267『ダンジョンへGO!』
呑気にコーヒーを飲むアンナリーナに、最初に気づいたのは【金色の戦盾】最年少ダウタイだった。
「なあ、あの子……昨日すれ違った子じゃね?」
「そう言えば、そうだな」
まだ、魔法職特有のローブを身につけていないアンナリーナは鎖帷子編みのチュニックとカーボン繊維が織り込まれたレギンスにエンシェントドラゴンのブーツ。ミスリルのベルトの背の方には闘鉈が差し込まれている。
そして本人といえば、いささか地味にしか感じられない容姿の……良くも悪くも少女、としか表現出来ない。
だがその後ろに控える4人は、とても平凡とは言い難い面子だった。
「っ! 竜人!!」
【金色の戦盾】唯一の魔法使いダンダリオが身体中の毛を逆立て、その恐怖を表している。
今朝のセトは、足手まといの冒険者に容赦なく威圧を行なっていたのだ。
そのセトが一歩足を踏み出し、アンナリーナからカップを受け取ると、手にしていた白銀色のローブをアンナリーナに着せかけた。
そしてこの行為で、ふたりの上下関係が確定された。
この、恐るべき竜人が仕える方なのだと。
ダンダリオが震撼しているところで【金色の戦盾】以外のパーティー【覇者】【強者の矜持】【鋼の意志】のリーダーが近づいてきた。
その後ろに続くメンバーも魔法職は皆、顔色を無くしている。
「なあ、あいつらはどういった連中なんだ?
ネイサンの話じゃあ、ちょっと聞きすごす事が出来ないような事を言ったらしいが」
「ふざけた事を抜かしやがって。
何様だってんだ」
「まあ……そう言われてもしょうがないかな。
俺たちは昨日、あの嬢ちゃんを見かけたんだが、あの子は【飛行】してすっ飛んで行ったよ。
あの様子じゃ俺らは完全に置いて行かれるわ」
「【飛行】持ちか」
「あの子も甘く見ない方がいい」
【覇者】の魔法職が真剣な表情で口を挟んだ。
彼は先程から冷や汗が止まらない。
「とにかく様子を見よう」
そこでネイサンから声がかかった。
「皆、集まってくれ。
この指名依頼を受けてくれた皆には、昨日話した通り、行けるところまでダンジョンに潜ってもらう」
地元の冒険者でも最近は最高70階層くらいまでしか潜っていない。
この中では【強者の矜持】のリーダーが3年前に76階層が最高だ。
「昨日は78階層から魔獣の数が格段に増えました。
うち以外の皆さんにはそれをわきまえて頂きたいです」
アンナリーナの言葉に何人かが頷く。
そしてこれからダンジョンでの魔獣氾濫を抑えるための戦いが始まる。
緊張とともにダンジョンにやってきた一行の中、初めてここを訪れるテオドールたちは都市型ダンジョンの入り口である神殿のような造りの建物に驚嘆していた。
石を切り出した円柱が続き、アンナリーナの前世のぺ○ラ遺跡に似た感もある。
「ではではお先に失礼して、行かせてもらいますね」
無詠唱でふわりと浮き上がったアンナリーナに続き、ネロがまず先導し、セトとイジがテオドールの腕を掴み飛び上がった。
「あ!? なんだ、あいつら!」
見る見るその姿が遠ざかり、小さくなっていく。
「元々待つ気はないと言ってましたし、状況を考えれば出来るだけ早く80階層に到着した方が良い訳で」
【金色の戦盾】のダンダリオはもう達観している。
「ある意味その手前の稼ぎは俺たちのもんだ!
気張っていこうぜ!」
こちらはこちらで士気が上がったようだ。
 




