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314『【劣化版 アムリタ】の効果』

 改めて横になったジャクリーヌの全身に【解析】をかけ、アンナリーナはその全身をくまなくスキャンし、異常を発見しようと集中していた。


 そして、老公爵にとって決して短くない時間ののち、ジャクリーヌの身体に毛布をかけたアンナリーナが振り返った。


「お待たせしました。

 結論から言わせていただければ、ジャクリーヌ様は【病原】以外には異常は認められません。

 ただ生来の抵抗力の弱さは如何ともし難いので、投薬については私が付いて、その後もしばらく経過を観察したいと思います。

 ……公爵様、アムリタが使えますよ」


 最後のその言葉を聞いた老公爵は崩れるように跪き、神に祈りを捧げていた。


「さあ、これを飲んで下さい」


 ジャクリーヌに差し出されたのは見事なクリスタルの瓶に入った【劣化版アムリタ】だ。


「大丈夫、おそらく副作用はありません。

 薬が過剰反応するような疾患はありませんでしたし。

 ゆっくり、全部飲み干して下さい」


 瓶をじっくりと見つめていたジャクリーヌは、それをゆっくりと口に近づけた。そして顎を上げ、瓶を傾ける。

 ……良薬は口に苦しと言うけれど、事この【劣化版アムリタ】に関してその心配はない。

 独特の薬臭さはあるが、味自体は嫌味のない甘さだ。


「あら、美味しい……」


 さほどの量があるわけでもなし【劣化版アムリタ】はサッと喉を通っていった。同時にいくつもの魔法陣が形成され一度光ると消えていった。


「【解析】」


 未だ、自らの体内で起こった衝撃に身を固めたままのジャクリーヌの全身をスキャンして、アンナリーナは大きく頷いた。


「成功です、公爵様。

 ジャクリーヌ様の心臓に空いていた穴は跡形もなく塞がりました。

 今はまだ体力がなく、筋力も最低限ですが、少しずつリハビリをしていけば普通のお嬢様と同じように生活できますよ」


「……息苦しくない」


 自分に起きた事を理解出来ていなかったジャクリーヌが、ようやく言葉を発した。

 彼女の正常な心臓が、十分に血液を送り出し、真っ白だった顔色に血の気が戻ってくる。そして何よりも、紫だった唇が娘らしいピンクに色を変えていた。


「今はまだ無理しちゃ駄目だけど、これからは好きな事を何でも出来るから」


 ベッドの上で上体を起こし、足を降ろそうとしているジャクリーヌに苦笑する。


「筋力がないから、おすすめしないわ。

 そのあたりはゆっくり、ですね」


 リハビリやマッサージのやり方を教えると言えば、側にいた乳母が破顔する。その頬には涙の筋が付いていた。



「本当に、治ったのか?」


 震える声でそう言った老公爵は、ジャクリーヌに近づくと思いの丈を込めて抱きしめた。

 この世でたった2人の家族はお互いを抱きしめ合う。

 ……少し、羨ましいと思ったアンナリーナは静かに部屋を出たのだった。


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