286『ドラゴンの他の出品物』
今日アンナリーナはエッケハルトに呼びだされ、ウェンライトを訪れていた。
「わざわざお越しいただき、申し訳ない」
エッケハルトは恐縮しているが、むしろ彼が学院を訪れる方が、アンナリーナにとってよろしくない。
なるべく彼との交流は他者に知らしめたくないのだ。
「いいえ、それでどうしました?」
学院で王子の取り巻きたちに追いかけ回されているアンナリーナは、良い気晴らしだとホイホイとやって来た。
至って上機嫌である。
「それが、少々ご相談したい事がございまして」
エッケハルトはアンナリーナを応接室に誘い、ソファーを勧めた。
今日の護衛はテオドールだ。
「実はオークションの出品リストを見ていたところ、メインであり最終出品物であるドラゴンがあまりにも存在感が大きくて、他の出品物が霞んでしまうのですよ。
リーナ様、誠に厚かましいのは重々承知しておりますが、何かお持ちでないでしょうか?」
何か珍しいものを。と言葉を重ねられ、アンナリーナは苦笑する。
「そうですねぇ、珍しければ価格の上下はよろしいのですか?
それならまず、このようなものはいかがでしょう?」
【薬師のアイテムバッグ】から取り出され、バラバラと机の上に出されたのは、色とりどりの宝玉だ。
これは宝石と区別されている半貴石だが、ツリーハウスの側の小川から採れるものは他では見ない姿をしている。
「これは……」
「私の故郷の、魔獣の森の中で採れた宝玉です。
あちらでも珍しいもので、何よりもその魔力の含有量が他に類を見ないほどです。宝飾品だけでなく護符などにも加工できますよ。
このトパーズや翡翠は特に護符向きですね」
キラキラと輝く、丸い貴石。
エッケハルトは懐からモノクルを取り出して身につけた。
「これは……素晴らしい品質ですね。
この翡翠という宝玉の魔力含有量は私より多い。
ええ、とても良いお品です」
「オークションに出しても貧弱じゃない?」
「とんでもない!」
エッケハルトは大袈裟な仕草で立ち上がった。
「今回、ご招待した顧客の皆様は、皆鑑定の手段をお持ちですので、一目見ただけでその価値を認めて下さいます」
「そう、ではこれはどうかしら」
次に取り出したのはベルベット張りの平たいケースだ。
この中には、以前アンナリーナが夜会用に買ったネックレスが入っている。
ただ、この購入後にもっと質の良いものが見つかったのでお蔵入りになっていたものだ。
……勿論【異世界買物】で購入した。
ケースを受け取ったエッケハルトが留め金を外してケースを開ける。
そしてその中のネックレスを目にして、その眩さに思わず目を瞑った。
小ぶりだが質の良いダイヤモンドのネックレスは、フロントの石が一番大きく、そこから徐々に小さくなっていくデザインである。
そして何よりも重要なのはそのカットだ。この世界の技術にはまだブリリアンカットはなかった。
煌めくダイヤモンドは、アンナリーナの私物以外では初めてのものだった。
 




