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6 『治療(実験?)と調薬』

 アンナリーナが拾ったトカゲは、アイデクセと呼ばれる、これでも一応最下層の魔獣だ。

 この大きさでも成獣で、主に小型の魔獣の餌となる存在である。


「きっと、さっきの怪獣大戦争に巻き込まれたんだね。

 ぺしゃんこにされなくてよかった」


 いや、ほとんどぺしゃんこだが。


「【鑑定】

 ……トカゲ(重体)

 体力値1/5……うん、弱っちい。

 私以下だったんだね」


 はじめは1をも切っていた体力値がやっと表示出来るまでに戻り、外傷はふさがったようだ。

 アンナリーナはまたポーションを含ませた布で包んでやる。


「砕けた骨や破裂した内臓……元に戻ればいいけど」


 そうして唱えた【ヒール】は、体力値を上げるまでには至らなかったようだ。

 アンナリーナはふと考える。

 薬師として回復薬やポーションを作ってきたが、その使用するものの体力値を上回る回復量の薬を飲めば全快すると思っていた。

 だが、先日の自分やこのトカゲは当てはまらない。

 一体どういうことなのか。

 アンナリーナは思いついた事を実行するため、トレーを持って調薬室に向かった。



 まず、融和剤。

 白草石粉の量は動かせないので、純水を作るときに込める魔力と融和剤自体を調合するときに込める魔力を増やす。

 そのあとオメガ草の上位種サラン草と薬剤の効果を高めるヤツメの実の粉を用意し、ポーションと同じように作っていく。

 そのときにずっと、細く紡いだ少量の魔力を注いでいった。

 これはアンナリーナオリジナルの調薬法である。


 トレーの中のトカゲの様子を見ながらていねいに作り上げたポーションを鑑定してみると。


【中級体力ポーションA 2700HP+13%】


「成功だね!ヤツメの実の使い方がちょっと不安だったけどうまくいったみたい。

 さて、と。

 トカゲくん、ちょっとごめんね。

 おっと、その前に」


「【鑑定】

 ……体力値1、変わりなしか」


 巻いていた布を取って、その身体を【ウォーター】で出した水で慎重に清める。

 新たに出したトレーに布を敷きトカゲを置く。

 勝手に雄認定したトカゲはここまでも、ピクリとも動かなかった。

 その後、新しく作った中級体力ポーションAをそこに注いで、また布をかける。


「せめて目覚めてくれたらポーションを経口摂取できるんだけど、まだ数日は無理かな」


 指先で頭をそっと撫でると少し動いた気がした。



 アンナリーナはしばらく……せめてトカゲが目を覚ますまで、この場に止まる事にした。

 周りに結界を張り直した彼女は、早速夕餉の支度に取りかかる。

 スープは作り置きしていたキャベツと干し肉のミルクスープ。

 スクランブルエッグには先日採取した香旨茸の極薄スライスを入れ、あとは塩味のみ。

 それにカリカリの薄パンを添えて出来上がり。

 デザートは中の実が青いオレンジ。


「わあ〜 いい香りだね!」


 前世で言うところのトリュフに近い茸は、この世界では滅多に庶民の口には入らない。

 これも高価で取り引きされるため、手っ取り早い現金収入となっていた。


 熱いスープに息を吹きかけてスプーンに口をつける。

 スクランブルエッグは薄パンに乗せて、その口当たりの違いを楽しんだ。

 オレンジは見た目に反して凄く甘い。


「ああ、早く村に行って色々お買い物したい……それなりの規模の町もいいよね」


 トカゲの入ったトレーをなぞり、アンナリーナは話しかけるでもなしに、そう呟いた。



 食後、マンドラゴラの薬湯を飲み、トカゲのトレーを持ったアンナリーナは調合室に向かった。

 書き物机にポーションのことが書かれた本と老薬師の残したノート、そして新たにアンナリーナが書き込んでいるノートを出して読み始める。

 アンナリーナが必要になる事は金輪際ないだろうが、基本高価な通称魔力ポーション、正式名【魔力値回復ポーション】を作ろうと言うのだ。


「材料は、融和剤……これは変わらないのね。

 あと、イーター草とンゴルンゴの種子を潰した粉……これって生?それとも乾燥させたもの? ん〜」


 アンナリーナは初めてアイテムバッグにインデックスを使った。

 老薬師のバッグの中身がずらっと並んで表示されていく。


「ンゴルンゴ……ンゴルンゴ……

 ああ!あった!!

 うわ〜 薬師様、溜め込んでるな〜」


 ンゴルンゴ(実) 238個

 ンゴルンゴ(乾燥粉) 584g


 早速【ンゴルンゴ(乾燥粉)】を取り出し材料を並べていった。


「ん〜 融和剤は固定として、純水や製作中の魔力注入、最初は控えようかな……どのくらい違うか比べてみたいし」



 そんなこんなで何種類もの【魔力値回復ポーション】がならんでいる。

 混同しないようにつけられたラベルに番号を入れて、バッグにしまっていった


「こればかりは誰かに使ってもらわなきゃ効果のほどはわからないわね。

 まだ早いし、これから向かう村や町で売る予定の【廉価版、回復薬】の調合でもしようかな」


 広い調合台の上に材料が置かれていく。

 回復薬100本分。

 純水 20ℓ、オメガ草 700g、瓶100本。そして。


「回復薬【調薬】」


 瞬時に台の上には、100本の中身の入った瓶が並んだ。

 アンナリーナはその一本一本に鑑定をかけて、効能を確かめ、ラベルを張っていく。


「魔法でチャチャッと作っちゃうと、効果が落ちちゃうんだよね」


 目の前に並ぶ回復薬の効果は、一律回復値が100で付加値はなしだった。


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