18『錬金薬師』
鍛冶屋から村の中心部に向かう道すがら、そよそよと爽やかな風が吹いている。
だが、ここにいる二人の間に流れているものは比べものにならないほどギスギスしていた。
沈黙を破ったのはアンナリーナの方で。
「……それで?
そうだったらどうだって言うの?」
アンナリーナに自覚はないが、今彼らの周りでは高濃度の魔力が渦巻いていて、ミハイルはその圧力に潰されそうだ。
「勘違いしないでくれ!
俺は嬢ちゃんに何かしようってわけじゃないんだ。
ただ、あまりに無防備だから」
大の大人が泣きそうになりながら、悲鳴のように叫ぶ、そのさまにアンナリーナはハッとして威圧を解く。
と、同時にミハイルはその場に崩れ落ちた。
「あ〜 ごめんなさい」
「やっぱり錬金薬師なんだな……
あの回復値も納得するよ」
ミハイルは溜息しながら立ち上がった。
彼の目の前には、めったにお目にかかれない【錬金薬師】がいる。
この大陸の歴史を語る上で、魔法は外せない。
その昔、蛮族が跋扈する中、一説では他大陸から、また一説では異世界から現れた【魔法使い】が乱れた世界を平定し、今の世界の基礎を築いたと言われている。
その後、【魔法】は一般にも馴染んでゆき、魔法使いと呼ばれる人々も増えていった。
それからの永い刻の流れのなか、魔法使いは【魔術師】と名を変え、その万能な力を持って、職種の中で戦士と共に双璧をなした。
反対に薬師と言う職業は人が人であり始めた頃からあり、人々を癒して来た。
だが、魔法使い=魔術師がその影響力を広げた時、その癒しの魔法に惹かれた人々は段々と薬師を忘れていった。
それでも一般の人々の薬は薬師が作っていたし、低ランクの冒険者向けの回復薬を作るのは薬師の役目だった。
そんな時が長く続いていたのだが……
そのうちに魔術師の能力は攻撃力に重きを置かれて、治癒回復役は冷遇され、魔術師職の者にこの魔法が発露し難くなった。
この時皆は一斉に、薬師に薬を求めたが、ごく一部の魔法が使える【錬金薬師】と呼ばれる者たち以外、彼らの期待に添えるものはいなかったのだ。
彼らは今も魔法薬【ポーション】を作り続けて、高ランク冒険者に供給し続けている。
だが、その絶対数が足りているとは言えない。
「嬢ちゃん、あんた…… もっと周りを警戒しなきゃ駄目だ。
……俺も、ハンスもジャージィもこの事を他に話す気はない。
だがこれから先、俺たちみたいなのばかりじゃない。わかるよな?」
アンナリーナはコクリと頷いた。
だがその顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
そしてその手が伸ばされたのは傍の林だった。
「【エアカッター】」
ハンスの胴より太い木が一瞬の間ののち、スッパリと切断される。
それは一本だけでなく、その奥の二本を切り裂き、魔力は霧散していった。
「うんうん、邪魔するものはこうするから」
まるで菓子でも食べるように、にこやかに応えるアンナリーナを見て、ハンスは背筋が凍る思いがする。
「夕食は部屋で一人で摂らせてもらうわ。
別に気を悪くした訳じゃないから気にしないで。
明日は直接ハンスさんのところに行くから夕方に寄らせてもらうわね」
バイバイと手を振って離れていこうとするアンナリーナを、ハンスは再び呼び止める。
「嬢ちゃん、悪いが……塩の持ち合わせはないだろうか?」
「塩? 岩塩?」
「今のところ、何とかなっているがこのまま行商が来なかったら……早晩尽きてしまう。
もしも融通してもらえれば、助かる」
「塩かあ……それもちょっと見てみるよ。じゃあね」
「ギフト【魔力値供与】」
「ステータスオープン」
アンナリーナ 14才
職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子
体力値 102400
魔力値 8710892769963/8710892760064
(ステータス鑑定に1使用、魔力値供与に100使用)
ギフト(スキル) ギフト(贈り物)
[一日に一度、望むスキルとそれによって起きる事象を供与する]
調薬
鑑定
魔力倍増・継続 (12日間継続)
錬金術(調合、乾燥、粉砕、分離、抽出、時間促進)
探索(探求、探究)
水魔法(ウォーター、水球、ウォーターカッター)
生活魔法(ライト、洗浄、修理、ファイア、料理、血抜き、発酵)
隠形(透明化、気配掩蔽、気配察知、危機察知、索敵)
飛行(空中浮遊、空中停止)
加温(沸騰)
治癒(体力回復、魔力回復、解毒、麻痺解除、状態異常回復、石化解除)
風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード、サファケイト)
冷凍(凍結乾燥粉砕)
時間魔法(時間短縮、時間停止、成長促進、熟成)
体力値倍増・継続(12日間継続)
撹拌
圧縮
結界
異空間収納(インベントリ、時間経過無し、収納無限、インデックス)
凝血
遠見
夜目
解析
魔法陣
マップ
裁縫
編み物
刺繍
ボビンレース
検索
隠蔽(偽造)
従魔術
体力値供与
細工
再構築
無詠唱
悪意察知
魔力値供与
宿に戻ったアンナリーナは早速、今日は後回しになっていた【ギフト】の取得を終え、膝の上のセトを見下ろした。
「セトに【魔力値供与、10】」
「セトを【鑑定】」
セト(アイデクセ、雄)
体力値 210
魔力値 10
「うんうん、セトもいい感じに上がってきたね。
さて、今日のお仕事にかかろうか?」
セトが返事をするように、ピュゥと鳴いた。