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12『商談と販売』

 モロッタイヤ村はかなり辺境にある鄙びた村だが、そこにある雑貨屋はギルドがないこの村で唯一、素材などの買取を行っている。

 従って、主人が鑑定持ちでない場合、鑑定の水晶を保持していた。


 ミハイルはそれで、アンナリーナの出した回復薬を鑑定してみて腰をぬかさんばかりに驚いた。


『回復値が100……』


 アンナリーナは知らなかったがこの大陸での回復薬の値は、低いもので35、高いものでも80あれば良い方で、回復値100と言えば滅多に出回らない。

 それほどの値だ。


「嬢ちゃん、これは最下級のポーションに近い数値だ。

 これ、あんたが調薬ったんだよな?」


「はい……何か、問題が?」


 問題どころではない。

 こんなものが世間に出回れば確実に騒動になる。


「嬢ちゃん、これはもっと高く売らなきゃ駄目だ」


 アンナリーナはキョトンとする。


「そうなの?

 でも私、これしか作れないし」


 って、言うか、何でそんなに低い数値のものしか出来ないの?


 アンナリーナが訝しげにしているのがわかったのだろう。


「ひょっとしたらこれの製作方法は、失伝したいにしえの配合なのかもしれない」


 そんな大層なものではない。


「とりあえず、売値はこのままで。

 次は何? 熱冷ましとか痛み止めもいるよね?」


「ああ、それと風邪薬と咳止め、下痢止めが欲しい。

 特に下痢止めだ。これからの季節、腹下しが多いんだ」


「本当は薬で止めるんじゃなくて、悪いものは全部出しちゃった方がいいんだよ。まあ、一概には言えないけど」


「嬢ちゃん、医薬師なのか?!」


「違うって……常識でしょう、こんなこと」


 一々驚かれて、いい加減辟易する。

 アンナリーナは溜息を吐いて、アイテムバッグから薬を取り出しはじめた。


「この村の人口はどのくらい?

 子供の人数は?」


 ミハイルが目をパチクリしている。


「何でそんな事を聞く?

 そんなの、今まで聞かれた事、ないぞ?」


「あのねぇ、それは今まで行商人から買ってだからでしょ?

 薬師はねぇ、症状を聞いて薬を出すの。常備薬なら最低、子供の数くらい知っとかなきゃ駄目でしょ。

 だって、薬の量が違うんだよ」


 もう面倒臭くなったのかタメ口である。

 だが、ミハイルにとっては話の内容が、目から鱗だったようだ。


「はじめて聞いた……」


「うんうん、どうでもいいから……何人?」


 達者な字で、モロッタイヤ村。

 大人 子供 と書いていく。

 これもこの村ではあり得ない事である、ここで字を書けるのは自分を入れてほんの数人だけなのだ。


「ああ、大人58人、子供10人だ」


「ふんふん、で、いつもどのくらい買ってるの?

 私のは丸薬だから水薬よりは値段もお得で日持ちもするよ」


 服用量、一日最低一回(大人2錠、子供1錠)

 単純に人数分として一日、130錠。


「ざっと計算したら、村人全員として1日130錠……後はどのくらいの日数分買うか、だね。

 あ、ちなみに1錠鉄貨2枚ね」


「お、おまえ……じゃなかった、嬢ちゃん、鉄貨2枚って、安すぎる!」


 ミハイルが悲鳴のような声で叫んでいる。

 一々、うるさいおっさんだ。


「あのねぇ、最低って言ったでしょ?

 本当は1日2回、3日間飲んで欲しいの。それに3才以下の子供にはやっぱり水薬の方がいいし。

 ねぇ、3才以下の子供は何人?」


「ふ、2人、確か2人いる」


「ふんふん、水薬も5本くらい渡しとくか。

 ねぇ、丸薬はまとめてひと瓶で渡していいのかな?

 それとも一回分ずつ包んだ方がいいの?もしそうなら今夜、宿に帰ってから包むから……って、ええっ!?」


 今度は、むさ苦しい親父が滂沱の涙を流して、声を立てずに泣いている。


「何か……面倒臭い、ひと?」



 アンナリーナの薬がさほど高くないとわかったからだろう。

 それからの話はサクサク進み、手持ちでまかなえるものはその場で渡していった。


「あとは出来次第って事で。

 清算は……回復薬の分だけ先にもらえたら嬉しいかな」


「もちろんだよ!」


 ミハイルが金箱から3色の硬貨を取り出し、机の上に並べた。


「回復薬15本分。

 金貨1枚、銀貨3枚、銅貨5枚だ。

 本当にありがとう」


 ここでの取引はアンナリーナにも益をもたらした。

 何せ、彼女は狭い世界で育った世間知らずだ。

 田舎の村での薬の卸値が知れたのも大きい。

 彼女はこれから宿屋に帰ってからする作業を頭に浮かべていた。


「納品分の用意に2〜3日かかるから、また何かあったら声をかけて下さい。

 じゃ、私は宿屋に戻りますね」


 踵を返し、店から出て行こうとするアンナリーナに再び声がかかる。


「嬢ちゃん、もう薄暗くなってきてるから送っていくよ。

 それから夕食を一緒にどうだい?」


 ありがたくお受けしたが、はっきり言っておっさんからのナンパはまったく嬉しくないアンナリーナだった。


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