第8話「学園長と生徒会長と生徒会」
「新入生諸君、入学おめでとう!…………」
壇上から学園長ジーニャ・アナスタシアの挨拶が始まった。
「知ってることとは思うが、この学園はレーティア王国の平和と更なる発展を支える『柱』である騎士や兵士を育てる養成機関だ。君たちにはここで存分に実力を磨いてもらい、国の未来を支える『大きな柱』へと成長することを望むっ!!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
新入生が一斉に学園長の挨拶に声を合わせて返事を返したことに驚くルイと、その横で目を輝かせながら学園長の挨拶に大きな声で返事を返すエミリオ。この後、エミリオに「ちゃんと返事しなよ!」と説教を受け、うんざりするルイであった。
「学園では身分に関係なく強い者はどんどん成長しランキングを上げていってくれ。寧ろ、そんな気概や闘志、覚悟の強い者は大いに歓迎する! ここでは貴族から奴隷まですべての身分の者にチャンスを与える。精進せよっ!…………以上っ!!」
「「「「「おおおおおーーーーーーっ!!!!」」」」」
力強く宣言した学園長が壇上から颯爽と去ると同時に大きな歓声が木霊する。そして、入れ替わるように入ってきたのは、紫色の髪と瞳を持つ一人の生徒だった。すると……、
「「「「「きゃあーーー!! ステファノ様ーーーっ!!」」」」」
いきなりの女子の黄色い声援にまたまた驚くルイ。
「な……何ですか、この声援…………!?」
「彼は『ステファノ・イヴゴールド』…………この学園の生徒会長、つまり、『学園最強の男』ですっ! いや~、初めて生で彼を見ましたよ!」
「へー……学園最強か~、すごい人なんだね。ところでエミリオ…………また、興奮してるみたいだけど……」
「あ、当たり前じゃないかー! 興奮していない君のほうがどうかしてるよっ!!」
エミリオが興奮しながら抗議をしてくるが、ルイは特にエミリオのことを気にすることなく檀上に視線を向ける。
「入学おめでとう、新入生の皆さん……私は生徒会長のステファノ・イヴゴールドです。これから同じ学び舎で学び精進していく同志たちを学園は歓迎します。どうか、お互い切磋琢磨して『ランキング』上位を目指していってほしい」
生徒会長であるステファノ・イヴゴールドの言葉に皆、聞き逃さぬようにと耳を傾けている。そんな中、エミリオの横でルイが質問を投げてくる。
「ねー、エミリオ~………………『ランキング』って何? あ! 僕が知らないからってもういちいち驚くないでよ。また、注意されるから……」
「き、君、自分でそんなこと言うなよ…………。まあ、何も知らないんじゃしょうがないか。『ランキング』ってのはね、国の防衛機関であるこの学園では『個人の強さ』『実力』に重きを置いているんだ。そして、その『実力』を学園内では『ランキング』という順位づけをしていてね…………それは学園の至る所に設置されてる電光パネルに随時表示されるようになっているんだ」
「ふーん…………じゃあ、その『ランキング』で上位に上がったら何か得することでもあるの?」
「勿論! というか、それこそがこの学園の一番の特徴でもあるんだよ。この『ランキング』で上位にいけばいくほど、その生徒にはいろんな『特権』が与えられる。例えば、学園最強のあのステファノ・イヴゴールドの場合、余程の事じゃない限り、本人のワガママが学園に通るくらいの権利は与えられる……」
「へー、それすごいね……」
「まあ、『特権』はランキングの順位によっていろいろとあるんだけど、その辺はたぶん教室に行けば先生がいろいろと教えてくれたり資料をくれたりすると思うからここでは説明は省くね。でね? この『特権』の一番すごいところは………………身分に関係なく与えらえる、というところなんだっ!!」
「えっ!? 身分に関係なく…………?」
エミリオの発言に力が入ると、ルイもまたつい興奮してしまう。
それもそのはず……こんな身分制度が厳しい世界で、そんな『特権』を奴隷にも与えるというのは他では聞いたことが無かったからだ。
「でも……どうして、そんな『特権』を奴隷にまで与えるの?」
「あの……すごく言いづらいんだけど……」
「?……ん?」
「表向きのきれいな理由としては、奴隷や平民の中にも実力を持った者がいるかもしれないということや、奴隷にも身分を上げるチャンスとして用意したということなんだけど、実際は…………奴隷がランキング上位に上がることは絶対にあり得ない、という『大きな確証』を王族や貴族たちは持っているから、この『特権』に奴隷も適用させることを許可してるのさ……」
