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11月~生徒以上、恋人未満1

 文化祭が終わり、今日から代休。

 私にしてみれば連休4日目。



 私は朝から自分の机の上に置かれたスマホを睨んでいた。



(用もないのにメールしちゃ…ダメだよね?やっぱり…)



 実は3日間、こうしてスマホを睨んでばかりいた。


 けど、先生は文化祭で休日出勤してて忙しいんだから、と自分を制していた。



 でも今日は先生もお休みのはず─



 先生もう起きてるかなぁ。

 何してるかなぁ。

 逢いたいなぁ…



 溜め息の数は本日既に二桁突入。



 用事作るにはやっぱりここは分からない問題作らなくちゃ…


 私は英語の問題集を広げる。


 こんな風にして私の勉強する気を引き出してくれる先生は実はすごい先生なんじゃないか?


 先生自身はきっとそんなこと知らないだろうけど…



(あっ!ここちょっと難しいかも…)



 難しい問題にぶち当たって、心の中でガッツポーズしちゃう私は…


 普通じゃない状態かも…



(うん!これ、先生に聞いちゃおっ!!)



 机の端のスマホを取り上げる。

 にやにやしながら画面をタップしていく。




――――――――――――――――――――――


Date: 201x 11/xx 12:10


To: 初原先生 〈x…_pleiades9x0503@……〉


Sub: 南条舞奈です。


――――――――――――――――――――――


南条舞奈です。

メアドありがとうございます(^-^)


それと、いつもわからないとこ教えてくれてありがとうございます♪♪♪




今日はお休みですか?


英語の問題集でわからないところがあったので聞いてもいいですか?


わからないところ、写真で送ります。時間あるときで全然いいので教えてもらえるとうれしいです♪


-END-

――――――――――――――――――――――




 書きたいこといっぱいあるけど、なるべくシンプルに。なるべく丁寧に。


 書いては消し、消しては書いて。


 何度も何度も見直しして。


 1時間もかかってようやくメールが出来上がる。



(♡とか使っていいかめっちゃ迷っちゃった)



 結局勇気がなくて使えなかったけど。



 いつも揺花や友達との連絡はさらっとメッセージアプリでやり取りするのが多かったけど、先生とはメールで良かったと思う。


 時間は思いっ切り掛かったけれど、迷って、悩んで、先生のことだけ一心に思って書いたこの時間もなんだか愛おしいから。



(返信…来るかなぁ…)



 スマホが気になって気になって、もう勉強どころじゃない。机に広げたテキストを見るともなくパラパラ捲る。



(先生、おうちに居るのかなぁ…)



 溜め息は更に数を重ねる。


 頬杖を突いて白い目覚まし時計に眼を遣る。

 送信ボタンを押してから10分。



(もう1時間くらい経ったかと思ってた!)



 もう一度スマホを覗き込む。



(先生読んでくれたかなぁ…)



 やっぱりアプリだったら既読が分かったのに…


 スマホを手に取り、代わり映えのしないメール画面を何度も見る。



 と、突然手の中でスマホが震え、お気に入りの女性アーティストの曲が流れ出す。


 メールの着信音。


 そして画面には…



(先生!!)



 メールを開く指先が緊張する…



――――――――――――――――――――


Date: 201x 11/xx 12:26


From: 初原先生〈x…_pleiades9x0503@……〉


Sub: Re:南条舞奈です。


―――――――――――――――――――――


初原昴です。


メールありがとう。頑張ってるね!


質問の件。

これ結構難しい方だと思う。


メールで説明しても解りにくいと思うから、電話番号教えてくれたら掛けるけど、時間ある?


-END-

―――――――――――――――――――――




(先生と電話!?)



 今掛けちゃってもいいのかな…


 画面に映した先生の番号はこの数日何度も見つめて、もう既に暗唱してしまってる。



 ドキドキしながら通話ボタンを押す。


 トゥルル、トゥルル…



「…もしもし?」



 2コールで聞こえる私の好きな声。



「あ、あの…私…南条舞奈です」


「南条!なんだ、こっちから掛けるって言ったのに」


「うぅん…

 あのね、私…早く話したかったの、先生と」


「……」



 返答がない。

 短い沈黙の後に先生が言う。



「可愛いな、お前」



「!!」



(今『可愛い』って言われちゃった、よね!?)



 先生はどんなつもりで『可愛い』なんて言うんだろう?


 好きな人の『可愛い』がどんなにか女の子を、私を幸せにするか…

 分かってるのかな…?



「でさ、質問の件だけど?」



 ひとりドキドキしていると先生は本題を切り出す。


 そうだ…そのことで電話したんだった…



「南条、今日午後忙しい?」



「えっ?」



「あ、ごめん、聞こえなかった?午後空いてないか、って聞いたんだけど?」



 聞こえてたけど、なんで質問の説明が『午後忙しい?』になっちゃうのか分からなくて聞き返したんだけど…



「結構込み入ってんだよね、この問題。もし良かったら会って教えるけど?」



(えぇっ!)



 電話だけでもドキドキなのに、先生は更に素敵な提案をしてくれる。



「今日用事あったら別に明日でも…」


「大丈夫!今日全然空いてる!!」



 ていうか、今日も明日も逢いたいよ!



