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68『【治療魔法】と錬金医薬師』

 最初にしたように下瞼を下げて粘膜の充血具合を調べ、脈を取る。

 また口を開けてもらい扁桃腺の様子を確認した。

 そして慎重に【解析】をかける。


『ああ、これは……

 身体が弱いはずだわ。

 針の先ほどだけど心臓に穴が空いてる。それで心臓自体に負担がかかってずいぶん虚弱化してるのね。

 穴を塞いだとしても心臓自体は正常にまで戻らないかな。

 でもよく20年弱、保ったわね』


「薬師殿、どうだろうか?」


 いつの間にかジャマーが入室してきていた。


「うん、ちょっと待って」


 アンナリーナは続けて【解析】を進めていく。


『多臓器不全……起こしかけているなぁ。特に肝臓と腎臓がヤバいじゃない……』


「ねえ、今までマリアさんが飲んでいた薬……全部見せて」


 だんまりを貫いていたアンナリーナが突然振り返って出した指示に、ジャマーは慌てて小箱を持ってきた。

 中には丸薬を入れる小瓶や薬包に包まれた粉薬が数種類入っている。

 アンナリーナはそれをひとつひとつ【鑑定】してみた。


「ああ〜 これが原因かぁ……

 ねえこれ、どうやって手に入れた?」


 色々な種類の薬は大きく分けて、風邪薬と咳止め、そして熱冷ましだったのだが、その質の悪さと言ったら。

 特に熱冷ましは常用すると有毒だ。


「行商を襲って手に入れた。

 俺たちは薬の類はいつもそうやっている」


「ねえマリアさん、ここに来る前も同じような薬を飲んでいたの?」


「味も匂いも変わりないように思います」


 物心ついてからずっと薬のやっかいになっているのだ。

 そこいらの薬師よりも薬の良し悪しを見極める舌を持っているだろう。


「……薬の質が良くないね。

 ジャマーさん、治療していいかな?

 全治は無理でもなるべく良くしてあげたい」


「もちろんだ。よろしく頼む」


「【回復】」


 人差し指と中指を揃え、まずは心臓の穴の開いているところをピンポイントで癒す。

 次は心臓全体を包み込みイメージで【回復】

 やはり心筋が弱っていて全快には程遠い状態だ。だが無理をしなければ年を重ねることは可能だろう。


「【回復】」


 腎臓の機能が損なわれることはなかった。


【解毒】


 肝臓は蓄積されていた毒素を取り除き【回復】をかけると快方に向かった。


「【回復】

 これでしばらくは大丈夫。

 でも、薬の常用は良くないよ。

 何かハーブで考えてみるね。

 それから水分をたくさん摂ること」


「い、医薬師……いや、錬金医薬師なのか?」


 ジャマーは今、目の前で見たものが信じられなかった。

『錬金医薬師』なんてものは一生の間にお目にかかれるかどうか……

 もしその存在を確認すれば、一国の王が三顧の礼をもってして迎えるだろう。


「治癒魔法が使える事は内緒〜

 ……裏返して言えば【回復】を使わなければならないほど危なかったって事。マリアさん、私の魔法では完治させてあげることができなかったの。ごめんね」


 ジャマーとマリア、二人ともがかぶりを振った。

 治療魔法を使ってもらって、これ以上何を望むと言うのだろう。


「薬師殿、一体どう言えばいいのだろう……」


「あとはこれ以上熱が上がらないようにお薬を処方するよ。

 今までのとは全然違うから安心してね」


 アイテムバッグから小型の薬箱を取り出すと、二つの丸薬を選び、マリアに差し出した。

【ウォーター】で出した水を添える。

 そうしておいて、アンナリーナは次の作業に入った。


 薬箱から取り出した、きつく密閉された小壺に入っていた軟膏。

 それは取り扱いの難しいハーブ【チェッカーベリー】の実を潰して配合した湿布用の軟膏だ。

 それを布に薄く塗り、マリアの首に湿布する。


「これでしばらく様子を見ようか。

 私、向こうの寝床の用意とか、少し場を離れるけど、誰か付き添いをつけてくれるかな」


「俺がついてる。

 薬師殿、本当にありがとう」


「それは熱が下がってから言ってよ。

 じゃあね」


 アンナリーナは外で待っていたフランクを連れて、あてがわれた部屋に戻っていった。



「フランク、ちょっと手伝って欲しいの」


 アンナリーナはまずマチルダとキャサリンが滞在する部屋を調える事にした。

 まず、インベントリから敷物を出す。

 毛足の長い絨毯は老薬師のアイテムバッグで眠っていたものだ。

 フランクに手伝ってもらって位置を決めると、次にソファを出す。

 これとテーブルは以前ツリーハウスで使っていたものだった。

 そして【異世界買物】で買った暖炉型ファンヒーター(魔力)を出すとフランクが食いついてきた。


「わお!リーナ、これはなんだ?」


「これは亡くなった師匠の出身国で開発された魔導具だよ。

 まあ、携帯用の暖炉?かな。

 魔力で動いているのでもちろん薪は要りません」


「ほおぅっ、すごいな」


「これなら空気が汚れないからね。

 洞窟は換気が出来ないから気を使うよ」


 山の向こうでは、そろそろ雪が降り出したのだろう。

 洞窟内の空気も冷えてきた。


「マチルダさんとキャサリンさんを連れてきてくれる?」


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