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エピローグ2

 カチャと小気味良い音がして鍵が開く。


「どうぞ」


 開けられたドアの向こうには久しぶりの先生の部屋。



「お邪魔します」


「ただいまでいいよ」


「え、じゃあ…ただいま…」



 背中でガチャンとドアが閉まり、玄関が翳る。


 と、同時に背中からぎゅっと抱き締められた。



「せ…!」


「お帰り、舞奈」


 優しく温かな、それでいて力強い抱擁。



「先生…」


 私の身体を包む腕を抱き締め返す。



 すると、


「…なぁ。お前いつまで俺の生徒でいるつもりなの?」


先生が首筋に顔を埋め、吐息混じりに訊ねた。



「え…?」


「その『先生』って呼び方、ずっと気になってるんだけど」


「あ…」


「高校を卒業した舞奈は俺と大人の恋愛をするつもりなんだと思ってたんだけどな」


「……」


「どうする?」


 先生が長い睫毛を少し伏せ、切なげな流し目で視線を投げる。



「……


…昴…く、ん」



 先生は私の肩を抱き寄せ自分の方を向かせると、するりとボストンバッグを落とす。そして…



「きゃ…」



 腕の中に閉じ込めるように強く抱き締めて、唇を重ねた。



(昴くん…!)


 温かな唇から伝わる愛の実感に胸がときめく。


 先生─昴くんはまるで何かを探すみたいに微妙に角度を変えながら私の唇に小さな口付けを落とす。小鳥が啄むように。

 少しくすぐったいようなその感覚は、優しいのにそれでいてどこか誘惑的で。



「すば、る、く…」



 焦らすような小さなキスは、腕の中にいるのに口付けを交わしているのにどこか歯痒い。それでも昴くんは幾度もそれを繰り返す。



(もっと…もっと強く愛して…)



『大人の恋愛』─


 昴くんの言ったフレーズが頭の片隅を閃いて、私のボルテージを上げる。



 私の手からスーパーの袋が落ちた。自由になった手を昴くんの背中に回して力いっぱい抱き締める。



 もっと熱いキスが欲しいの…


 ねぇ?だって私たち…


 大人の恋をするのでしょう?─



 昴くんのシャツを握り締め、引き寄せた。

 柔らかな感覚が次第に熱を帯び始める。



「舞奈…」



 昴くんの私を呼ぶ掠れた声を飲み込むみたいに私は唇で昴くんのそれを食んだ。そして舌先でそっと触れる。



 大人の恋って、どうしたらいい?

 でも、いつも『先生』から教えてもらうばっかりだから、ねぇ?今日は私から昴くんを溺れさせたい─



 彼の唇の隙間に自ら滑り込もうとする。でも逆に彼に絡め取られて簡単に飲み込まれしまう。


「んッ…!」


 昴くんは私をチョコレートみたいに口の中でとろけさせて、私がすっかり大人しくなってしまうと今度は私の中にするりと滑り込む。


 熱く重なる唇が、ちゅ、と音を立てるとそれだけでたぎる熱情が抑えきれずに溢れ出す。シャツを掴む手にぎゅうと力が入り、それでも足りなくて、私の中の昴くんを必死に求める。



(昴くん…!昴くん、ずるい…)


 昴くんはやっぱり私より大人で余裕で、結局昴くんに全部持っていかれてしまうよ…



 昴くんの口付けが加速度的に熱く深くなっていく。まるで私の奥の奥にある核─例えば果実の種子みたいなものを抉り取るみたいに、昴くんは私の内側の深いところまで追い求めて、滴る果汁に濡れる唇を吸った。


 ただでさえもうふわふわと意識が遠退いて足元だって立っている感覚もないくらい覚束ないのに、覆い被さる昴くんにそのまま押し倒されそうになる。



(あ…)



 もうこのまま昴くんと…




 ぼんやり頭の中をそんなことが過った時、昴くんは私をしっかりと抱き留めた。そして私を腕に抱えたまま天井を仰ぎ、荒い息を押さえ付けるように整える。



「全く…舞奈が煽るから」


 昴くんは真っ赤な顔で呟くと私をホールにそっと座らせた。



「え…」


「意外と、何て言うか…スキルフルで…危うく理性が決壊す…


 あ、いや、その…


 …ごめん」



(昴くん…?)



