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9月~引き離されたふたり2

 翌日の放課後。



 揺花に先に帰ってもらい、私は図書室で自習していた。


 自習と言ってもただの時間潰し。


 5時を回って生徒が疎らになると私は静かに図書室を出る。



 人目を避けるように向かう先は



 英語準備室。



 一度そのドアの前を通り抜け、直ぐの非常階段からこっそり様子を窺う。

 電気は点いているけれども話し声などはしない。


 中にいる人は多分一人。



 だとするときっと…



(先生だ…)



「はぁー…」



 深い深呼吸ひとつしてドアをノックする。



コンコン…



「失礼します」



 引き戸を開けるとそこには



 はたして先生がいた。




「南条…!」



 パソコンの画面から顔を上げた先生と眼が合うと、先生は心底驚いた顔をした。



「何しに来た…?」


「先生に逢いに来たの」



 私は何事もなかったように笑って見せる。



「帰りなさい、岩瀬先生に見つかったらどうするんだ」


「私は別に構わないよ」


「……」



 先生は私から眼を逸らす。そして少しの間の後、溜め息混じりに言った。



「…俺は困るよ」



 分かってるよ、困らせてるって。


 でも…



「先生に、進路のこと聞いてもらいに来たの」



「それは村田先生の仕事だろ」



(仕事…)



 先生はやっぱり、私が生徒だから親身になってくれただけなのかな?

 気持ちが昂って泣き出した私を教師だから抱きしめてくれただけなのかな?

 仕事だから優しくしてくれただけなのかな?



 仕事だから、他の生徒と同じように…




 私は…


 私は先生じゃなきゃダメなのに。




(分かってるよ)


 仕事だから、学校から『南条の進路指導に手を出すな』と命令されれば、先生はその通りにしなければならないことも…



仕事だから…




「先生」


「……」



 先生は呼び掛けても眼を逸らしたまま。



「先生は、私に


『南条の夢を一緒に探す』


って言ってくれたでしょう?


 あれは、『仕事だから』言った言葉なの?」



 無言の先生の眉間が少し寄ったのが分かった。



 ねぇ先生…


 違うって言って。


『私』だったからだ、って言って…



 重い沈黙の後、先生がおもむろに口を開く。



 こちらを見ることもなく…



「…そうだな」



「!!」




 教師と生徒でいい。



 ただ私が、私だけが一方的に先生を好きなだけでいい。


 それだけでいい。



 でも…



 先生に逢いたい、傍にいたい。


 そして、ようやく暗い暗い闇の中にたったひとつ、一条の星の光が見えた私の手を取って欲しい。




 私が先生の『仕事』でなくなってしまったら



 ただそれだけ、それさえも許されないのかな…?



        *   *   *

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