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第2話「出会い」



「…………に、人間?」



 扉を開けると、ボロボロの黒のローブを身に着け、更には身体全体、至るところに傷を負った三十代くらいの男性がぐったりと横たわっている。


「す、すごい傷…………しかも、呼吸が…………荒いっ! た、大変だっ! 急いで手当てしなきゃっ!!」


 男の子は自分が使っていた薬草を傷口に塗りながら、急いで男性の手当てを始めた。


『奴隷キャンプ』にいた頃は強制的にやらされていたすべての家事や、自由奴隷である為、他の者たちも『殴られ屋』をやっていた為、こういった傷の手当てのスキルも自然と身に付けていた。


 手慣れた手付きで一通りの手当てを行うと、男性の呼吸も安定。それを見た男の子は安心するとそのまま睡魔に襲われ眠りについた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



――翌日の昼



「う……うう、ん…………」


 男の子は目が覚め起き上がると、目の前に吐息をゆっくりと立て深く眠る男性に目が留まる。


「あっ!……そうか、昨夜に傷だらけで倒れていた人を介抱したんだっけ?…………よかった、顔色も良くなったみたいだし、もう大丈夫かな」


 男性の容態が安定したのを見てホッと胸を撫でおろした男の子は、彼が起きないよう、そっとベッド(とは言っても、藁を重ねただけのもの)から離れ、近くの川で顔を洗いに行く。


 川から戻ってくると男性はまだ寝ており、すぐには起きる気配がなかった為、男の子は自分の朝食用に準備していた朝ごはんの『りんご』に似た『アシラの実』と書き置きをベッドの横に置いた。


「うわっ! もうこんな時間っ! 急がなきゃ!!」


 男の子は、『今日は少しでも意識を失わないよう頑張って銅貨を八枚もらうぞっ!』と張り切って駆け足で、昨日、貴族と約束していた場所へと向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「んん…………こ、ここは?」



 男の子が家から出て二時間後、男性は目を覚ます。


 そして、傷の手当てをされた自分の身体を見ながら周囲を見渡す。


「傷の手当て?…………い、一体、誰が?」


 すると、横に置かれたアシラの実と書き置きを見つけ手に取る。



<おはようございます。ひどい傷だったので勝手に手当てしておきました。まだ、安静にしてたほうがいいのでしばらくここで休んでいてください。僕は二~三時間したら戻ってきます。アシラの実しかないですが、よかったら食べてください>



「…………ありがとう」


 男性は誰もいないにも関わらず、書き置きに感謝の言葉を告げる。


「…………まだ、『この世界』の人間も捨てたもんじゃ…………ないな……痛ぅ、甘えさせて……もらおう」


 男性はそう言うと、また、身体を横にし眠りにつく。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「た、ただ、いま…………」



 男性が横になってしばらくすると、男の子が帰ってきた。


 男性は男の子の気配に気づき、身体を起こす。


「あ、お、おじさん…………起こして……しまった? ご、ごめんな……さい……」

「あ、いや、大丈夫だよ。私はさっき起きたので今は身体を休める為に横になってただけ…………て……お、おいっ! 君、どうしたんだっ! そんなボロボロになって…………っ!!」


 男の子は、昨日よりも酷い傷で服もボロボロになった状態だった。


「あ、きょ、今日はいつもより……長く意識を持たせ……ることが、できたんだ!…………だ、だから、パンを五枚も……か、買えたっ!」

「き、君…………」


 男性は男の子のボロボロになった姿と、言動を聞いてすぐに状況を理解した。


「き、君は……………………自由奴隷、か?」

「う、うん……」


 男性は男の子の姿を見て、険しい表情を浮かべる。


「い、いや~……きょ、今日はけっこうやられちゃって……で、でも、何とかいつもより長く意識を保てたからその分多めに銅貨を稼げたんだ……で、でも、明日はお休みにする……つもりだけどね……」


