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12月~ハツカレ1


「ねぇ舞奈」



 清瀬くんが学校まで迎えに来た帰り道。



「何?」


「毎日迎えに来ていい?」


「えぇっ!ダメだよ!」


「なんで?会いたいじゃん?」


「そうじゃなくて!毎日あんなところに立ってたら、生徒指導の先生とかに見つかったら怒られちゃうよ」


「えー、俺気にしないけど?」


「私がするの!」



 清瀬くんは唇を尖らせる。


「しゃーねーな。じゃ駅で待ってっから」


「…うん」



 清瀬くんが繋いだ手を握り直した。

 指と指の間に自分の指を差し入れ、掌をしっかりと包み込んで握り締める。


『恋人繋ぎ』って言うんだよね?

 この繋ぎ方、なんだか落ち着かない。



「それに、出来れば連絡して。今日だって私が帰るの早かったりしたら行き違いになってたよ?」


「なんねぇよ?だって俺、2時頃からあそこにいたし」


「え?授業なかったの?」


「午後の授業さぼった」


「えぇっ!」


「授業よりかお前に会える方がいいに決まってんじゃん?」



 校門の前に4時間も…


(岩瀬やヤマセンに見つかんなくてよかったよ…)



「来週さ、お前誕生日だよな?」



 駅へと並んで歩きながら清瀬くんが言った。



「うん」


「一緒に祝お」


「えっ!」


「えっ!じゃねぇよ。嫌なのか?」


「…ううん」


「じゃ決まり」



(誕生日か…)



 一緒に祝ったりしたら…



(別れにくくなるな…)



 清瀬くんとの思い出はあんまり増やさない方がいい。



私の気持ちを知ってか知らずか、清瀬くんは私の顔を覗き込んで


「楽しみにしてる」


といつものように笑った。




 次の日、清瀬くんと私は塾の最寄りの乗り換え駅で待ち合わせをした。



「じゃ行こ」


 清瀬くんは私の手を取り、勝手に駅から出ていく。



「清瀬くん!帰らないの?」


「帰ってどうすんの?俺んち来る?誰もいないけど?」


「!!

 じゃなくて!」



 私はそのまま清瀬くんに引きずられるようにして付いていくしかなかった。



 清瀬くんは南口の目の前にあるファストフード店に入り、2階への階段を上がる。


 階段を上って清瀬くんが見回すと、


「あっ!ユウト来た!」


「こっちこっち!」


と奥のテーブルの数人がこちらを見て手を振っている。



「おー、待たせたなー」



 清瀬くんは私と手を繋いだまま、もう一方の手を彼らに上げた。



(あ…)


 塾で清瀬くんと一緒だった子たちだった。



「彼女可愛いじゃん」


「ちょっと、ちゃんと紹介してよ!」


 彼らが口々に言う。



「清瀬くん…?」


 恐る恐る清瀬くんを見上げると、清瀬くんは私にちょっと微笑んでから、彼らに向き直る。



「改めて紹介しまーす。俺の彼女の南条舞奈」


「清瀬くん!?」



 清瀬くんは繋いでいた手を解き、その手で私の肩を抱き寄せた。



 その瞬間、


「ウェーイ!」


「ユウト、おめでとー!」


「ヒュー!」


と彼らが拍手喝采する。



「だろー?マジ可愛いだろ?俺の彼女。もっと羨ましがっちゃってー」


「ちょっ!清瀬くんっ!」



 みんなが詰めて空けてくれた席に清瀬くんと隣同士に座る。

 席に座ると清瀬くんは再び私の手を取って自分の膝に乗せ、今度は両手で包み込むように握った。



(うゎ…恥ずかしいんだけど…)



 俯いていると周りの子たちが話しかけてくる。


「舞奈ちゃんどう?ユウト、良い男だろ?」


「こんなイケメンに告られたらそりゃ好きになっちゃうよねぇ」


「えっと、あの…」


 ノリにたじたじしてしまう。



「ユウトはモテるけど、でも自分の方から告った子、多分舞奈ちゃんが初めてだよ」


「え…」


「あー私もユウトの好きな子って聞いたことなーい」


「確かに。いつも告られた子と『お試し』とか言って付き合ったりしてるけど、本気で付き合ってるってのは聞いたことないな」



(そうなの…?)


 清瀬くんって、女の子慣れしてるというか、どちらかと言うとチャラい印象なんだけど…



(誰でもいい、ってわけじゃ…ないのかな)



 隣の清瀬くんをちらっと見ると、


「うっせーな。余計なこと言うな」


と彼らに向かって頬を少し赤らめて言う。



(!?)



