22『ノームの料理人、アンソニー』
宿屋に戻ったアンナリーナは、すぐに女将に料理の作り置きの事をお願いしてみた。
快く了承してもらって細かい相談に移る。
「あの、ローストビーフや、イメヒメ芋のスープを是非、お願いしたいのです。お鍋はたくさんありますし、ほら私……」
ローブをめくって、黄色いアイテムバッグを見せる。
「これがあるからいくらでも日持ちしますし」
アンナリーナは改めて、お辞儀をしてお願いした。
「本当に作っていいの?」
その時、聞こえてきた声に顔を上げ、声の主の姿を見て「あっ!」と叫ばなかった己を褒めてやりたい。
アンナリーナはこの宿屋に来て、一度も料理人に会った事がなかったのだが……無理もない。
彼は小さな【ノーム】だったのだ。
「ああ……
出て来ちまったのかい」
女将は覚悟を決めたように改めてアンナリーナに向き直った。
「うちの料理人の【アンソニー】
見た通りのノームだよ。
……あたしの旦那なんだ」
何よりも、2人が夫婦だという事に一番びっくりしたのだが、女将は不安そうだ。
「この村の人間は皆知ってるから、嫌悪したりしないが、嬢ちゃんは嫌じゃないのかい?」
言われている事の意味が理解出来ない。
どうして嫌がらなくてはならないのか? そんなアンナリーナの心中を察したように、女将が言った。
「こんななり……ヒトガタをしているが、ノームは魔獣だ。
普段は討伐対象なんだよ」
「そんなの、酷い!」
思わず叫んだアンナリーナは、その小さな拳を握り締める。
「だってアンソニーさんは、ただ料理をしてるだけでしょう?
それも、あんなに美味しい料理の数々を……」
アンナリーナの目尻に涙が溜まる。
わなわなと震えながら、自分への、以前の理不尽な暴力のあれこれを思い出しているのかもしれない。
「ありがとう、リーナ。
僕の料理が美味しいって言ってくれて。僕を嫌がらないでくれて」
「アンソニーさん……」
「僕、リーナのためにいっぱい料理を作るよ。でも、今から始めても明日いっぱいはかかるよ」
いいの?と聞かれて、アンナリーナは即決だ。
「女将さん、明日の分、もう一泊お願いします。
それから、色々食材も持ってるので出しますね」
まず宿泊代、銀貨3枚を渡す。
それから大量に備蓄しているトサカ鳥を取り出した。
「ビーフ……牛は持ってないので、これなら他にも使えるんじゃないかと……」
アンソニーが喜びの声を上げて飛びついた。
アンナリーナが持つトサカ鳥の中でも一際大きな、1mはある個体だ。
「生で食べられる玉子もあるよ。
オークや森猪もあるから、良ければ言ってね。
それから、これ」
アンソニーに渡されたのは、手のひらほどの大きさの【旨香茸】だった。
ついでに老薬師がストックしていた胡椒一瓶と蜂蜜も出すと、純朴なノームは固まってしまった。
「よろしくお願いします!」
お湯を貰って部屋へと戻ったアンナリーナは、いつものように【洗浄】を唱えた。
セトをポケットから出してやり、机に下ろす。
【ウォーター】の水を与えてからベッドに座り込んだ。
「今日は疲れたね〜 セト?
ご飯は、今日は下で一緒に食べよう。
ね?」
「ピキュゥ……」
「先にギフトとステータス、済ませちゃおうか」
「ギフト【空間魔法】」
「ステータスオープン」
アンナリーナ 14才
職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子
体力値 102400
魔力値 17421685520127/17421785520128
(ステータス鑑定に1使用、空間魔法に100000000使用)
ギフト(スキル) ギフト(贈り物)
[一日に一度、望むスキルとそれによって起きる事象を供与する]
調薬
鑑定
魔力倍増・継続 (12日間継続)
錬金術(調合、乾燥、粉砕、分離、抽出、時間促進)
探索(探求、探究)
水魔法(ウォーター、水球、ウォーターカッター)
生活魔法(ライト、洗浄、修理、ファイア、料理、血抜き、発酵)
隠形(透明化、気配掩蔽、気配察知、危機察知、索敵)
飛行(空中浮遊、空中停止)
加温(沸騰)
治癒(体力回復、魔力回復、解毒、麻痺解除、状態異常回復、石化解除)
風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード、サファケイト)
冷凍(凍結乾燥粉砕)
時間魔法(時間短縮、時間停止、成長促進、熟成)
体力値倍増・継続(12日間継続)
撹拌
圧縮
結界
異空間収納(インベントリ、時間経過無し、収納無限、インデックス)
凝血
遠見
夜目
解析
魔法陣
マップ
裁縫
編み物
刺繍
ボビンレース
検索
隠蔽(偽造)
従魔術
体力値供与
細工
再構築
無詠唱
悪意察知
魔力値供与
空間魔法(転移)
「次はセトだね。
【体力値供与】【魔力値供与】」
「【鑑定】」
セト(アイデクセ、雄)
体力値 300
魔力値 20
アンナリーナには、試してみたいスキルがある。
限りなく不可能に近いスキルだが、これを目指して魔力値を上げてきた。
もし、このスキルを取得出来れば、アンナリーナはこの世界最強と言えるだろう。
もちろん、彼女にはそんな意思も覚悟もないのだが。