第6話「能力覇者を受け継ぐ者」
「……さて、ここまででルイ君、何か質問はあるかい?」
少年の姿をした神代がルイへ質問を聞く。
「あ、はい、一つわからないのがあって…………この……『魔力練度』って何ですか?」
「お、気づいたかい? そう、これは世界で唯一ルイ君だけにしかない項目であり、それもまた『能力覇者』に付与されている効果だよ」
「僕に……だけ?」
「そうっ! この『魔力練度』ってのはね、すごく重要なんだよっ!!」
神代が嬉しそうにテンション高めで説明を始めた。
「この魔力練度が高ければ高いほど、同じ魔法を使ってもその効果は魔力練度によって違いがあるんだ! つまりは……『魔力の資質』ていうのかな……だから、魔法をいっぱい覚えても魔力練度が低いと魔法の効果は低いし、逆に魔法を一つしか覚えていなくても魔力練度が高ければそれだけでも大きな武器と成り得るっ!」
「な、なるほど……」
「ちなみに、この魔力練度を上げるには戦い方や鍛え方が重要になってくる。魔法を使う時に雑に魔法を発動するのと、しっかりと制御して魔法を発動するのとではレベルが上がった時、魔力練度が上がるスピードが大きく異なる。だから、魔力練度を高めるためにも魔法は面倒くさがらず、丁寧に細かく制御することが大事だよ!」
「魔法を……制御……ですか……」
「おい、神代! そんな魔法を使ったことのないルイに細かい話をしてもさすがに理解が追い付くわけないだろ? その辺は私が教えるから今は特に説明はしなくてもいい」
「はは、ごめん、ごめん……。理解力が早いルイ君だから、つい、いろいろと…………。そうだね、後はコウイチに教えてもらってね」
「は、はい! あ、ありがとうございますっ!!」
「いえいえ。さて……じゃあ、次は能力の本質の部分をざっと説明するね…………えーコホン! まず、この能力『能力覇者』の最大の特徴は『レベルの上限が無くなる』というところにあります」
神代が教師のような口調で説明を始めた。
「一般的には、この世界では種族によって成長レベルには『上限』があります…………しかし! この能力にはその『成長レベルの上限』が無いので、鍛えれば鍛えるほど、また、戦えば戦うほど強くなることができます。つまり…………努力すればするほど成長し続けていく、強くなり続ける……というわけです」
「…………強くなり続ける」
「はい。ちなみにルイ君は現時点でもかなりの実力者ではあります。なんせ、魔王を倒したコウイチの能力を継承していますからね。ですが…………この世界の……人間族の中には魔王以上の強さを秘めている者が……何人か存在します」
「!? ま、魔王よりも強い存在…………しかも、一人じゃないのっ?!」
「はい。ちなみに、その一人は…………レーティア王国女王陛下アイシャ・クイーン・レーティア」
「えええええええええっ!!!」
「まあ、無理もないよね。その辺の詳しい話はコウイチから聞いてね。それよりも大事なのは、そんな存在から世界を取り戻すことが君の使命であり、僕らはそれを君に託すんだ。だから、『能力覇者』を持って強くなってほしいのさ」
「ぼ、僕にできるでしょうか……正直、自信がありません…………」
さすがに今の話を聞いてショックで弱音を吐くルイ。しかし……、
「大丈夫だ、ルイ! 私が保証する! 君ならあの女王陛下を打ち倒すことは…………できるっ!!」
「お、おじさん……」
コウイチが力強く気持ちを込めた言葉をルイに向ける。
「……まあ、私もそう思ったからこそルイ君に能力譲渡を許可したんですよ? 自信を持ちなさい、ルイ君」
「は……はは……は……はいっ!!」
ルイは二人の言葉に感動する。
これまで生きてきた中でこんなにも自分のことを必要とする者や認めてくれる者などいなかったから……。
「どこまで強くなるかは……あなた次第ですっ!」
神代はニコッと笑いながら、どっかの都市伝説で聞いたことのある決め台詞を吐いた。
「あと『特殊スキル』にある『情報隠蔽』は、『自分のステータスを偽る』スキルです。これもこの世界でルイ君しか持ってない特殊スキルです………………まあ、僕が付与したんですけどね! あはは……」
「は、はあ…………」
「まあ、実際……10歳の少年がこんなステータスだとさすがに、ね…………目立ち過ぎちゃうから。だから、他の人から見られても大丈夫なようにこの能力を付与したってわけさ」
「な、なるほど。確かにそうですね…………僕も、あまり目立つのは嫌です」
「まあ、今後の動き方次第だけど…………とりあえず、これがあって助かることはあっても困ることは無いと思うよ?」
「わ、わかりました……」
目立つのを嫌うルイとしてはとてもありがたいスキルだった。
「あと、今後の動き方なんだけど…………ルイ君にはまずこの力に慣れてもらうところから始めてもらうよ。大きな力を持っていても制御ができないようでは『宝の持ち腐れ』だからね……」
「た、確かにそうですね……」
「ルイ君……」
二人のやり取りを見ていたコウイチがルイに声をかける。
「今、私の身体を蝕む『毒』の進行を魔宝具で何とか遅らせているが、それでも一年くらいしか持たせられない。だから、私は時間がある限り、君を鍛え、そして、必要な力と知識を与えるつもりだ。かなり、厳しいとは思うが何とか頑張ってほしい…………そして、ぜひ、君の夢を叶えてくれ」
「お、おじさん…………………………わかりました。僕、頑張りますっ!!」
「ありがとう……」
神代が二人のやり取りを見ながら、何か考え込む表情をしていたがそれは二人には気づかれていない。
「ま、そういったわけで僕の仕事は以上だ。じゃあ、僕は行くね……」
「ああ……ありがとう」
「一年後………………君が死んだら僕が迎えに行くよ」
「そうか………………待ってる」
二人は示し合わせたようにニコッと笑った後、神代の周囲に光が現れ、そして、姿を現した時と同じように強烈な光が現れ、そして消えた。
「……ルイ君、いろんなことが起きてまだ頭で整理できていないことがいっぱいあると思うが、それは、明日からの修行に合わせて教えていくからね」
「は、はい……よ、よろしくお願いします」
「とりあえず、今日はゆっくり身体を休めてくれ…………そして、明日から早速君を鍛える為の旅に出るからな」
「た、旅……ですかっ?! で、でも……僕、お金が…………」
「はは……お金の事は心配しなくていいから。ルイ君……君は強くなること、世界を知ること、これだけを考えてくれればいい。いいね?」
「は、はいっ! あ、ありがとうございますっ!!」
「うむ、良い返事だ。じゃあ、今日はもう休もう。これからビシビシ鍛えてやるからなっ!」
「あ…………で、できれば、お手柔らかにお願いします」
「それはダメだ」
「え~~……っ!!」
二人はそんなやり取りをしながら顔を合わせる。そして……、
「はははは……っ! 短い間だけどこれからよろしくな、ルイ君っ!!」
「は、はいっ!!」
最初に比べると二人の距離はだいぶ縮まり息が合っていることにお互い気づいた二人は、自然と冗談を言えるようになっていた。
――ルイ・セルティエ
かつて奴隷だった少年が世界を変えていく物語は
ここから始まった。