 昴くんがひとつ咳払いする。


「あのね、舞奈。大人の恋愛ってのはそういうことじゃないから。舞奈はいつも通り舞奈らしくしてればいいんだよ」


「……


 だって…昴くんばっかりずるい。いつも余裕で、私ばっかりドキドキさせられて…」



 唇を尖らせて俯くと、昴くんは私の前にしゃがんで顔を覗き込む。



「余裕なんかないし。今だってそう。俺がどれだけ自制してるか分かる?


 ずるいのは舞奈の方。純粋な可愛い顔して俺のこと誘惑して、どんだけ小悪魔なの」



 そう言って私の顎を摘まむともう一度ちゅっと小さくキスをした。



「さて」

 

 昴くんはさっと立ち上がってバッグとスーパーの袋を拾う。


「ペスカトーレ作ろうか」



 そして私の脇をすり抜けながら囁く。



「続きはまた夜に、ね」



「ふぇっ!?」



 昴くんがくすっと笑う。いつものキラキラの笑顔で。



「ほら早くおいで」



 昴くんが私に手を伸ばす。



「うん!」



 私は跳ねるように立ち上がると昴くんの手を取った。見つめ合い、もう一度口付けを交わす。



「ところで舞奈、イカ捌けるの?」


「うーん、多分。生物の授業で解剖したことがあるから」


「相変わらず君、いいな。頼もしいよ」


「もう!また私のこと『男前』とか言う」


「言ってない!言ってない!」



 何てことないやりとりをしながらふたりキッチンに並ぶ。



「昴くん、包丁どこ?…の前に手洗いたい」


「あぁ包丁はここ。鍋はこっちに出しとくから。あと手伝えることあったら何でも言って」


「あ、じゃあねにんにくの皮剥いて欲しいな」


「了解」



(あ…なんかこういうの、大人の恋人同士っぽい)



 隣に立つ昴くんの様子を横目で窺う。

 綺麗な指先でぺりぺりとにんにくの皮を剥く昴くんはいつもの先生よりちょっと、ほんのちょっと、近い。

 物理的な距離というよりきっと、見えている世界が、近い。大人の恋、大人の世界。



 そうやって少しずつ同じ世界が見えたらいい。


 ずっと、同じ世界にいられたらいい



(新しい世界へようこそ、新しい私)



 真新しい私はただ真新しいわけじゃなくて、今までの私があるから。貴方と出逢って、貴方と乗り越えてきた過去があるから。

 今までも、今も、そしてこれからも。貴方と共に出逢う新しい世界を歩いて行きたい。


 怖くなんてない。だって、どんな時も貴方は私の行く道を照らしてくれる。星のように。



 そして私も。


 あの頃の私とは違う。ただ貴方の光を頼りに弱々しく生きる私ではなくて、貴方が迷った時には、今度は私が貴方の行く道を照らす星でありたい。ささやかな光かもしれないけれど、この星彩に包み、抱き締めてあげたい。



 だって私は─




「ねぇ昴くん」


「ん?」


「あのね…





 愛してる」








    《星降る夜はその腕の中で ─終─》



あとがき。



 長きに渡るご購読、誠にありがとうございました。


 このお話は2017年1月から他サイトにて執筆を開始し、休載、修正を繰り返しながらどうにか完結を迎えました。ひとえに皆々様のご購読に後押しして頂いたお陰で、本来私の持てる力の2倍も3倍もの力を注ぐことが出来た賜物だと、深く感謝致しております。ありがとうございました。


 私にとってこのお話はとても思い入れがあり、ここ数年は常にこの作品と共にあり我が子のように育てて参りましたので、完結は嬉しくもあり、少し寂しくもあり…

 しばらくは余韻に浸りつつ、『2月~雪の降る夜に』のふたりきりの雪降る深夜の詳細を番外編にするとかして暮らそうか…


…需要なさそうだね( *´艸`)



 さて。この度エブリスタにて新作を開始致しました。

https://estar.jp/_novel_view?w=25241450


 女子校教師×生徒ものの第2弾となっております。本作で私が密かに推していたあの先生が恋のお相手です(^-^)

 もしご興味おありになれば引き続きよろしくお願い致します。



 読者の皆様に感謝を込めて


 2019年2月 緑杜ミント with love♡

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