 こんな顔するの、初めて見た…


 ちょっとだけドキッとさせられてしまう。



「とは言えユウトはお試し彼女を切らしたことないからねー。多分手が早いから舞奈ちゃん、気を付けた方がいいよー」


「え…」


 みんながケラケラと笑う。



「また余計なこと言いやがって」


「あはは。ま、気を付けなくてもいんじゃない?舞奈ちゃんもユウトとなら全然OKでしょ?」


「え…あの…」


「付き合って2日?3日?もうキスくらいしてるよねー、ユウトなら」



(えぇーっ!)



 会話に付いていけなくなっておどおどしていると、



「ご名答」



と清瀬くんは言うなり私の肩に腕を回して引き寄せた。


 私の顔に清瀬くんが顔を寄せる。



(ちょっ…!えぇっ!!)



 みんながどよめく中、抵抗する間もなく清瀬くんの唇が数ミリまで迫る。



 身を固くする。


(ど、どうしよう!)



 と、そこで清瀬くんはぱっと身体を離した。



「やっぱここじゃちょっと、ね」


 清瀬くんが私とみんなを交互に見て言う。



「また後で。二人きりになってからね?」


「え…」



 そんな清瀬くんと私をみんなが囃す。


「えー!ユウト、見たかったー!」


「きゃはは!悪趣味~。でも確かに見たかった!」


「ダーメ。他の客もいんのにここでディープキスとか出来ないっしょ」


「えぇっ!ディープかよ!あっははは!」



 このノリ、付いていけないんだけど…



 そう思って俯いていると、一人の女の子が別の女の子に向かって、


「奈穂子もいい加減なんか言いなよ?」


と声を掛けた。


 奈穂子と呼ばれた女の子は他のみんなの楽しげな様子に比べて表情なく、テーブルの奥の端の席に座って頬杖を突いていた。



(あの子…塾で清瀬くんにくっついてた子…)



「別に…あたしは…」



 奈穂子ちゃんは私に眼を向け、一瞬眼が合うとふいと逸らした。



「ユウトが好きな子なら、別にいいと思う…」



 あぁ…

 彼女は清瀬くんのこと好きなんだな…



 それに気付くとなんだかとても罪悪感を感じて、胸が痛む。



「んじゃ、俺ら行くから」


「あ…」



 清瀬くんが私の手を引いて席を立ち上がる。



「えーユウト来たばっかじゃん?」


「お前らいたら俺らイチャイチャできねぇじゃん。ほら、さっきの続きしなくちゃだし。なぁ舞奈」


「えっ!」



 思いっきり退く私にまたみんなが笑う。



「ユウト、マジやべぇ」


「あんまりガツガツしてると嫌われちゃうわよー」


「ユウトなら大丈夫じゃね?」


「あはは、あーね!」



 清瀬くんに手を引かれて、私はみんなに会釈すると清瀬くんに付いて店を出た。



「悪ぃな。みんな舞奈に会いたいっつって」


「あ、ううん」


「てか俺が見せびらかしたかっただけかも」


「え…」



 そう言う不意打ち、やめてほしい。

 意図せずもドキドキしてしまう。



「この後どうする?」


「この後?」


「折角だしデートしよ?」


「!」



 清瀬くんが横目で視線を投げて微笑む。

 その瞳はクールなのにどこか色っぽくて…



(…!)


 私は慌てて眼を逸らす。



 そんな私の耳元に清瀬くんは口を寄せる。



「それともうち来る?」


「!!いっ、行かないしっ!!」



 清瀬くんは堪えきれないというように大笑いして、それから綺麗な微笑みで


「舞奈マジ可愛いね」


なんて言う。



(こういうことさらっと言うんだもん、そりゃモテるよね)



 顔を背けた私に清瀬くんは訊ねる。



「じゃカラオケ行く?」


「カラオケ…」



カラオケだと清瀬くんと完全にふたりきりになってしまう…



「舞奈何考えてんの?もしかしてやらしー想像したでしょ?」


「してないよっ!」



 清瀬くんの前では考えることも出来ない。要注意だ。



「俺も『行きたーい!』て言われても困ると思ったからいいよ」


「?なんで?」


「俺、歌苦手だから」


「そうなんだ?」



 清瀬くんにも苦手なものあるんだ…



「じゃこの辺りなら…ゲーセン?」


「私、ゲーセンで遊んだことなくて。プリ撮りに行ったことくらいしか…」


「じゃゲーセンの遊び方教えてやるよ。ついでにプリも撮ろう?」


「え…」


「あ、プリも密室でふたりきりだーとか思ってる?舞奈意外とむっつり…」


「違うってばっ!」



 膨れた私の頬を清瀬くんが人差し指でつつく。



「もう!」


「はいはい、早く行こう?帰り遅くなると困んでしょ?」



 結局清瀬くんのペースだ…

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