第1話「奴隷の少年」
新作、はじめましたっ!
男は、こことは違う別の世界から来たと言った。
男は、気づけば仲間に裏切られ一人になったと言った。
男は、どんなに強大な力を持ってしても世界を変えることなんてできなかったと………………………………絶望した。
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「おい、自由奴隷…………お前生きてて楽しいか?」
「あ……う……」
その質問をされた『自由奴隷』と言われた十歳くらいの黒髪、黒目の男の子は、同い年くらいの四人の男の子に蹴られ、殴られ、ボロボロになっていた為、返事の言葉もままならないでいた。
「おい…………ちゃんと、しゃべろよっ!!」
ドガッ!
「うごっ……!!」
集団のリーダー風の男の子がボロボロになった『自由奴隷』と言われた男の子の腹を容赦なく蹴り飛ばす。
「ゴ、ゴホッ……ゴホッ……」
男の子は相手の蹴りが変な所に入ったのか少し呼吸がし辛くなり、お腹を押さえながら膝をつく。
「あー、もうダメだよ、こいつ、全然動けないんだもん」
「マルタ様が強すぎるから……もう少し手加減して時間を掛けて殴らないと……」
「仕方ないだろっ! こいつがこんなすぐに動けなくなるなんてわかんなかったんだ。あーあ……なんか今日はもう飽きちゃったな……おい、ザイード!」
「はい……。おい、自由奴隷! これが今日の分だ……受け取れ」
チャリン!
ザイードという男の子がポケットから五枚の銅貨を出し、ボロボロになってうずくまっている自由奴隷と言われている男の子に…………投げつけた。
「あ、あ……ありが、とう、ござ……い、ます…………」
うずくまっていた自由奴隷の子はフラフラになりながら、ザイードという男が道端に投げ捨てた五枚の銅貨を必死の思いでかき集める。
「おい、自由奴隷っ! 明日もまたここに来いよ! 今度はもう少し踏ん張って立っていることができれば銅貨を三枚増やしてやる……わかったなっ!」
「さ、三枚も…………っ!! わ、わかり、ま……した! あ、明日は……が、がんばります!!……あ、ありがとうございま…………うぐっ!!」
マルタという男の子が退屈そうな声でそう告げると、自由奴隷の子は目を輝かせてマルタという男の子にお礼を言うとしたが、横からザイードが自由奴隷の子のお腹に思いっきり拳を入れる。
「ふん……汚らわしい。しかも、その黒髪、黒目も『黒の勇者』を連想させるから全くもって不愉快だ」
「あ……う……ご、ごめん……なさい……」
ザイードは殴った拳をハンカチで拭きながら、鬱陶しく冷酷な目でその自由奴隷の男の子を見下し言葉を吐く。そして、自由奴隷の子はその言葉を受けたと同時にまた地面にうずくまり…………気絶した。
四人がその場から離れてしばらくすると、自由奴隷の男の子は意識を取り戻し、フラフラになりながらも何とか立ち上がった。
「や、やった……! き、今日は……銅貨五枚も……手に入った。こ、これで、一食分の食料が……か、買えるっ!! し、しかも……明日は今日よりも頑張れば三枚も多くくれるって……言ってた…………あ、明日はもっと……頑張ろう…………」
自由奴隷の子は目を輝かせながら、明日、頑張れば『二食分の食料が手に入る』ということに心を躍らせていた。
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『奴隷民』
奴隷民とは、この世界で底辺の身分を示す名称で奴隷民は皆、右手の甲に奴隷民の証である『奴隷紋章』が焼印されている。
生まれながらにして奴隷民であれば、余程のことが無い限り、その子供も、またその子供も、その子供の子供も…………と、一生どころか子孫もずっと奴隷民として生きていくことになる。
また、奴隷民には二種類あり、一つ目の奴隷民は『躾奴隷』と呼ばれている。これは、多くの奴隷民がそうだがほとんどが貴族に飼われ、その貴族の身の回りの雑用などを行っている。
奴隷民ではあるが、この『躾奴隷』は貴族の身の回りの雑用をやる以上、最低限の読み書きが必要である為、基本的な教養を教えられるが、才能のある者や貴族に好かれた者にはさらなる教養や環境も与えられることもある。
その為、同じ奴隷民ではあっても、世間からはもう一種類の奴隷民たちよりはマシな奴隷民であるという認識である。
一方、そのもう一つの奴隷民……今の男の子がそれに該当するのだが、誰にも飼われていない奴隷民であるということで世間からは『自由奴隷』と呼ばれ、この世界の身分の中でも最底辺として蔑まれていた。
ちなみに、『奴隷紋章』も躾奴隷と自由奴隷で分かれており、躾奴隷の紋章は『円の中に三角』が刻まれた紋章で、自由奴隷は『円の中にバツ』が刻まれたものとなって区別されている。
現代の日本であれば『自由』とは聞こえの良いものに感じるかもしれないが、この『自由奴隷』の『自由』とは…………『お金を払えば、誰でも奴隷民を自由に使っていいですよ』という意味での『自由』である。
その為、先ほどの奴隷民の男の子は街で貴族の子供に「銅貨五枚やるから、俺たちのストレス発散に貢献しろ!」と声をかけられ、本人が了承した為、件のような状態になっていた。
酷い扱いのように見えるが、その奴隷民の男の子は貴族などに飼われていない『自由奴隷』である為、生きていくにはお金が必要であり、そのお金を稼ぐ為にこうやって『殴られ屋』のようなことをやっている……いわば、これは彼の生活費を稼ぐ為の仕事であった。
