318『浮島の譲渡契約』
老公爵はアンナリーナとセトを自らの書斎に案内した。
そこでは侍女が、すぐにでも茶を淹れられるよう準備して待っていた。
「そこに掛けてくれ。
あと、お前たちは茶を出したらここから出て行くように」
頷いて、無言で自分たちの仕事をこなし、そしてまた無言で礼をした2人が部屋を出たのを確かめてから、老公爵は話し始めた。
「さて、リーナ殿が提供してくれた事で孫娘の命が助かった。
今度は儂が約束を守る番だな。
まずはこれを見てくれ」
先ほど、退室して行く前に筆頭執事が用意していた巻物を広げる。
それは自領が詳しく描かれた地図であって、そこには浮島も記入されていた。
「儂の領地の北の端……主に海上や海岸沿いに分布している【浮島】は、ある程度の大きさのものは7個。
細かいものは無数にあるが、リーナ殿の求めているのは」
そこで老公爵は顔を上げた。
「そんなものではないのじゃな?」
「はい、それなりの大きさの【浮島】が欲しいのです。
公爵様は私が望んだものを本当にくださるのですか?」
「もちろん約束は守る。
どちらにしろあれは儂にとっては無用の長物。
それがある事によって土地が陰り、あまり良いものではない」
「では、私がそれを移動しても?」
「どうやって動かすつもりかわからんが、構わぬよ。
むしろ大歓迎だ」
アンナリーナはにっこりと笑った。
「では契約を。
そして明日にでも行ってきます」
今日のこの後の時間はジャクリーヌの、これからのケアのために使う。
夕餉の支度の前の休憩時間に入っていた料理長に無理を言い、時間を取ってもらった。
彼はかなり思考が柔軟な人間で、アンナリーナからもたらされるメニューに興味津々のようだ。
そして、高栄養食の観念を教えられ、今までの肉料理などの高カロリー料理とはまた違ったものだと知ってびっくりしていた。
「鳥肉のハンバーグ……これはオークとミノタウロスの合挽きですが、ハンバーグと言う料理です。
そうですね、一緒に作ってみましょうか」
そこから即席の料理教室となった。
まずは基本のハンバーグ。
下働きの少年に玉ねぎのみじん切りをするように頼み、アンナリーナと料理長は食料庫に向かった。
「オーク肉はありますか?
牛系魔獣の肉は?」
「オークはこちらに。
あと牛系は牛鹿と言う、このあたりでは昔から食べられている魔獣の肉ですが、いかがでしょう?」
アンナリーナは巻かれていた布を外し、肉質を見る。
赤身のきれいな肉だ。
「どうやらあっさり目のようですね。
ではオーク6、牛鹿4の割合で細かくみじん切りにして下さい」
次はみじん切りされた玉ねぎを飴色になるまで炒めていく。
同時にパンをすりおろし、調味料を確かめた。
「普段、肉の臭み消しには何を使ってますか?」
料理長はかぶりを振る。
どうやら、公爵家レベルの料理人でも臭み消しの概念はないようだ。
「そうですね……生姜はありますか?
はい、それです。それをすりおろして下さい」
料理長以下、公爵家の料理人たちはアンナリーナの言うことを一言一句聞き逃さないように集中し、その手元を食い入るように見つめていた。




