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第4話「黒の勇者」



――魔王討伐から三ヶ月後



 私はアイシャから呼び出され王の間へと訪れた。


 すると、生き残りの魔族がレーティア王国襲撃を企てているという話を聞き、その魔族の生き残りを討伐してほしいと一緒に戦った三人の仲間と共に告げられる。


 私は何も疑うことなく、その魔族の生き残りが集まっているという場所へと向かった。


 その場所は王都から離れた場所で、この森のような誰も人が立ち入らないような森の奥深い場所だった。


 すると、そこには確かに生き残りの魔族が五人ほどいた。


 私は、その魔族を討伐する為、先手必勝で動こうとしたその瞬間…………………………仲間の魔導士によって動きを魔法で封じられてしまう。


「えっ!? な、仲間に………………ですかっ!?」

「ああ……私も当時、ルイ君と同じような心境だったよ…………」

「い、一体……どういう……」

「まあ、結論から言うと、私は…………騙されたんだ」

「そ、そんな……」

「しかも、騙したのは仲間だけじゃなく……実は……姫様……アイシャ・クイーン・レーティアも私を騙していた…………というより、これらの計画はすべてアイシャ・クイーン・レーティアによるものだったことが後になってだが……わかった」

「ええっ……?!」

「これをきっかけにアイシャはこの国の『女王陛下』という地位を手に入れることになるのだが…………まあ、とにかく私は仲間に不意を突かれ、一瞬、動きを封じられた……」


 しかし、私はその魔法を解くことができるのでそれ自体は問題なかったのだが…………しかし、咄嗟のことだった為、一瞬、取り乱しスキを作ってしまった。


 そして、三人の本当の目的は私の動きを封じることではなく、その…………『一瞬のスキ』を作ることだった。


 私がひるんだ瞬間、タイミングを合わせたかのように、今度は魔族から……………………『私だけ』攻撃を受けた。


「ま、魔族からおじさんだけ攻撃を受けたって…………それって、もしかして…………」

「ああ…………つまり、これまで仲間だった三人と魔族は繋がっていたのさ」

「ウ、ウソ……」


 私が一瞬怯み、無防備の状態だったところに魔族の最大火力の魔法を受け瀕死の重傷を負った。だが、しかし、何とか私はスキを見て奴らから逃げることができた…………とその時は思っていたのだが、どうやら、私は逃げられたのではなく奴らに…………わざと逃がされたということに気づく。


「えっ? それって、どういう…………」

「……その後、レーティア王国では仲間だった三人が傷だらけで戻り、『勇者に裏切られた。奴は魔族と繋がっていた』と国民に喧伝したんだ」

「ええっ! そんなウソ……簡単にバレちゃうんじゃ…………しかも、三人が傷だらけって……一体どういうこと…………?」

「おそらく、その時の三人の傷は『演出』だろうな。実際、これらの計画はすべて姫様……アイシャの書いた筋書きだ。ということは、いくらでも…………誤魔化すことはできるということだ」

「ちょ、ちょっと待ってっ!…………そ、それじゃあ、それは今も続いているってこと? その……つまり……………………レーティア王国は魔族と繋がっている、て…………」

「ああ、そうだ」

「!? そ、そんな……」


 ルイがショックを受ける横でコウイチは話を進める。


「……それから私は、国を、国民を裏切った『反逆者』として……そして『世界を裏切った勇者』という意味での蔑称べっしょうとして『黒の勇者』と言われるようになり、世界から追われる身となった」

「!?……く、『黒の勇者』っ!! おじさんがあの……『黒の勇者』なんですかっ?!」

「そうだ……」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【黒の勇者】


 一年前、各国で金や権力に物を言わせ、非道な行為を行う王族や貴族などを襲撃した人物。元々、勇者として召還されたが、実は魔族と裏で繋がっていたということで『人間を実は滅ぼそうとしている危険人物』として指名手配され、このレーティア王国だけでなく各国の至る所で『世界の反逆者』として指名手配されることとなった。


 ほとんどの国民から『憎悪』や『悪者』『偽善者』の対象とされ、彼の特徴であるこの世界では滅多にない『黒髪、黒瞳』をしていたこともあった為、『黒の勇者』と皆から蔑称されることとなる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうして、私は世界中から追われる身となり、そして、アイシャは『国民から絶大な支持を受ける女王陛下』へと成り上がっていった。


