37『お邪魔虫フランクと森の主の体液』
フランクなんていうお荷物をぶら下げたまま、森に行くのは御免蒙る。
しかし彼は律儀に、雇い主であるザルバに言われた通りアンナリーナにくっついて離れない。
彼女は今、ほとほと困り果てている。
『宣誓魔法はいかがですか?』
突然ナビが思考に割り込んできた。
これはいわゆる【念話】というもので、アンナリーナとナビだけの間で成立する会話法だ。
もちろん他人に聞かれる事はない。
『そうだね、どちらにしても一度、テントは出さなきゃね』
一度、宿屋に向かうための道を歩いていたアンナリーナは、後ろを歩いているフランクを振り返った。
「ちょっと話そうか」
道端の、ちょうどいい加減の大石に並んで座る。
アイテムバッグから冷えたハーブ茶とソフトクッキーを出してフランクに渡した。
「私ね、これから採取に行きたいってさっきから言ってたでしょ?
ぶっちゃけ、ついてこられたら困るわけよ……薬師の秘密ってやつな訳。
出来たら森の入り口あたりで待っててくれないかなぁ?」
「俺はザルバさんに依頼されてる。
嬢ちゃんの言う事もわかるんだが」
「じゃあ、ザルバさんがいいって言ったら一人で行かせてくれる?」
「それは、まあ……」
奥歯にものが挟まったような物言いだ。
護衛と言うより監視という方の批准が多いのだろう、少し可笑しくなる。
「ザルバさん、探しに行こうか?
どこにいると思う?」
「どちらかの宿屋だろうな」
どちらにしても揉めていると思う。
第一に、今夜もう一泊する事になる、ザルバの乗り合い馬車の客6名の、余分にかかる今夜の宿代だ。
これを客に負担させるわけにはいかないので、ザルバと組合の方で話し合いが持たれているはずだ。
「ザルバさんとこ、行こうか」
ギルド出張所の交信水晶の前で、今まさに頭の血管が切れそうになっているザルバを見て、アンナリーナはフランクと顔を見合わせた。
「あまり刺激したくないなぁ……
ねえ、フランク?」
2人はザルバに声をかけずに回れ右する。そのまま馬車の置いてある空き地に戻って来た。
「えーっとね。
私はこれから、薬師の秘密を使って採取に行く。
他の人に見られたくも、知られたくもないわけで、もしもついてくるなら、それなりの覚悟をしてもらわなきゃならないの。
あなたにその覚悟はある?」
フランクの顔が引き締まる。
「具体的な内容は?」
「宣誓魔法を受けてもらう。
もし破ったらさっきのオークやトサカ鳥のようになるよ?
それから好奇心からついて来ても、私は容赦しない」
アンナリーナの身体から、大量の魔力が溢れ出す。
あまり魔力値の高くないフランクには見えないが、黒い負の魔力が彼の周りを取り巻き、その圧を強めていく。
息苦しくなるほどの圧力にフランクが悲鳴をあげた。
「嬢ちゃん!リーナ!
わかったから、もうやめてくれ!」
一瞬にして緩む圧力。
睨めつけるアンナリーナを前に、フランクは崩れ落ちた。
「わかってくれて、うれしいです。
必ず戻ってくるから安心して。
これでも解体して待っててよ」
アンナリーナはバッグからトサカ鳥を2羽取り出す。
「羽をむしって解体しておいて?
