297『招かざる客』
今、このダンジョンにはアンナリーナたちの他に数十組の冒険者たちが潜っているが “ 攻略 ”と言えるのは彼女らだけだった。
ほとんどの冒険者は浅層で行動し、その討伐や素材で報酬を得ている。
それは、そのレベルの収入でも最低限ここでは暮らしていけるからだ。
この迷宮都市のダンジョンは、浅層に限って出没する魔獣のレベルの割に身入りが良く、それがこの迷宮都市に冒険者を集めるひとつの理由になっていた。
そして上層の半ばあたりからは難易度が上がるが、それに伴い報酬も上がる。
今ダンジョンにいる冒険者はほとんどがここにいて、ひと組だけが50階層あたりにいる状況だ。
その頃アンナリーナたちは61階層にいた。
今回は素材も採取しているので、その進行速度はゆっくりである。
「もう、このあたりからは他の冒険者とは会わなくなるわね。
イェルハルドも他の子たちも顕現していていいよ。
そろそろ昼休憩にしましょ」
西風の精霊王イェルハルドに、炎火の精霊王ユリウス、清水の精霊王ラーシュ=ヨーラン、黄土の精霊王ペール=オルフの4人が嬉しそうに浮いている。
そこにアンソニーが一個ずつ包装されたホットドッグを大量に持ってやってきた。
中の具はもちろん肉。
暖かいチャウダースープと合わせて、精霊王たちも満足の昼食だった。
アンナリーナたちの今夜の野営地は62階層。
いつものように馬車の周りに結界を張り、夕食を摂り、アンナリーナはツリーハウスに戻って休んでいた。
「?!」
夜半、結界の異常に飛び起きたのとほぼ同時に、寝室に近づいてくる気配がする。
「リーナ、いいか?」
馬車の方で休んでいたはずのテオドールが部屋に入ってきた。
心なしかその表現は強張って見える。
「リーナ、今結界の外に冒険者らしい奴が来ている。
ただ、様子が少しおかしいので対応を躊躇しているんだ。
おまえの考えを仰ぎたい」
テオドールが対応出来ないというのも珍しい事だ。
アンナリーナは防寒のガウンを羽織ると、馬車に続く扉を開いた。
「主人、起こして済まない。
俺は放置すべきだと思うのだが」
セトがローブを着せ掛けてくる。
この戦闘用ローブは各種状態異常はもちろん寒さ熱さも防いでくれる品だ。
「結界に触れているものがいるね。
……人間? どうやってここまで来たんだろう」
こっそりと扉の隙間から覗いて……すぐに顔を引っ込めた。
「なに? ……あれ」
“ それ ”は人の形をしているが、人でないもの。
 