「もし差し支えなかったらそっち行くけど?どっか…駅前なんかに長居できるとこある?」


「あ…うん!駅前商店街の一本裏通りにハンバーガー屋さんがあって、そこならわりと空いてるし大丈夫と思う」


「分かった」



 私は先生とこっちの駅に2時に待ち合わせする約束をして電話を切った。



 先生の声が止んだスマホをじっと見る。



(先生に逢える!)



 高鳴る胸がトクトクと音を立てる。



「舞奈、昼ごはん出来てるよ」


 ドアの向こうで母の声がする。



「今行く!」


 正直ごはん食べるのももどかしいんだけど。


 せわしい気持ちで私はダイニングに駆け込んだ。


        *   *   *


 自宅の最寄り駅。

 午後1時45分。



 今日は少し広いVネックが大人っぽいロイヤルブルーのニットワンピースにコートを羽織ってみた。


 ワンピースは幽かに一緒にしまってあったパープルのオードトワレの香り。


 花柄のバッグにはもちろん問題集。



 この時間は電車の本数が少ない。

 次の電車に先生が乗っていないとその次は2時を過ぎてしまう。



 閑散とした改札にホームのアナウンスが流れてきた時、


「あっれ!?舞奈じゃん!?」


 甲高い声が響く。


 振り返るとそこには知った顔があった。



「ユナちゃん!」


「久しぶり~!!え?小学校の同窓会で会って以来だよね?2年ぶりとかじゃん!?」



 ユナちゃんは小学校の同級生。

 中学から今の学校に入った私は地元の友達に会うことは珍しい。



「舞奈待ち合わせ?」


「うん。ユナちゃんは?」


「私も高校の友達と遊びに行くとこ。今日代休でさ」


「あ、うちもそう。ユナちゃん高校どこだっけ?」


「西高だよー」


 西高はこのエリアで二番手の県立高校。



「西高って他に誰が行ったんだっけ?」


「んー…舞奈が知ってる人あんまりいないかも。

 あ、清瀬が一緒だよ。清瀬優翔きよせゆうと、覚えてる?」


「う、ん…」



 誰だっけ…?


 と思ったところで、ホームに電車が着いた音がした。



「清瀬、相変わらず凄いモテるよー。なんか会う度に違う女の子連れてる」


「へぇ…」



 ごめん、ユナちゃん。清瀬さんが誰だか分かんないや…



 訊ねようとしたところで、改札の向こうで階段を降りてきた先生の姿が見えた。


 先生も私の姿を捉えて、右手を挙げる。



 黒のショートトレンチとデニムに柔らかそうなグレーのマフラーをふわっと巻いた先生の姿はいつもより更にカッコ良く見えて、思わずにやけてしまう。



 そんな私に気付いたユナちゃんが私の視線を辿る。



「舞奈の彼氏!めっちゃカッコいい!!」



(あ…)



 彼氏に見えちゃうのかな!?見えちゃうのかな!?



 嘘は良くないと思いつつも、否定したらカッコ良過ぎる先生のことをユナちゃんが好きになってしまうかも!?なんて余計な心配して、曖昧に笑顔を返す。



「幸せそうな顔して!」


 ユナちゃんは私の笑顔の意味をそう捉えて、二の腕にパンチした。



「じゃ私行くね」


とユナちゃんが手を振り、改札に入って行く。



 入れ替わりに先生が改札を抜けてくる。


 先生はいきなり私の頭をくしゃっと撫でた。

 大きな優しい掌に心が安らぐ。



「お疲れ。行こっか?」



 なんかホントにデートみたい。


 先生がホントに私の彼氏だったらな…


 なんて白昼夢を見てしまう。




 昼下がりの裏通りのハンバーガーショップはやはり空いていて、長居して勉強を教えてもらうにはちょうど良さそうだった。



「南条何飲む?」


「私、木苺フレークシェイク!」


「またなんか可愛いもの選ぶなぁ」


「ここ来たらいつもこれって決めてるんだもん」


「じゃあ木苺フレークシェイクとブレンドコーヒー」


 先生が注文してくれる。



 私がお財布を取り出すと、先生が手で制す。



「いいよ。このくらい」


「え、でも先生、来てもらった上に悪い…」


「誘ったの俺だし。それに南条頑張ってるから」


「…ありがとう。じゃあ必ずどっかでお礼するね!」



 私が言うと先生は


「期待して待ってる」


と私の好きな甘い笑顔で言った。




「木苺フレークシェイクとブレンドコーヒー、お待たせ致しました」


 艶々の赤いジャムが美味しそうなシェイクがトレーに乗せられる。


 先生がトレーを取り上げ、上階へ上がる階段へと向かおうとした時、背後から


「舞奈!」


と呼ぶ声がした。



(え…?)


 声の方へと視線を向ける。



「!!」


「木苺シェイクなんか頼む人、お前以外にいるんだー、とか思って見たら、やっぱお前かよ。


 って…舞奈、『お友達』?」



そう言って先生に視線を移したその人物は…




「お兄ちゃん!!」




 兄だった…



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