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最悪の初対面


「うちの馬鹿どもが大変無礼を働いた。申し訳ない」


 騎族の一同とともに宮廷に戻った俺たち兄弟を待ち構えていたのは、皇帝による折檻だった。月天丸を除く全員が等しく脳天にゲンコツを落とされ、見せしめとして懲罰用の営倉にぶち込まれている。


「なんてこった。せっかく姫様が到着してるのに、会うこともできないのか……」

「だから言ったじゃねえか。さっき隊列に並んでるときに、強引にその中の姫を探しゃよかったんだよ」

「馬鹿言わないで。あんな状況で隊列に割り入ったりなんかしたら、宣戦布告と同じようなものよ」

「まったく。あなたたちが邪魔をしなければ、今ごろ姫と僕は結ばれていたはずだというのに……」


 普通の檻なら力技での脱走は容易だが、今の俺たちは極太の鉄柱に全身を鎖で何重にも巻きつけられている。さすがにこれだけされては脱走も難しい。


 ちなみに月天丸は、騎族たちと出くわす前にいつの間にか姿を消していた。

 この事態を予想して一人だけ逃げたとしたら、あまりにも薄情というものである。


 と、そのとき。


「ったく、何をやっとるのだ貴様らは」


 営倉の扉が開き、身を小さくかがめた月天丸がこっそりと入ってきた。


「おお! 助けに来てくれたのか!」

「しっ! 声を落とせ。今はたまたま見張りがいなかったからよかったが、いつまた戻って来るか分からん。さっさと済ませるぞ」


 そう言って月天丸が懐から取り出したのは数本の針金である。それを檻の錠前に差し込み、開錠の細工を試みている。


「いいか。今、姫君は長旅の疲れを癒すために西の離殿で休息を取っている。手土産を持って挨拶に行く絶好の機会だ」

「やるじゃねえか!」

「さすがは僕らの妹ですね……」


 一虎と三龍が次々に歓喜の声を上げる。だが、俺は不敵な笑みを浮かべて月天丸に確認を送った。


「月天丸――分かってるな?」

「……ああ。さっきはあまりに酷くて見捨てたが、とりあえず此度は貴様の手助けをする運びだからな」


 俺と月天丸は、今回の縁談計画において協力関係を結んでいる。他の三人を出し抜く絶好の機会において、わざわざ彼らの拘束を解いてやる理由はどこにもない。

 そうとも知らず、一虎と三龍は自分も解放されるものだと能天気に笑っている。


 二朱には俺たちの協力体制は既にバレている。しかし、だからといってこの状況で彼女にできることがあるとは思えない。その頭脳を活かした交渉術で解放を呼びかけてくるだろうが、安易な誘惑で寝返る月天丸ではない。


「ずいぶん四玄に肩入れするのねえ、月天丸」


 予想どおり二朱が動いた。だが問題ない。月天丸なら無視して俺の解放を続けてくれ――


 ――なかった


 声をかけられた瞬間、滝のような汗をどっと流して月天丸が針金の動きを止めたのだ。


「あら? どうしたの? 別にそのまま続けて構わないわよ?」

「か、勘違いするな。私はただ、そこの一虎や三龍と比べたらこいつの方がまだ他国へ婿にやっても問題になりにくいと判断して……これは断じて私情の問題ではなく……」


 明らかに月天丸の様子がおかしかった。二朱から妖術でもかけられたかのように、全身を硬直させて言葉を詰まらせている。


「おい月天丸! まさか、姉上に何か弱みを握られているのか!? くそ、なんてこった……! どうして俺に一言相談してくれなかったんだ!?」

「できるか馬鹿者ぉっ!」

「ああ、そうね。ちょうどいいからこの場で四玄にも相談することにしようかしら?」

「や、やめろっ!」


 二朱のこの言葉に月天丸が反論して吼える。と、その拍子に「かちゃん」と音を立てて、檻の錠前が外れる。


 ――そして月天丸は、即座に錠前をかけ直した。


「……これでよいな?」

「ええ、物分かりがいい子は好きよ。後は手を引いておとなしくしていなさい」

「すまん。私はここまでのようだ。この先は自力で頑張って婿の座を射止めてくれ」


 こちらに背を向けて月天丸が去ろうとする。二朱との間でどういう駆け引きがあったのかは分からないが、頼みの綱があっけなく断たれてしまった。


 だが、営倉から出ようと扉に手を触れようとした瞬間、月天丸が凄まじい勢いで跳び下がった。そして焦りとともに言う。


「まずい。誰か来たようだ」


 本職が盗みとだけあって、気配には敏感である。月天丸は室内に駆け戻り、鎖や手錠などをしまっていた戸棚の陰に滑り込む。


 その勘は正しく、ややもしないうちに扉が外から開かれた。

 見廻りの番兵か何かか――外部からの逆光を浴びながら入ってくる人影に、俺たちは揃って目を向ける。


 兵士ではなかった。

 月天丸と同じくらいの華奢な体躯に、黄金の髪。毛皮で編まれた独特の衣装に身を包んだ姿は――


「皇子の皆さま。ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ありません。まさかお迎えに来てくれていたとは思わず、道中ではてっきり野盗の類かと誤解しておりまして……」


 深々と頭を下げて、少女は続ける。


「わたくしは騎族の酋長の娘。セーナと申します。どうかお見知りおきを」


 まさかの初対面は、営倉で鎖に縛られながらの状態だった。


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