300『悲しき冒険者』
迷宮都市のダンジョンには毎日何組、多い時には何十組もの冒険者パーティーがその中で採れる素材や魔獣を目当てに潜っている。
だが、そのすべてのものが無事戻ってくるわけではない。
現在、最高到達点は186階層だがそこまでたどり着くまでどれほどの冒険者が犠牲になっただろうか。
彼らのほとんどは、その最後を迎えた場所も、状況も知れずダンジョンに取り込まれていく。
そして彼らは “ 帰ってこない ”と言うことで自らの死を皆に知らせるのだ。
「ケフィン、こんなことになって」
ヤルディンが唇を噛み締める。
「あの、ヤルディンさん。
ケフィンさんは1人で潜ったんですか?違いますよね?
一緒に行った人はどうなったんでしょう?」
「ケフィンは仲間4人と【紺碧の空】と言うパーティーを組んでいた。
今からおよそ3ヶ月ほど前、いつものようにダンジョンに向かって、全員そのままだ」
おそらくその4人もダンジョンに取り込まれてしまったのだろう。
だが今回の件のような例は今まで記録になく、初めての事のようだ。
「とりあえず、今夜も出現するか監視しますが、ヤルディンさんはどうすれば良いと思います?」
「どうすれば、とは?」
ヤルディンは訝しげだ。
「……普通に屠って良いか、と言うことです」
アンナリーナの答えに、今度は目を瞠った。
「そうか。奴はもうアンデッドなんだな」
ヤルディンの脳裏にケフィンが冒険者登録した時のことを思い出す。
それは今から10年ほど前、冒険者登録ができる14才になった彼が幼馴染たちと共に登録しにやって来て、自分が担当した。
志の高い少年たちは声高にはしゃぎ、周りの大人たちに暖かい眼差しを向けられていた。
……そして時は過ぎ、少年は青年となりランクもCまで上がった。
彼自身Bランクも目前とされたある日、パーティーランクBの【紺碧の空】はいつものように依頼を受けてギルドから出て行き……それっきりだった。
「諦めてはいたが、現実を突きつけられると……堪えるものだな。
ああ、リーナ殿、どうもありがとう」
感傷に浸っているわけにはいかない。
もし彼が浅層に上がってきて冒険者に被害が出たら取り返しがつかないことになる。
自我を持たないアンデッド。
これほど厄介なものはない。
「ケフィンを……
その他の奴らも見つけたら」
ヤルディンは言葉を続けられなかった。