 男の子は自分の傷の手当てをしながら男性とやり取りをする。


「き、君が……私の手当てを……?」

「あ、う、うん…………夜中に扉の前に……お、おじさんが……傷だらけで倒れて……いたから。でも、もう、だいぶ良くなったみたいだね!」

「ありがとう…………しかし、君の傷もかなり……酷いじゃないかっ!」

「あ、う、うん。でも、これが仕事だから…………今日はちょっときつかったけど、でも、二~三日もすればすぐ直るよ。結構、僕、打たれ強いし……回復も早いんだよっ! へへ……」

「…………」


 男性は男の子の言葉に悲痛な顔をしながら絶句する。


「君…………年齢としはいくつだ?」

「え? え……と、たしか、十歳かな?…………『奴隷キャンプ』にいた頃に……そ、そう、教えられた……」

「な、十歳……」


 男性は男の子を見ながら、自分の中に抱えている『ある失敗』を思い出し、顔をゆがめる。


「ど、どうしたの、おじさん?…………や、やっぱり、まだ、身体……痛い?」

「あ、い、いや、大丈夫。身体は君が手当てをしてくれたおかげで問題ないよ…………本当にありがとう。君は……すごいな」

「そ、そんなっ! ぼ、僕はいつも自分の傷の手当てとかよくやって慣れてるから……」

「それに、『奴隷キャンプ』にも入らず、ここで一人で生きてるなんて…………」

「あ、いえ、元々……僕は『奴隷キャンプ』にいたんだけど……ちょっと……居づらくなって……はは」


 そう言うと、男の子は『奴隷キャンプ』から出たことや、これまでのことを一通り話した。


「そうだったのか……まだ、この年齢としでそこまでのことが……」

「べ、別に僕だけじゃなく、よくある話だよ……はは」


 男性は男の子のこれまでの話を静かに聞いていたが、男の子がそれでも笑顔を絶やさずに明るく話すので少し質問をする。


「なあ、君は…………あ、失礼、そう言えば、君の名前……あと、私の名前も言ってなかったね…………私の名は『コウイチ・ハヤテ』だ。君は……?」

「ぼ、僕は……『ルイ・セルティエ』と言います。か、変わったお名前ですね……」

「ん? あ、ああ…………フッ、よく言われるよ」

「??」


 コウイチは含みのある笑いをしながら答え、さらに話を続けた。


「ルイ君……失礼ながら……今、やっている仕事というのはもしかして…………『殴られ屋』かい?」

「あ、はい。僕は自由奴隷だから特に何かの手に職とか教養はないので……」

「そうか……」


 コウイチはすこし悲しげな表情を浮かべる。


「あ、でも、最近は何件か『殴られ屋』の自分を指名してくれる貴族の方も多くなったのでお金を貯金して家畜を買うのが夢です」

「おお、そうなんだ! 偉いじゃないか」

「えへへ……」

「ちなみに一回でどのくらい稼ぐんだ?」

「そうですね……銅貨五枚から多い時で八枚くらいは…………」

「なっ?! ど、銅貨五枚…………」


 ちなみにこの国…………『レーティア王国』の通貨は世界共通の通貨であり、『金貨、銀貨、銅貨、石貨』というコインが流通している。石貨一枚で一円の価値があり、銅貨一枚だと『石貨百枚分』となるので『銅貨一枚=百円』という換算となる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【レーティア王国通貨 ※世界共通】


・金貨……一枚で一万円の価値

・銀貨……一枚で千円の価値

・銅貨……一枚で百円の価値

・石貨……一枚で日本円で一円の価値



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「つ、つまり、一日殴られ屋をやって最高で銅貨八枚が稼ぎ…………ということかい?」

「はい」


 コウイチは改めてショックを受ける。


(人に殴られて一日最高でも八百円しか稼げないだなんて…………そんなのこれから続けても家畜を飼うことなんて…………その前に身体が参ってしまうじゃないかっ!)