「大きな確証……?」
「はあ…………やっぱり君はそれも知らないか。あのね、この世界では身分によって『貧富の差』が激しいのは勿論だけど、もう一つ、大きな『差』が存在する。それが………………『魔力量の差』さ」
「魔力量? ああっ!!…………そう言えばそうだったね…………」
ルイは記憶の中で在りし日のコウイチから聞いたことを思い出し、いろいろと懐かしむ。
「ちょっと…………聞いてるかい、ルイ君?」
「ん? あ……ごめん、ごめん。そっか~……魔力量の差か~……」
そう……この世界では身分によって『魔力量の差』が存在する。
原因は不明だが、実際、一番魔力量の高い王族の平均を『100』としたら、上級貴族が『80』、下級貴族が『60』、そして平民が『30』……と平民からガクッと魔力量は下がる。さらに、躾奴隷で『20』程度……そして、最底辺の身分である自由奴隷においては『10』程度しかないという感じだ。
つまり、王族と比べると自由奴隷の魔力量は『1割程度』しかないので、実際、戦うことになったとき自由奴隷や躾奴隷が攻撃魔法を覚えて戦ったとしても、数発撃てばすぐに魔力量が枯渇する。
その為、奴隷や平民といった魔力量の少ない生徒たちのほとんどは『魔法』よりも『体術』を磨いて『ランキング』を上げようとするのが一般的なのだが、実は『体術』をかなり鍛えても、余程の達人でない限りは『魔法』のほうが『体術』を圧倒してしまうほど『魔法』の力は強い。
これが王族や貴族たちが持つ『大きな確証』ってやつである。
「では、次に我らが生徒会を紹介したいと思う。まずは書記の『セルビア・ランペイジ』……ランキングは第5位」
ステファノがそう告げると舞台袖から緑色のボブカットをした小柄の女性が現れ、
「…………」
無言で一礼をする。
そして、その後もステファノが紹介するごとに生徒会の者が舞台に並ぶ。
「ランキング4位、会計の『レオン・ゴールドバーグ』……」
すると、舞台袖から金髪の男がバレエダンサーのように華麗に登場してきた。
「やあ、よろしく、みんな~~っ!!」
「「「「「きゃあぁぁ~~~~~!! レオン様~~~!!」」」」」
どうやら、このレオンという男も有名人のようだ。
「そして……ランキング3位、副会長の『イグナス・デートリッヒ』……」
「新入生諸君……………………歓迎する」
舞台袖からゆっくりと現れ、一言告げるクールな装いのその男性は、銀色の髪と瞳を宿す……クールな雰囲気とは真逆な風貌をしていた。
「「「「「あ、あれが、ランキング第3位のあの…………イグナス・デートリッヒ」」」」」
彼が現れると、女子だけでなく男子も含めて皆が特別注目した。
「彼……なんかさっきの二人と違って何か…………風格があるね…………何者?」
「イグナス・デートリッヒ…………現在、ランキング3位の実力だけど噂ではそれ以上の実力を持つ、と言われているんだ。生徒会長のステファノ様と並ぶ超有名人さ」
「へー……」
ルイはエミリオの説明を聞きながらイグナス・デートリッヒを見ていると、イグナス・デートリッヒが不意にルイに視線を合わせた。
「……っ!?」
「?……どうしたの? ルイ君?」
「ん? あ、いや…………何でも……」
もう一度、イグナス・デートリッヒを見たが、もうルイからは視線を外していた。
(…………気づかれた?)
ルイはイグナス・デートリッヒの態度を気にしつつも、それはそれでこっちとしても……、
「都合が良い…………かな?」
「えっ? 何か言った?」
「ううん、こっちの話っ!」
「??」
エミリオは怪訝な顔をしつつも、特に気にすることなく舞台に目を向けるが、その横でルイは…………真剣な面持ちで舞台にいる生徒会メンバーを一通り眺めた。
(いよいよ、第一歩だよ…………コウイチおじさん)
心の中で一人宣言するルイだった。
「これが我ら生徒会のメンバーだ。何か困ったことがあったら気軽に相談してくれたまえ。では、楽しい学園生活をっ!」
「「「「「きゃあ~~~~~!! ステファノ様~~~!!! 」」」」」
生徒会の皆が檀上から消えると、アナウンスから入学式の閉幕を告げる言葉と同時に各クラスに行き、ホームルームに参加するよう指示が入る。
こうして、入学式は終了した。