ももを骨つきにして山賊焼にするね。
一応、骨も内臓も棄てないでくれる?」
フランクにトサカ鳥を2羽押しつけて、アンナリーナは駆け出した。
やっと自由に動くことが出来る。
身体強化して全速力で走るアンナリーナを、フランクは呆然と見送っていた。
森に入って、視界が遮られているのを確かめたのち【飛行】を使って奥に進んでいく。
「ちょっと “ 大物 ”を探さなきゃいけないから……手間取るかな」
実はアンナリーナ。
魔獣除けの香を作ろうと思っている。
御者台で使えば馬車全体をカバーする、いつもより強力なものを用意するため、格上の魔獣の体液が必要なのだ。
「何か、ちょうど良さそうなのがいないかしら」
「この先、正面の山を越えたあたりに強力な反応があります。
おそらく【バイパー】ではないかと」
ナビの指摘にアンナリーナは小躍りせんばかりに喜ぶ。
「おお、それは重畳。
早速、仕留めに行きますよ〜」
ここ数日のストレス解消のようにトばして、あっという間に山越えをした彼女は、空中を浮遊しながら探索した。
「クリムゾンバイパー……
毒々しい大蛇だね。
でも、いっちゃうよ〜
【サファケイト】」
森の中の木よりも太い胴をした、全長30mはある巨大な蛇の魔獣。
この森の主であろう【クリムゾンバイパー】を、アンナリーナは呼吸するものすべての命を刈り取る【サファケイト】で屠った。
周りが一瞬で真空になった中、生命機能を停止したこと自体気づかずに骸となった【クリムゾンバイパー】を悦に入った表情で見つめるアンナリーナ。
バッグからガラス瓶を何十本も取り出し、地面に置いた。
「体液【抽出】」
アンナリーナの言葉ののち現れたのは、血液、リンパ液、精液、その他の体液に分けられた瓶だった。
「どれを使ってもいいんだけど、今回はリンパ液でいこうかな」
魔獣除けの香は、普段は魔獣の嫌がる植物とクズ石炭、そして綿毛を練り上げる。
今回はそれに上位魔獣の体液……この場合はクリムゾンバイパーのリンパ液を混ぜて出来上がる。
「ナビ、無事に採取できたよ。
一度ツリーハウスを出して、ゆっくりしようか」
「もう少し村に近い方がよろしいのでは?そしてハウスを展開したまま、テントとの間を繋いだらいかがでしょうか?
【異空間魔法】空間接続です」
「それ!便利そうだね。
早速ギフトで取ってみよう」
「先にセトの方を終わらせるね」
ローブを脱いで身軽になったアンナリーナが、手のひらの上のセトを撫でる。
「【体力値供与】【魔力値供与】
そして【鑑定】」
セト(アイデクセ、雄)
体力値 3500
魔力値 370
「ギフト【異空間魔法】
そして、ステータスオープン」
アンナリーナ 14才
職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子
体力値 102400
魔力値 34843571040055/34843561040054
(ステータス鑑定に1使用、異空間魔法に10000000)
ギフト(スキル) ギフト(贈り物)
[一日に一度、望むスキルとそれによって起きる事象を供与する]
調薬
鑑定
魔力倍増・継続 (12日間継続)
錬金術(調合、乾燥、粉砕、分離、抽出、時間促進)
探索(探求、探究)
水魔法(ウォーター、水球、ウォーターカッター)
生活魔法(ライト、洗浄、修理、ファイア、料理、血抜き、発酵)
隠形(透明化、気配掩蔽、気配察知、危機察知、索敵)
飛行(空中浮遊、空中停止)
加温(沸騰)
治癒(体力回復、魔力回復、解毒、麻痺解除、状態異常回復、石化解除)
風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード、サファケイト)
冷凍(凍結乾燥粉砕)
時間魔法(時間短縮、時間停止、成長促進、熟成)
体力値倍増・継続(12日間継続)
撹拌
圧縮
結界
異空間収納(インベントリ、時間経過無し、収納無限、インデックス)
凝血
遠見
夜目
解析
魔法陣
マップ
裁縫
編み物
刺繍
ボビンレース
検索
隠蔽(偽造)
従魔術
体力値供与
細工
再構築
無詠唱
悪意察知
魔力値供与
空間魔法(転移)
異世界買物
位置特定
異空間魔法(空間接続、空間増設)