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33『護衛たちと朝食』

 この乗り合い馬車の護衛のフランクとゲルトは昨夜、アンナリーナがテントに引っ込んでから見張りの交代に来ていたので、今朝が初顔合わせだ。


 話には聞いていたが本当に少女だ。


「俺はフランク」


「俺はゲルトだ。これから7日間、よろしくな」


「リーナです。こちらこそ、よろしく……えっと、朝食召し上がりました?」


 “ 召し上がる ”なんて言葉を久々に聞く2人は、目を白黒させている。


「嬢ちゃん……その、悪い。

 またご馳走してもらえないか?」


 ザルバが大きな身体をもじもじさせて見つめてくる。

 アンナリーナはニッコリ笑った。


「よかった。すぐに用意するね。

 フランクさんとゲルトさんのもね」


 2人は、話でしか聞いたことのない、初めてその目で見た【薬師のアイテムバッグ】から、次々と出されていく鍋やバスケットを見て唖然とする。


「お口に合えばいいんだけど」


 3人が出した木皿にスープを注いでいく。

 今の今まで火にかけられていたようなスープは、とうもろこしの粉で作った即席風スープなのだが、溶けかけた玉ねぎやひよこ豆が入っている。

 そしてサイコロ切りのハムがたくさん入っていた。


「本当は、ハム以外裏ごしするんだけど、これは噛んで食べたかったからこのままね。

 細かいつぶつぶはキヌアって言って、とても栄養があるの」


 バスケットには昨日と同じロールパンが山と積まれている。


「同じパンでごめんね。

 でも量はたくさんあるから、好きなだけ食べて?」


 そして大きめのフライパンを取り出し、焚き火の火で温め始めた。

 玉子液も取り出す。


「もう一個、足すかな」


 大きめの玉子……トサカ鳥の玉子を出して割り入れる。

 塩、胡椒、ミルクを足して、フライパンにはバターをたっぷりと落とし揺り回しながら溶かしていく。

 そこに玉子液を入れて、様子を見ながらかき回していく。

 あっという間にスクランブルエッグが出来上がって、各自が出してきた皿に分配した。


「手抜きでごめんね。

 形は悪いけど味は大丈夫だと思うよ」


 大丈夫どころではない。

 調味料を惜しげなく使ったスクランブルエッグは、少なくても護衛の2人にとって食べた事がないほど美味だった。

 ガツガツと掻き込むスープも、あっという間に量を減らす。


「お嬢ちゃん、美味い、美味いよ」


 フランクは最早、涙目だ。


「朝食は一日の始まりの大切な栄養なんだよ。お腹いっぱい食べてね」


 にっこりと笑って首を傾ける仕草。

 その途端、3人は年甲斐もなく惚れてしまった。

 それを口に出さなかったのは、例の一件……グレイストが求婚して、嫌がるリーナを追いかけ回している事を知っているからだ。


 そんな事を知るべくもなく、アンナリーナも食事を始めた。

 その前で3人が目配せする。

 そうして口を開いたのはザルバだった。


「嬢ちゃん、昨夜からこいつらと話し合ってたんだがなぁ」


 ザルバの口調に不穏なものを感じ、アンナリーナは背筋を伸ばした。


「お嬢ちゃんと昨日の夜話し合った件、あれが少し拙いんじゃないか、って事になったんだわ」


 アンナリーナは断られると思い身を硬くした。


「嬢ちゃん」


 ゲルトが代わって話し出す。


「こいつが雇った……なんて事になってたら、乗客の連中もこぞって自分の分も作ってくれって言ってくる」


 話を聞いていた時は半々といったところを想像していたが、食した今は確信している。


「だから、旅慣れない嬢ちゃんをこいつ(ザルバ)が預かったという事にして、その代わり食事の世話をしている……という事にした方がいいんじゃないか、と思うんだよ」


「おお、素晴らしい!」


 アンナリーナではまったく思いつけなかった事を指摘され、さらに解決案まで示してくれる……この冒険者たちを尊敬した。


「それでお願いします」


 またペコリと頭を下げて、そしてお礼を思いついた彼女は、早速バッグに手を入れて、作り置きしていたカッテージチーズと砕いたナッツとくるみ、それに蜂蜜を取り出した。

 小さめの椀にカッテージチーズを入れ、ナッツ類を入れて蜂蜜を控えめにかけ、簡単デザートの出来上がり。


「甘さは控えてあるけど、蜂蜜はたくさんあるから、よかったら足してね」


 塩味と、蜂蜜の甘みのバランスが絶妙なデザートを、文字通り涙を流して平らげたのは4人だけの秘密になった。


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