに月天丸の致命的な秘密を漏らしては、どこで世間に耳に届くか分かったものではない。
「いや、何でもない。とにかく今回の案は月天丸を皇帝に据えるよりも確実で有効なんだ」
「で、どんな案なのよ?」
あまり期待していない風に二朱が促してくるので、俺は咳払いを挟む。
「あの親父が永久に死ななければ……つまり不老不死の身になってくれれば、俺たちの放蕩暮らしもこの国の未来もずっと保証されるとは思わないか?」
沈黙。
数秒ののち、誰もが軍議室の椅子を立って部屋の出口に歩き始めた。
「待ってくれ。なんで帰ろうとしてるんだ?」
「常識でものを考えなさいお馬鹿! 人が不老不死だなんてなれるはずないでしょうが! ああ情けないわ……うちの兄弟たちでまともな頭をしてるのは本当にあたししかいないのね……」
二朱に同調するかのように、一虎はあくびを吐き、三龍は静かに首を振っている。
やはりこの兄姉たちにはそう容易く理解されなかったか。俺は素早く出口の前に回り込んで、背に扉を貼り付ける。
「おう、どけよ四玄。オレは帰って昼寝の続きをしなきゃならねえんだ」
「相変わらず短絡的すぎるな兄上たちは。最も優秀な皇子であるこの俺が、姉上のいう『常識』とやらを考慮しなかったと思うのか?」
「あんたが優秀ってのには甚だ同意しかねるけど……どういうことかしら?」
考えてもみてくれ、と俺は指を立てる。
「確かに普通の人間にとって不老不死なんていうのは夢物語。常識外れもいいところだろう。だけどな『鋼鉄の筋肉で刀剣も火砲もすべて弾き』『フグの肝を平気で肴にするくらいあらゆる毒に耐性があり』『戦場となれば十日以上も不眠不休で動き続ける』……こんな人間が、果たして常識の範疇にいると思うか?」
俺を押しのけて軍議室から出ようとしていた三人の足並みが止まる。
一理ある、とばかりに頷いたのは三龍だ。
「なるほど。身近にいたから感覚が麻痺していましたが……確かに父上に限っては、常識で考えるのが妥当ではないかもしれませんね」
しかし一虎はまだ納得していない顔色で、
「鍛えたんじゃねえの?」
「冷静に考えてくれ虎兄。鍛えたところで世の中どうにもならないものはある。確かに虎兄も鍛えれば親父並みの鋼鉄の筋肉と耐毒は身に付くかもしれないが、不眠不休で戦い続けるのは無理だろう?」
「くっ、言われてみればそうだな……昼寝どころか夜寝も抜きで働き続けるなんて、やれるとは思わねえしやりたくもねえ……」
父に及ばぬ悔しさを噛みしめているのか、一虎は固く拳を握っている。
とりあえずこれで兄二人は説得に成功した。
最後に残った二朱は――
「……それでも不老不死なんていうのは眉唾ね。過去の歴史を紐解いても実現したなんて例は一度も聞かないわ」
「しかし姉上。あの親父なら人類史上初の超生命体になれる可能性も――」
「まあ四玄。話は最後まで聞きなさい」
ぽんと俺の肩に手を載せて二朱は微笑む。
「不老不死なんてものは実現不可能よ。だけどお父様の頑丈さを考えたら、常人の数倍……ざっと200年くらいは生きても不思議じゃないと思えてきたわ。それに世の中、不老不死なんて例はなくても親が子より長生きした例はいくらでもあるしね――いいじゃない四玄。その案乗ったわ。あたしたちが遊び呆けて一生を終えるまでの間、お父様が健康でバリバリ働けるように過ごせるようにしてあげようじゃない」
「姉上……!」
俺は姉上と力強い視線を交わし合った。
今までの策略は足の引っ張り合いだったり潰し合いだったり、少なからず周りに醜態を晒すものだった。
しかし今回のこの策は、親の健康と長寿を願うという、どこに出しても恥ずかしくない立派な親孝行である。
誰もが幸せになる謀略。知略と仁徳を兼ね備えた俺だからこそ導き出せた作戦だ。
「というわけで姉上。俺は大筋の立案を終えたから、細かい内容調整はそっちで頼む」
「ええ、どうせそうなるだろうとは思ってたわよ」
意気揚々と扇子を広げた二朱は、宮廷の玉座の方角を指し示した。そして自信満々に言う。
「長生きの秘訣は日頃の生活習慣よ。今日からあたしたち四人で、お父様の健康をしっかり監視……もとい支えていきましょう」




