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27『寝坊と次の村エイケナール』

 薄手の羽毛上掛けがモソモソと動き、包まって眠っていた人物の覚醒が告げられる。


「いま、なんじ?」


 舌ったらずの寝ぼけ声で、思わず呟いた問いかけに答えたのは、彼女の質問に回答することを使命とする【ナビ】である。


「おはようございます、主人様。

 そろそろ5時……正確には17時です」


「はあ?」


 上掛けをはねのけて飛び起きたアンナリーナは、ベッドに上体を起こしたまま、軽い目眩を感じた。


「お疲れだったのですね。

 よくお休みだったので起こさなかったのですが、お身体が弱いのですから無理は禁物ですよ」


 そうだった。

 アンナリーナは溜め息を吐くと、インベントリから水筒を取り出して水を飲む。

 そこで自身の空腹を感じて、慌ててセトに視線を移した。


「大変! セトにご飯をあげてない。

 待ってね、すぐに用意するから」


「主人様、あまり急激に動かない方がよろしいかと。

 セトは2〜3日食べなくても影響ありません」


 治らない目眩と、空腹からくる吐き気に襲われて、アンナリーナはそろそろと足を下ろした。


「胃に優しいミルク系のスープがありましたよね?

 それに細かくちぎったパンを浸してお召し上がり下さい。

 セトも同じものでよいです。

 それとりんごのコンポートも召し上がって下さい」


 至れり尽くせりの【ナビ】は、積極的に関わっていく事に決めたようだ。


「もどかしいです。

 私に主人様のお世話が出来たらよいのに」


 前回のように、完全に寝込んでしまった時の事を心配しているのだろう。


「そんな事にならないように気をつけるよ。約束する」


 インベントリから出したスープに黒パン、そしてりんごのコンポート。

 セトにローストビーフを切り分けてやりながら【ナビ】の話を聞いていた。


「とりあえず今日はもう、ゆっくりなさって下さい。

 急ぐ旅でもないのですから」


「そうだね【異世界買物】で買いたいものもあるし……」


 結局この後、いくつか買物したアンナリーナはベッドに戻ってしまった。

 虚弱な身体には充分な休養が必要なようだ。




 エイケナールの門はモロッタイヤとは比べようがないほど大きく立派だった。


 そこに、アンナリーナは前回と同じように近づいていく。


「こんにちは。

 お尋ねしたい事があるんですが……」


 ニコニコと笑みを浮かべて近づいてくる少女を見て、門番の男は肝を潰した。


「おう、嬢ちゃん。1人か?」


 モロッタイヤ村と同じ状況に、思わずにやけてしまう。


「はい。あの、ここから乗り合い馬車が出るって聞いてきたのですけど」


「ようこそ、エイケナールへ。

 モロッタイヤから来たのかい?」


「はい、モロッタイヤの方から来ました」


 モロッタイヤの前は魔獣の森から出て来たのだが、嘘は言ってない。


「嬢ちゃん、悪いが身分を証明するものを見せて欲しいのだが」


 これも織り込み済み。

 実はモロッタイヤ村で、村長とジャージィの連名で一筆書いてもらっていた。


「冒険者ギルドで登録するつもりで、まだちゃんとしたものは持ってないんです。

 でも、モロッタイヤ村でこれを頂きました」


 アンナリーナは知らないが、その集落のトップ……この場合は村長と、辺境伯から派遣されている兵士の長の署名のある証明書は教会の発行する出生証明に匹敵する。

 今回の場合、アンナリーナの犯罪歴が皆無な事と、何よりも職業が記入されていた。


「……っ! 薬師殿!?」


「えーっと、内緒で。 しーっ、ね?」


 唇に人差し指を近づけて “ 黙っていてね ”と合図する。

 その仕草は年相応で、とてもかわいらしかった。


「とりあえず、ここじゃあ何だから詰所で話そうか」


 こじんまりとした【尋問室】で椅子を薦められて、腰掛けたアンナリーナはアイテムバッグから茶器を取り出した。

 今日の気分はエスギナ茶。

 付け合わせの菓子はバターたっぷりのクッキーだ。

 それを担当の兵士の分も用意し、彼の前に置いた。


「自己紹介が遅れて申し訳ない。

 俺は辺境伯軍から派遣されてるグレイスト。ジャージィ先輩の2年下になるんだ。よろしくな」


「私はリーナ。

 あとは証明書に書いてある通りです。

 あの、お伺いしたいのですが、次の乗り合い馬車はいつになりますか?」


 アンナリーナとしては、この村はむしろスルーして行きたかったのだが、どうやら雲行きは怪しそうだ。


「2日後の予定だが、最近はよく遅れるんだ」


 アンナリーナ、がっくりする。


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