268『ダンジョン中層での……』
もし今回の件がダンジョンの氾濫の始まりであったなら……
迷宮都市はその成り立ちから、受ける被害は甚大なものとなる。
今回は斥候を兼ねていて、アンナリーナたちが帰って来次第、その報告を受けて避難計画が立てられる予定だ。
ネイサンは出張中のギルド長に代わって各地に手回しを始めていた。
それなりの面積のダンジョンの階層を、地図を頼りにアンナリーナたちは【飛行】でぶっ飛ばしていた。
「しかし……様にならんなぁ。
セト、イジ、すまない」
今回のメンバーでただひとり【飛行】を使えないテオドールが所在無げに運ばれている。
「何の。
お気遣いは無用ですよ」
イジは反対に楽しそうだ。
セトも同じように頷いている。
「序層は基本無視で。
上層も最初は無視していくね」
アンナリーナが時々ギルドカードを取り出し、階層を確かめ始め、テオドールたちがそろそろかと気を引き締め始めた頃、今日は先頭を飛ぶネロが【真空】を使い露払いをしていた。
「あ、倒した魔獣はちゃんと回収してね。
置いていくともったいないから」
そんな遣り取りをしながら階層を越えた、その瞬間。
「む?
皆様、お止まり下さい」
見るからに今までより魔獣の分布が増え、その一頭一頭のレベルが上がったのを見て取れる。
「……72階層。
昨日より浅い階層で魔獣が増えてる。
昨日は76階層からだったのに」
「これはあまり良くない傾向だな」
ようやく地面に足をつけたテオドールが、背に背負っていた戦斧を手にした。
「ここからは普通に走っていくよ。
副ギルド長との取り決めで、うちらだけで屠った魔獣は総取りだから」
すべてを買い取らせるつもりはない。
実は今回の魔獣のうち人型のものを、ネロの【死霊魔法】で眷属とする予定なのだ。
「特別なのが居たら、私が【眷属】にしても良いし」
ミノタウロスのツァーリのようにアンデッドでも常駐の側近として取り立てられるような魔獣がいれば良いと思っている。
「さて、気合いを入れて行くよ」
それは中層、80階層を越えてしばらく、順調に魔獣を屠っていて前進していた時だった。
今回は一応、先導しているネロが結界を張って進んでいたが、念のためアンナリーナも簡易な結界を張っていた。
そんな中、これまでと同じようにアンナリーナ一行は魔獣を屠り、風魔法を身に纏わせて走っていた。
「このまま88階層を突破するよ!
おそらくこの先の階層はまた【モンスターハウス】になってると思う。
この平原は」
ガツンと衝撃を受けたアンナリーナはそのまま吹っ飛ばされ、左側にそびえる岩壁に強かに叩きつけられた。
おそらく結界がなければ衝撃だけでは済まなかっただろう。
一瞬、意識が遠のいたのち、頭を振って、自分の身体に異常がないか確認して座り直した。
「リーナ!」
「主人!!」
ネロとイジは素早く周りを探査している。
アンナリーナの元にはテオドールとセトが駆け寄った。
「何かに……攻撃されたみたい」
胸が酷く痛む。
 




