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324『乳母殿との会話』

 ヤーコブが連れていかれたのは別棟にある公爵家私兵の本拠地。その牢だ。

 そこで拷問紛いとも思える尋問を受け、当家の執事の1人が嫉妬心を煽ったのだとわかった。

 それも執事としての守秘義務違反を犯し、この度のアンナリーナの情報を中途半端に漏らしていたのだ。

 老公爵の怒りは頂点に達し、ヤーコブと青年執事は即座に鉱山に送られた。

 そこで彼らは鉱山奴隷として一生を終える事になる。



 アンナリーナはジャクリーヌの寝室に、乳母と2人でつきっきりで観察していた。

 その身体から毒は完全に解毒されている。だが生来の脆弱な身体は予断を許さない。


「乳母さん、出来れば今までジャクリーヌ様に処方された薬や薬湯、薬草茶、ハーブ茶まで残っているものをすべて見せていただけますか?」


「わかりました。

 すぐに持ってこさせます」


 扉付近に控えていた侍女がお辞儀をして退出していった。

 アンナリーナはジャクリーヌの脈を診、熱がないか確かめて【解析】する。

 今のところ心配していた肝臓にも異常はない。だが生まれてからこれまで穴の空いた心臓で、騙し騙し命を繋いできた繊細な身体だ。通常では想像もつかない事が起きるかもしれない。


「ジャクリーヌ様が今まで服用されていたお薬を把握しなければ、私が新たな薬を処方することは出来ないのですよ。

 本当はこれから、担当されていた薬師殿と相談して、それからと思っていたのですが……」


 アンナリーナの表情が曇っている。

 まさか、ずっと側にいた薬師がこのような事をやらかすとは。


「それでは薬師庵に行かれてはどうでしょう?

 そこは公爵様が用意された先代の薬師殿様の家です。

 その弟子であるヤーコブと2人で調薬もなさってましたので、色々記録なども残っているのではないですか?」


 アンナリーナがパッと笑顔になる。


「では公爵閣下にお願いしてみます。

 レシピが残っていれば良いのですが」


 最悪、現物があれば【解析】してその成分を知ることが出来る。

 そこから色々作業を模索して再現すればよいのだが。


「リーナ殿には重ね重ねお手数をお掛けします。

 どうかお嬢様の為、よろしくお願い致します」


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