ただただ沈むばかりで――チビ王子と黒王子
僕は、狂っているとよく言われる。
本当は僕の彼女がおかしいって言われるんだけど、そんな彼女を大切にしている僕も変だと言われることが多い。けどひとりだけ、僕のことを分かってくれる人がいた。
「ボクもそうだよ。恋人は年上だからあまり言わないけど、どんなワガママを言われたって全部叶えてあげたくなる」
昼下がりの喫茶店でダージリンティーを飲む黒い僕の友達は、切れ長の目を何処か思い出に馳せながらそう言った。日に焼けるからという理由であまり外に出ない彼の言葉に僕はすっごく共感できる。色白だから黒服が映える彼は、ハットを置いた隣の座席に一瞬だけ視線を流し、また僕を見た。
「だからボクは、キミが狂っているとは思わない」
そのたった一言で、僕の気持は紛れた。僕もアップルティーを口に運びながら口角を上げる。
「彼女の言葉にならない想いを、僕はそれを全部受け止めてあげたいんだ。好きだったら、なんにもおかしなことはないよね」
さぁ、と黒い王子は首を傾げた。無口な彼はじ、と僕の手首を見つめる。彼女の愛の証である、赤い痕を。
「好きだったら、好きな人を傷つけることはしないと思うけど」
「これは違うよ。不器用なだけなんだ。ただちょっと、伝え方を知らないだけで、不安症なだけで、寂しいから傍にいてと思ってるんだよ」
彼は何も言わずに紅茶を飲みほす。僕よりも年上で、その彼よりも年上の恋人を持つ彼はどんな愛情を示しているんだろう。少し興味が湧いたけれど、彼は話してくれないだろうし、他人の愛の形なんて僕にはとても真似できないから結局は訊かなかった。
「ボクは彼女を必要として、彼女もボクを必要としてくれる。愛情の示し方なんて人それぞれだから、ボクはそれで満足だよ」
だからキミも、と彼はハットを被りながら続ける。この後に恋人と会う約束があるらしい。僕も、彼女が欲しがっていたぬいぐるみを買って、もう行かなくちゃいけない。
「誰に何と言われても、誰がどんな断罪を下しても、それがキミ達の在り方なら胸を張っていれば良い。
愛に、溺れている者同士」
「うん、そうだね」
それじゃ、と彼は伝票を持って行ってしまった。僕も彼も、自分の恋人を溺愛していて、その示し方は異なっているんだろうけど、他の方法なんて知らないから、このままでいよう。相手がそれを嫌がらないかぎり。
僕らはもう、恋に、愛に、溺れているから。