266『ダンジョン行に向けて』
「ネイサンさん、確かめておきたいことがあるのですが」
「何でしょう」
「私たちが単独で狩った魔獣は、私たちの取り分、ということでよろしいですね?
足手まといに寄生されるのはまっぴらです」
あまりの辛辣な物言いに苦虫を噛み締めるネイサンだが、アンナリーナにも一理ある。
何しろこの5年、中層まで潜った冒険者はいないのだ。
「それで構わない。
今日中にパーティーの選別を終えて、明朝、集合場所であるここで紹介させてもらう」
自分たちは蚊帳の外でどんどんと進んでいく話に、テオドールが難色を示した。
「おい、リーナ。どういう事だ?」
「指名依頼を受けたの。
事情は後で説明するね」
「なるほどな、そういう事ならなるべく早く潜った方がいい。
むしろ今すぐ行ってもいいぐらいだ」
スタンピートの、それも既存のダンジョンのスタンピートを疑っているのなら残された時間はそれほどないと思った方が良い。
テオドールにはそれが痛いほどわかるため、明朝のダンジョン行に文句はなかった。
反対に色々提案される始末である。
その中でアンナリーナも納得したのは、一々宿に戻るのではなく、ギルドの駐馬車場を借りてそこで泊まるという事だ。
一行は一度出てきたギルドに戻り、ネイサンに理由を説明して駐馬車場の一画を借りれる事になった。
いつものように移動住居型大型馬車を取り出して、周りに結界を張る。
それから5人は中に入ってようやく装備を外す事が出来た。
「まったく……
やっとのんびりできるかと思ったら、次から次へと、色々関わってくるんだな」
もはやお約束である。
「ただ、この都市型ダンジョンでスタンピートが起きたら、それこそ大惨事だ。今回はリーナの判断……と言うかギルドの動きも早くて助かる」
「まあ、やっつけてきた魔獣を見せたからね。
バジリスクやギガンデスなんか見たらもう、顔色が真っ青になってたよ」
単独でもいくつものパーティーが束になってかかってようやく討伐できるレベルの魔獣だ。
その中には厄介な状態異常を引き起こす魔獣も多い。
「ギガンデスが出たのか。
あいつの威圧はタチが悪い」
渋い顔をしたテオドールには、過去に思い出したくないような事があったのだろう。
ギガンデスの威圧で硬直して、パーティー全滅も珍しくない。
「その前に【真空】で殺っちゃったけどね」
あまりにも通常の冒険者と違う、アンナリーナの魔法にテオドールは苦笑するしかない。
「おはようございます」
夜明け前に起き出したアンナリーナは湯気の立つコーヒーの入ったマグカップを片手に、ネイサンをはじめ、今日一緒にダンジョンに潜るだろう冒険者たちに挨拶した。
挨拶を受けた者たちが唖然として見ているのは、とてもダンジョンに潜れるように見えないアンナリーナの姿と、その暢気そうな態度。
だが、ネイサンの目から見ると昨日よりも装備などが新調されているようだ。
今回の指名依頼。
その召集が急だったこともあり、今朝集まれたのはアンナリーナたちを除いては4パーティー23人。
そのうちのひとつは昨日アンナリーナが横を通り過ぎた【金色の戦盾】である。
 