「!? そ、それじゃあ……おじさんが『地球』という別の世界から召喚された本当の理由って…………」

「おそらく、アイシャが世界を支配する為に邪魔だった魔王や魔族を倒すための『駒』……………………だったのだろう」

「…………」

「…………人間は、どの世界でも平気で酷いことができる残虐性を持つ種族なのかもな」


 おじさんはそう言うと、悔しげで悲しげな表情を浮かべながらただただ乾いた笑いをするだけだった。


「……この世界の人間や生き残りの魔族から追われる身となった私は、その後、国からの討伐隊やギルド、賞金稼ぎの奴らから何度も襲われることになった。だが、幸いにも私には敵を蹴散らすだけの『力』……『能力覇者』でレベルを上げていた為、しばらくは追っ手から逃れることはできた…………だが一週間前、私は奴らのワナに嵌ってしまい、命を落としかけた。しかし、それでも何とか追っ手を振り切り、そして、この森へと辿り着いた……というわけさ。ハハ……笑っちまうだろ? ただ、この世界の平和を取り戻そうとがむしゃらに剣を振るった結果が……これさ。まあ、『大きな力』を持ってこの世界に召喚された頃の私は『特別な人間だ』というアホみたいな考えを持っていたから、これは…………その『報い』なのかもな」

「…………おじさん」


 二人の間に沈黙が続く。


 外がもうすっかり暗くなっていたことに気付いたルイはロウソクに火をつけ、近くで取ってきた『アシラの実』をすり潰し煎じた『アシラ紅茶』を出す。


 ありがとう……と言って、アシラ紅茶を一口すすったコウイチは、ほっと息を吐くと穏やかな顔でルイに話し掛けた。


「……ルイ君……実は私は敵のワナに嵌ったことが原因で、残された命はもう…………長くはない」

「えっ?…………で、でも、傷はだいぶよくなったって…………」

「いや、私はその敵の魔法により体内に『毒』を仕込まれた。そして、これは治癒魔法も効かない…………治せるとしたら、その毒を仕込んだ張本人を倒せば効力は消えるのだが、私にはもう彼を探す時間が…………ない」

「そ、そんなっ……」

「そんな時…………私は……君と……ルイ君と出会った」

「お、おじさん……」

「君は私を惹きつける『何か』を持っている…………そう感じた私は、生きることより『夢を託す』ことを…………決断した」

「…………夢?」

「ああ……。君は言った…………『大きな力があれば奴隷制度を無くしたい』と…………私は君の言葉を信じる! もう一度聞こう…………もし、君が望むなら私の力…………『能力覇者』を与えようと思っている。しかし、君が望まないのであれば、その力はそのまま私と一緒に墓場まで持っていくつもりだ……………………どうだ、ルイ君? 君はこの力……………………世界を変える力を持つことを……望むかい?」

「ぼ、僕は…………世界を変えたいですっ!!」

「…………っ!!」


 コウイチの「力を授かり世界を変えることを望むか?」の問いに、迷わず即答するルイを見てコウイチは身震いをする。


「おじさんの話…………正直言って、本当の事なのかどうか今はまだわかりません…………だけど、もし、その『力』を僕に与えることができるのならば、おじさんの言ったことの真偽や、世界のこと、人間のこと、魔王のこと、魔族のことを自分の目と耳で知りたいし、奴隷制度も無くしたい……っ!!」

「そうか……私のことを…………疑っているのか」

「ご、ごめんなさい……で、でも、僕にとっては、あまりにも突拍子の無い話だったので…………」

「いや、それでいい……それでいいんだ、ルイ君! 君は間違っていないっ! そういう部分が君の一番の武器だっ!!」

「お、おじさん…………」

「私の能力……『能力覇者』を君に授けよう。そして、私の命が尽きる間に君には私のこれまでの知識や経験、技……すべてを与える。そして、それらを駆使して、奴隷制度を…………世界を変えてくれっ!」

「正直……僕にそんなことができるなんて今はまったく思えません…………でも、どうせ、このまま奴隷として生きるくらいなら…………僕はおじさんの願いを、そして自分の願いを叶える生き方に…………賭けますっ!」

「……ルイ君、ありがとう。今は私の事は信じなくても構わない。寧ろ、それくらい、何事も疑ってかかるその君の資質は世界を変える為にはとても大きな武器となるだろう……。おそらく、この道は長く、そして、想像以上に…………険しい」

「で、でも……僕には失うものなんて何も……ないから……」

「……そうか」


 再び、二人の間に沈黙が流れる…………が、その時、突如、二人の間に『光』の粒子が集まりだし、それらが『固まり』として形を形成していく。


「えっ!?……な、何っ……!?」

「フッ……来たか」


 ルイはその現象にただ驚くだけだったが、コウイチは特に慌てるでもなく、寧ろ、予定調和であるかのような反応を示した。


「やあっ! コウイチっ! 久しぶりっ!!」


 なんと、その光の固まりが凝縮し一瞬眩い光を放つと、そこには……ルイよりも幼い『一人の金髪少年』が満面の笑顔で立っていた。



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