 コウイチは改めて自分の『夢』が果たせなかった代償が、この世界の奴隷民として生きる人間たちにすべて還ってくることを考えるとやるせない気持ちになった。


「き、君は、奴隷民であることに嫌気は指さないのかい?」

「い、いえ……嫌気も何も……これがこの世界の……………………ルールだから」

「……!!っ」


 コウイチはルイの言葉に引っかかった。


「……ルール? 君はそう思っていたのかい?」

「え? あ、はい。この世界で生きている以上、そのルールは絶対なのでつらいこともあるけど受け入れて生きていくしかない……と思っています」

「!?…………」


(こ、この子…………この子はなんだ? まだ十歳と言っていたが妙に…………『達観』したところがある……)


 コウイチは『こことは違う世界』から来たので、この世界の異常性はすぐに認識したが、元々この世界の住人であるルイが自分と似たような感覚を持っていたことに驚いた。しかもまだ十歳…………。


「と、ということは、ルイ君はこの『ルール』自体をどう思っているんだい?」

「そ、そうですね…………動物でそんな『奴隷制度』のようなルールは見たこと無いので、人間だって本当はこんな『おかしなルール』は無くても問題ないんじゃないかって思います。それに、本当なら人間はもっと楽しい世界にすることだってできるんじゃないかとも思っています………………て、変でしょ? 僕、そんな話を『奴隷キャンプ』でしたら皆にバカにされたりしまいには殴られたりしてました……へへ。僕、小さい頃からそんなことを疑問に思う子供だったので、周囲からは『変な奴』とか『頭おかしい』って言われて嫌われたので、最近はその話をすることはなかったんですけど………………あれ? おじさん?」

「?!…………」


 コウイチはルイの言葉を聞いて驚きで固まっていた。


「……や、やっぱり、おじさんも……こんな話…………変って思いますよね? ご、ごめんなさい……バカな話して…………」


 ルイはコウイチにも同じように『変』だと思われたと思った為、この話をすぐに止めて別の話をしようとした………………が、


「い、いや、違うっ! 違うんだっ!!」

「えっっ?! えっっ!?…………」


 コウイチが少し興奮した状態でルイに言葉をかけた為、ルイはコウイチの思わぬ行動につい驚き戸惑う。


「き、君は……………………正しいっ!!」

「?!…………お、おじさん?」


(この子なら…………この子のような純粋な心を持った少年なら…………しかも、この世界の住人でまだ十歳でこんな『物の考え方』をできる彼なら、私のすべてを受け継がせて、この国を…………私が果たせなかった『夢』を…………)


 覚悟を決めたコウイチは神妙な面持ちで改めてルイに問う。


「君は、その……これからはどう……生きていこうと思ってるんだい?」

「こ、これからですか? とりあえずは、このまま『殴られ屋』を続けながらお金を貯めて家畜を飼う、つもりです」

「そうか……。ところで、もしも…………もしも、君に何らかの大きな力が……この世界を変えるだけの大きな力があったとしたら…………どう生きたい?」


 コウイチはルイの表情や言動を深く洞察するように見つめている。


 そんな中、ルイは少し下を俯きながら熟考していたがすぐに顔を上げ言葉を発する。


「もしも…………もしも、この僕にそれだけの……世界を変えるだけの大きな力があるのなら…………僕はこの世界の『奴隷制度』を無くしたいですっ!!」

「……っ!?」


 ルイが力強く宣言するとコウイチはその言葉にハッとした表情を浮かべる。


 しかし、力強く宣言したのもつかの間、すぐにルイは顔を紅潮させ、しどろもどろに言葉を発した。


「……て、そ、そんなの、た、ただの僕の勝手な……も、妄想ですからっ!! す、すみません……また、変な事言って」


 思わず大声でそんな突拍子もない事を言ったルイは相手が引いてしまったと思い、取り繕うとした…………が、コウイチは否定しなかった。


「そんなことないっ! 素晴らしいよ、ルイ君っ!!」

「へっっ?!」


 コウイチはルイの言葉を否定したり、笑うどころか……その言葉に感動したのか目を充血させ涙目になっていた。ちなみにその涙はルイの言葉に対しての感動以外に……コウイチの胸の奥でずっと悩み続けていた『力の継承者』の解決策が見つかったことへの安堵も含まれていた。


 そして……、


「そうか…………私はもしかしたら…………君と出会う為にここまで…………生き延びることができたのかもしれないな……」

「えっ? そ、それって、どういう…………」

「ルイ君……」


 コウイチはルイが質問しようとする間に入って言葉を続けた。



「私は…………この世界の人間ではない」



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