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315『セトとアンナリーナ』

「医薬師殿、こちらにどうぞ」


 恭しく一礼した老人……公爵家の筆頭執事が、アンナリーナを公爵の私的な居間に案内した。

 そこで紅茶と軽食を供され、そしてセトと合流する。



「無事、治療する事が出来たわ」


「そうか。主人も休んだ方がいい。

 公爵殿への説明は明日にして、せめて横になった方がいい」


 この3日、無理に無理を重ねてここまで来た。

 アンナリーナにはそろそろ限界が近づいている。その証拠に顔色が悪く、微かにクマが出始めていた。

 そんな遣り取りを聞いていた筆頭執事が、2人の話に割って入った。


「お話中申し訳ございません。

 ただ今お部屋を用意しておりますので間もなくご案内出来ると思います」


「申し訳ないが俺も主人と同じ部屋にして欲しい。

 俺は従者も兼ねているのだ」


「承りました」


 そうこうしているうちに、ひとりの侍女が入室してきて筆頭執事に何事が言う。


「お待たせ致しました。どうぞ、こちらへ」


 こうしてアンナリーナたちは、ひと時休息する場所を得た。




「主人、俺が起きているので、もう横になれ」


 部屋に入ってすぐに自らに【洗浄】をかけ、身体はさっぱりしている。

 セトの手も借りてローブと服を脱いでいく。


「うん、もう限界かも。

 ごめん、もう寝させてもらうよ」


 大人用の寝台はマットレス部分が高く、アンナリーナが上がるのは一苦労だ。

 それに気づいたセトがうとうとしかかっているアンナリーナを抱き上げて横たえた。


「主人、ポーションは飲めるか?」


 半ば眠りかけているアンナリーナの口許に瓶を近づけると、素直に受け入れてくれた。

 そのあと上掛けをかけて寝台から離れる。

 この後、セトはソファーに腰掛け、朝までそのまま不寝番を務めた。

 ……テラシォン公爵を疑うわけではないが、今夜アンナリーナはこの家の孫娘の、不治だと言われていた病を治した。

 公爵が対価を渋り、アンナリーナを排除する事も無いとは言えない。

 そんな疑心暗鬼とも言えるセトの思いは、呑気すぎるアンナリーナと足して2で割ればちょうど良いのではないか。


「まあ、そこが主人の良いところなのだろうがな」


 主人は今のまま、そのままでいれば良い。

 主人に足らないものは自分たちが補助をすれば、主人は変わらず生きてゆける。


 セトはその心に宿る思慕の想いを押し殺し、これからも主人を支えていくのだ。


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