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316『悪意を持つもの』

 老公爵は見違えるほど元気になったジャクリーヌと共にいる事に夢中だった。

 だが、アンナリーナとの約束を忘れているわけではない。

 それにアンナリーナは経過を観察すると言った。

 老公爵は執事を向かわせて、アンナリーナの都合を聞く事にした。


 そしてアンナリーナの方はと言えば、十分な睡眠をとった事で体調も向上したようだ。

 遅い朝食は公爵邸の侍女に断りを入れ、自前のブレックファーストメニューをアイテムバッグから出して、セトとともに食べた。

 テラシォン公爵家を信用していないわけではないが、老公爵とその他のものの思惑が一致しているとは限らない。

 念には念を入れて事に当たることにする。



「医薬師殿、公爵閣下がお呼びです」


 昨夜の筆頭執事とは違う、若い執事が慇懃無礼な態度でアンナリーナに声をかけた。

 セトは機嫌を悪くしたが、アンナリーナはようやく呼び出しが来たかと立ち上がる。


「ちょうど良かったです。

 そろそろお嬢様の診察の予定でした」


 アンナリーナと共に立ち上がったセトに冷たい目を向けたこの執事は何もかもが気に入らないようだ。


「そちらの方はご遠慮下さい。

 こちらでお待ちになっていただけますか?」


「そんな事を聞けるはずがないだろう?」


 グルグルという唸り声と共に発せられた言葉には威圧も籠められていて、執事は自らの意思と関係なく膝をついた。


「公爵殿の威を借る愚か者。

 一体誰にものを言っているつもりだ?」


 ダダ漏れの魔力と威圧で彼は顔をあげている事も難しい。

 そして日勤の彼は昨夜の出来事を……セトがドラゴンだということを知らなかった。


「何事ですか!?」


 昨夜の筆頭執事が部屋に駆け込んで来て、少し威圧が緩んだ。

 彼はアンナリーナとセトと、そして床に這いつくばっている執事を見て、何となくだが状況を察知した。


「ちょっとした意見の相違です。

 彼もセトも間違った事は言ってないし、していないのですが。

 私の、今置かれている状況からして、決して過剰な反応だとは思えないのです」


「医薬師殿、申し訳ございませんでした。セト殿も怒りを納めていただけませんか。

 私が、この場を借りて謝罪させていただきます」


「そんな! どうして?!」


「黙らっしゃい」


 昨夜、主人である公爵をこの少女とともに運んできたブラックドラゴンは彼だ。これ以上怒らせると本体に戻ってぺしゃんこにされてしまう。


「医薬師殿、セト殿、旦那様がお会いしたいと仰ってますのでこちらにどうぞ」


 そもそも貴人が、それも女性が護衛や従者もなく他者と接触するなどあり得ないのだ。

 昨夜はそれも飛ばして、状態の悪いジャクリーヌを治療してくれた事が特殊だったのだ。

 先ほどの執事は最初からアンナリーナたちを見下してかかっていたが、わかっていないのは彼の方だ。


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