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49『計算と野営地到着』

 アンナリーナはアイテムバッグから黒板を取り出した。

 白墨で数字を羅列していく。


「ほら、ここ。違ってる」


「あ、本当だ」


 アンナリーナがサラサラと計算し直すと、グスタフが目を見張っている。

 目が合ったアンナリーナは微笑み返した。


「私、計算が得意なんです。

 と、言うか薬師なら誰でも得意だと思いますけどね」


 薬師には常に計算が付いて回る。

 だが薬師全員、計算が得意とは言い切れない。

 現に、王都のある薬師は回復薬の素材の量×数量の表を作って、それを見て調合している。


「ん〜?

 これって、同じ数値を何度も足してません?

 掛け算はしないの?」


「あ〜 実は掛け算は苦手で。

 あまり覚えてないんだ」


 びっくりするアンナリーナ。


「えー、いつも何度も足してるの?

 マジ?」


「お恥ずかしながら……」


 アンナリーナはアイテムバッグに手を突っ込み、紙を一枚取り出した。

 それは【異世界買物】で手に入れたB5版のコピー用紙だ。

 それにマス目を書き、数字を書き込んでいった。


「はい、九九の早見表。

 これにリズムをつけると覚え易いんだよ……」


 これは最早、一子相伝の秘密の情報だ。

 そんなものをポンと教える、この目の前の少女をグスタフは信じられないものを見るような目で見ている。


「四則演算は薬師の基本だよ?

 誰でも知ってる事だし、何でそんなに驚くの?」


「いや、だが、しかし」


 アンナリーナはサクサクと計算を進めていく。

 余白に答えを書いていき、あっという間にその書類の分は終わった。


「その、今のは何だろうか?」


 グスタフは、どうやら筆算の事を言っているようだ。

 それと、桁が増えた時にしていた “ そろばん式 ”の暗算。


「んんっ?掛け算の筆算の事?

 これは九九を覚えてからだね。

 こっちは……」


 親指でそろばんを弾く仕草をする。

 実はアンナリーナ、前世ではそろばんの有段者であった。


「ちょっと普通の人では無理かな?」


 アンナリーナが笑いながら書類を返して見せる。


「そんなことより全部やっつけちゃおうか?暇だし」


 渡りに舟のグスタフは書類入れから数枚の羊皮紙を取り出し、アンナリーナに渡す。

 そんな2人の、ある意味ほのぼのとした様子を、キャサリンとロバート夫妻が盗み見ていた。



 ガクンと馬車が大きく揺れ、その後止まったのを感じて目が覚めたマチルダが身を起こした。


「あ、ちょうど良いタイミングで起きたね。具合はどう?」


 モロッタイヤ村で大量購入した木の杯に【ウォーター】で水を注ぐ。


「結構、寝汗をかいているようだから、お水を飲んで、それと【洗浄】

 これでさっぱりしたでしょ?」


 生活魔法と言えども、本来はギフトの一つだ。

 この少女は【薬師】のギフト持ちのはずだから複数のギフトを持っていると言う事になる。

 マチルダにだって、それがとても稀有だということがひしひしと思い至る。

 そして無頓着で警戒心のない彼女が心配になってしまう。



「ここが今夜の野営地なんだって」


 街道のあちらこちらにある中継地の中に等間隔で、宿泊用の小屋のある場所がある。

 その小屋は【ピット】と呼ばれ、緊急避難的な意味合いもあるので、暖炉や厨、内井戸も備え付けてある。


「荷物はピットの中に入れて下さいって。夕食は外で食べるらしいのだけどね、マチルダさんは私と一緒に食べよ?

 ……朝食べてから何も食べてないでしょ?胃に優しいものを出してあげる」


「え、ええ、ありがとう。

 実は気分が悪くなるのが嫌で、朝も何も食べてないの」


「ダメだよ、それ!

 余計に具合が悪くなるよ。

 じゃあ、尚更消化の良いものを準備しなきゃ」


 とりあえず、と。

 アイテムバッグから大型のミルクピッチャーを出して、空になった杯に注ぎ入れる。

【加温】を唱えてミルクを温め、角砂糖を一個入れて匙でかき回しマチルダに渡す。


「はい、ホットミルク。ゆっくり飲んでね」


 胃に膜を作って、過敏な反応を抑える働きをするのだと、アンナリーナが言う。

 彼女の言動はマチルダが驚くことばかりだ。


「甘い……」


 砂糖入りのホットミルクなど初めて飲んだマチルダは、そっと杯を両手で包み込んだ。



 マチルダの荷物を持ち、焚き火の用意をしているザルバたちの元に向かったアンナリーナはその視界の隅に、中継地に入ってこようとする馬2頭と、箱馬車を捉えた。

 チラリと一瞥して、無視をする。



「ザルバさん、今夜はマチルダさんも一緒に食事します。

 思ったより胃腸が弱っているようなので、特別メニューにします。だからよろしく」


「おお、でも嬢ちゃん大丈夫か?」


 ザルバは残りの乗客に視線を移した。


「拙いかな?」


「うーん、大人しく黙っていてくれたら良いが……」


 アンナリーナは素早く考えを巡らせた。

 マチルダの食事は以前作り置いた、ミルクベースのスープ。

 クタクタに炊かれて形が崩れた野菜や豆。これにパンを入れて一煮立ちさせる。

 自分たち4人分の食事は問題ない。

 フランクとの約束どおり、茹でたてソーセージの粒マスタード添え、薄切りの玉ねぎ入りコンソメスープ、ほうれん(もどき)のバター炒め、ゆで卵入りのポテトサラダ、パンだ。


「んん〜

 今夜のメニューは人数分を作り置きしておいたものが多いのよ。

 だから新しく作らなきゃならないし……ソーセージはあげたくない」


 アンナリーナは考える。


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