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277『ドラゴン素材の行方』

【迷宮都市】の外壁の外とダンジョンの100階層に転移陣を残して、アンナリーナたちはツリーハウス経由で首都に戻ってきていた。

 そして今、アンナリーナは冒険者ギルドでギルドマスター、ヤルディンと顔を合わせていた。


「何よりも、無事でよかった。

 学院も心配していたぞ」


 魔導学院がらみとはいえ、自らのギルドの依頼での事故にヤルディンは憔悴しきっていた。

 そのような彼を見て、ギルドだけでなく彼にもプラスになるよう考えねばならないと思う。


「帰って来て早速なんですけど、この首都で一番レベルの高いオークションを紹介して下さい」


「何か欲しいものがあるのかね?」


「いえ “ 売りたい ”ものがあるのです」


 ここでアンナリーナは、世話になったヤルディンに報いるために、ギルドの鑑定部門に誘った。


「その前に、ギルドに買い取ってもらいたいものがあるんです」


 ヤルディンとギルドの筆頭鑑定士の前にインベントリから取り出したのは、ダンジョンで大量に狩ってきた下位竜【ウィンドドラゴン】の牙と逆鱗、そして血を2瓶だ。


「これは……ドラゴン」


 ワナワナと身を震わせた鑑定士は、感激のあまり言葉が出ない。


「あまり大したドラゴンじゃないですけどね。

 ……ギルドにはご迷惑、ご心配をかけてしまいましたし、オークションの前にこの素材をお譲りします」


 これは暗にこの素材をどの時点でどう扱っても良いという事だ。

 ドラゴンほどの素材となるとギルドだけでなくギルドマスターの功績にもなる。


「オークションにもドラゴンを出します。

 だからその前でも後でも、お好きな時に流通させて下さい」


 ヤルディンの興奮は、その日のうちにギルド全体に広がっていった。




 オークション。

 それは、王侯貴族がいないこの魔人領でも、富裕層の集まるセレブの社交場だ。

 アンナリーナの前世での『サザビーズ』のようなものかと想像していたのだが、こうしてやってきてみるとそれ以上であった。


 ギルド差し回しの、富裕層の馬車にも見劣りしない箱馬車から、テオドールのエスコートで降りたアンナリーナに周囲の視線が集まる。

 そのような人目を気にする事もなく、アンナリーナは玄関に立っていたドアマンに今日の訪れの理由を告げた。


「冒険者ギルドのヤルディンさんからのお話しが通っているはずです」


「リーナ様でございますね。

 はい、お聞きしております。

 どうぞ、こちらへ」


 ドアマンが扉を開けると、そこには執事然とした老紳士が佇んでいた。

 彼はアンナリーナを見て気持ちを引き締めた。


「ようこそ、リーナ様。

 主人がこちらでお待ちしております」


 アンナリーナたちが案内された応接室にはこのオークション会社のオーナーと筆頭支配人、そしてこれからアンナリーナとの取引に当たる担当者が揃っていた。


「こんにちは。

 今日は私のためにお時間を取っていただき、ありがとうございます」


「こちらこそ初めまして。

 当社のオーナーをしている、エッケハルトです」


 順番に自己紹介をしていく彼らだが、その視線は忙しくアンナリーナの全身を行き交っていた。

 ……彼女の外見から、その人となりを判断するのに忙しいようだ。


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