3 『滝壺と体調不良』
その、水の落ちる音に気づいたのは偶然だった。
風に乗って水の匂いがして、それからすぐにその姿を現した。
さほど大きくない滝だったが、河原には広く平坦な地があって、アンナリーナは一目でこの場所を気に入ってしまった。
「今日はここで一泊しましょう。
空気が澄んでて気持ちいい!!」
マイナスイオンの溢れる滝壺を目の前にして、深呼吸したアンナリーナは、その清水をすくい飲めるかどうか鑑定した。
『飲料可』と出ると同時にそこらじゅうが緑に染まる。
「わわっ! 何?」
今、アンナリーナの視線は水の中を向いている。
採取可能な素材だと知らせているのは、どうやら水中にあるものらしい。
アンナリーナはその水の中に手を浸し、試しに一つ拾い上げてみた。
「鑑定、えっ?」
それは、こう表示された。
『【翡翠】高価で取引きされる宝石。
宝飾品だけでなく細工物にも向いている』
「へえ〜!?
じゃあ、この緑色の点ってみんな宝玉だっていう事?」
今度は白い石を鑑定してみると。
『【白玉】貴石。装飾品や細工物に加工される』
「これ……水の中全部、宝の石?」
この滝の上流には鉱脈があるのだろう。
魔獣の森自体、滅多に人が足を踏み入れないため、今まで誰も気づかなかったのだ。
そして貧乏性のアンナリーナは我を忘れて拾い始める。
そのうち水の中にまで入り、自身が濡れるのも構わずに、時を忘れて採取した。
「クシュン!」
手許が見えなくなるほど暗くなるまで熱中したアンナリーナは、慌ててツリーハウスを出して中に入ったのだが、玄関を入ったところで我に返る。
ポタポタと雫が滴るのはチュニックの袖からだ。レギンスも太腿から下がぐっしょりと濡れている。
ブーツも然り。
ローブやアイテムバッグは外して河原に置いていたので大丈夫だった。
ちなみにこの滝壺のあたり全体に結界を張っていたので危険はない。
「うう……クリーン」
とりあえず身体と服を清めて浴室に直行する。
大盥に、ウォーターと加温の合わせ技で湯を張って、浸かった。
だが日本の湯船やバスタブと違い深さがないので身体全体が温まりきらない。
アンナリーナは風邪をひきかけていた。
昨夜、眠る前に熱いスープで食事を摂り、ヒールをかけて風邪薬を飲んだのだが、目覚めると身体が怠く頭がぼうっとする。
「ああ〜 参ったなぁ」
ここにきて、体調を崩したのはある意味必然だった。
……幼少の頃からの栄養不足。
老薬師が亡くなってからの心労。
そして、生まれ育った村から脱出し、出立するまでの恐怖や本人が気づかなかった疲労など、一気に噴き出したのだ。
「ヒール」
怠さは幾分楽になった。
だがヒールをかけた割にはすっきりと引かない。
これは身体が休息を求めているのであって、治癒魔法や薬だけではケア出来ない事だ。
「ここは居心地がいいし、しばらく滞在してもいいかもね。
まずは風邪を治して、料理したり、薬を作ったりして、採取に出かけるのも楽しそう」
そして最早日常とも言える一言。
「ギフト【マップ】
「ステータスオープン」
アンナリーナ 14才
職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子
体力値 6400(⑧)
魔力値 67108663/67108864
(ステータス鑑定に1使用、マップに200使用)
ギフト(スキル) ギフト(贈り物)
[一日に一度、望むスキルとそれによって起きる事象を供与する]
調薬
鑑定
魔力倍増・継続 (12日間継続)
錬金術(調合、乾燥、粉砕、分離、抽出、時間促進)
探索(探求、探究)
水魔法(ウォーター、水球、ウォーターカッター)
生活魔法(ライト、洗浄、修理、ファイア、料理、血抜き、発酵)
隠形(透明化、気配掩蔽、気配察知、危機察知、索敵)
飛行(空中浮遊、空中停止)
加温(沸騰)
治癒(体力回復、魔力回復、解毒、麻痺解除、状態異常回復、石化解除)
風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード、サファケイト)
冷凍(凍結乾燥粉砕)
時間魔法(時間短縮、時間停止、成長促進、熟成)
体力値倍増・継続(12日間継続)
撹拌
圧縮
結界
異空間収納(インベントリ、時間経過無し、収納無限、インデックス)
凝血
遠見
夜目
解析
魔法陣
マップ
アンナリーナは自分の身体の状態を考え、今日は養生して過ごすことにした。
早速、手がかからず栄養価の高いミルク粥……パンを細かくちぎって入れ仕上げにチーズも投入した。
あとはアイテムバッグに保存してあったリンゴ、プラムだ。
そして食後に風邪薬を飲み、滋養のある薬草茶を淹れて飲んだ。
「解析」
「これは……ダメだわ」
昨夜から2回もヒールをかけているのに完治していない。
アンナリーナは今、初めて【解析】を使って自分の身体を診察してみたが、主要な臓器の働きが弱っているのが見て取れる。
例えば、心臓は血圧が下がっている。
肺は、血中酸素の量が落ちていて、肝臓や腎臓の数値もよろしくない。
「今までの無理が祟った?
元から、あまり丈夫じゃなかった……
ギフト授与の夜、殴られたり蹴られたりして、実はダメージを受けていた?」
自分の、あまりに頼りない状態に精神的にショックを受けたのかアンナリーナにドッと疲労がやってきた。
外の結界だけ確認して早々にベッドに入ることにする。
足許に毛布を足して、アンナリーナは良い夢が見られたらいいな、と呟いて眠りの世界に旅立って行った。