実際、『自由奴隷』のほとんどは手に職もなく、また、勉強も教えてもらう機会も無い為、言葉は喋れても字が書けないのがほとんどだ。その為、先ほどの男の子のような『子供の自由奴隷』の多くは、大人とは違い稼ぐ手段が限られる為、この『殴られ屋』で生活費を稼いでいるのがほとんどである。
日本では考えられない話だが、この世界ではこれが常識であり『身分制度は絶対』であることに誰も疑問を抱く者はいない……。
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「き、今日は何とか食事にありつけたぞ…………痛てて」
家に戻った先ほどの自由奴隷の男の子は、殴られて打撲したところやスリ傷の部分に、すり潰した薬草を塗りながらパン一枚をゆっくりとじっくりと味わうように食べていた。
家とは言っても、森の奥深くにある今は使われていない廃屋なのだが、そこは屋根だけはしっかりと完全に残っていたので雨露をしのげるという意味では『優良物件』ではあった。
今から三ヶ月前――彼は街の近くにある『自由奴隷』の子らが集まる『奴隷キャンプ』にいた。
しかし、周囲の子から『いつもヘラヘラしててムカつく』というだけの理由で嫌われいじめられる毎日を過ごしていた。
そして、そのいじめ方がエスカレートし始めたのに恐怖を覚えた男の子は『そこに居たらいつか殺されるかもしれない』と怖くなり、『奴隷キャンプ』のある街から離れることを決意する。
しかし、お金も食べ物も無い為、男の子はどうするか悩んだ挙句、とりあえず、森の中で自生している果物などを探し飢えを凌ごうと考え、森に向かった。
というのも、男の子は『奴隷キャンプ』では強制的に皆の分の家事全般をすべてさせられていたのだが、そのおかげで食べられる野菜や果物の知識を持っていた為、森の中に行けば果実や野菜を見つけることができるだろう、という希望的観測の元の判断だった。
しかし、森の中に入ったはいいが、食べられそうな果実が全然見つからず、男の子はどんどん奥へ奥へと入り込んでいく。
三十分ほど森の奥へと進んでいくと、少し開けたところがあり、そこに今、住んでいるこの『廃屋』がポツンとあった。
最初は誰かが住んでいるのかもしれないと、声をかけてみたが反応は無かった為、『失礼します』と言いながら中に入って人が住んでいるのかを確認した…………が、そこには誰もいなかった。
しかし、食器を見ると最近買ったようなものがあったので、誰かが最近まで使っていたであろうと男の子は推測した。
男の子は一週間は家に入らず、廃屋の裏にある物置のような場所で寝ていた…………が、まったく人が来る気配が無かった為、男の子は『もう今は使っていないのかな?』と判断し、家の中に入り住み始めるようになり…………今に至る。
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「へへ……パン一枚でもゆっくり時間をかけて食べたらお腹がいっぱいになるのを発見した僕はすごいだろ?」
男の子は目の前にいる小さな蟻に声をかけていたが、蟻は『我関せず』とばかりに男の子が上げたパンの切れ端を黙々食していた。
時間をかければお腹いっぱいになる…………時間をかければ満腹中枢を刺激され量が少なくてもお腹がいっぱいになった気分になることを言っているようだが、実際の量が『パン一切れ』ではすぐにまたお腹が空いてしまう。
それは男の子本人も重々承知である………………故に、
「いいな~、お前らは…………このくらいのパンの切れ端でも腹いっぱいになるんだもんな~」
そんなセリフが思わず出てしまうのであった。
「…………そういえば、蟻の世界にも奴隷とかいるのかな~」
男の子は蟻に一方的に話しかけるといったことをしながら、明日の『仕事』で少しでも稼げるよう(痛みに耐えられるよう)、薬草をしっかりと塗って明日に備えて早めに就寝した。
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――深夜
男の子はトイレに行きたくなった為、外に出ようと扉に向かおうとした…………その時、
ガタン!
「!?…………」
突然、扉のほうから何かがぶつかる音がした。
「だ、だ、だ、だ、だ……誰っ…………!?」
男の子は突然の音に緊張の糸を張り詰めながら考える。
(この森には動物はいるが魔物はいないはず…………ということは動物? もしくは…………人間っ?!)
男の子は緊張しつつ扉の外からの返事を待った…………が反応はなく、しばらくすると扉のほうからは何も音がしなくなった。
「た、た、た、確かめなくちゃ…………っ!」
男の子は意を決して扉に近づき、そして、いきおいよく開けた。
すると、扉に身体を預けていたのか、開けたと同時に『何か』がズルズルズル……と家の中に入ってくる。
「う、うわあぁぁああぁ~~~~!!!!」
男の子は不意の事態にビックリし、思いっきり後ろへと後ずさる。
しかし、その『何か』は特に反応するでも動くでもなく、ただ横たわったまま動かなかった。
動かないことを確認すると、男の子は一度大きく深呼吸をして冷静さを取り戻し、再び、その家に転がってきた『何か』を再確認する。すると……、
「…………に、人間?」
扉を開けると、ボロボロの黒のローブを身に着け、更には身体全体、至るところに傷を負った三十代くらいの男性がぐったりと横たわっていた。
皆さま、ちょうど一ヶ月ぶりとなります……
『てんやもの』です。
この度、新作を手掛けましたので連載投稿、開始致しますっ!!
安定の『見切り発車』です。
前作の『自作自演』よりも更なる『見切り発車』ですww
なので、気楽な感じで読んでいただければ幸いです。
これからよろしくお願い致します。
2017年5月27日(日)
てんやもの