じわじわ首を締める、そんな優しさ――ロリ子とチビ王子
「どうしたの?」
貴方はそう言ってあたしを振り返る。眩しい笑顔に、あたしはいつも目を細めるの。
別に、と答えれば貴方は不安そうにあたしの顔を見つめて。楽しくないの、なんて訊いてくる。王子様っていうより、召使いみたいだわ。
「アイスでも食べたいの? それともパフェの方が良いかな。あ、やっぱりクレープ?」
違うわ。そんなの要らない。手が疼く。貴方をまた、傷つけてしまいそうになるの。あたしのこと、わかってくれないとまた、貴方の体に傷ができる。
「具合でも悪いの?」
あたしの目を覗き込んで心配してくれる。一緒にいてと言えばいつまでも一緒にいてくれる。優しい、なんて、ずっと前から知っていたけど。あたしが貴方の腕に赤い蛇を走らせても変わらず貴方は傍にいてくれるのね。それであたし、満足しなくちゃいけないのに。
夏だと言うのに貴方は白いシャツで手首まで覆っている。それは、あたしの欲をぶつけたから。この前はハサミじゃなくてカッターだったわね。その前は素手のげんこつ。非力なあたしだけど、避けない貴方の体にはアザがたくさんできた。
貴方、前に長い袖は苦手なんだって言ってたじゃない。暑いのは苦手だからって。それなのに。
どうしてそんなに、天使みたいでいられるの。あたしがなりたかったものに、どうして貴方、なれてるの。
あたしに会わなければ、女の子みたいな華奢な体に、綺麗な白い肌に、あたしのつける痕なんてなかった。そうやって貴方、あたしに良くしてくれてるけどあたし、何もできないのよ。何も返してあげられない。
「……何も要らない」
貴方も要らない、そう言ったら貴方は何て言うのかしら。悲しそうな顔で、わかった、なんて言うのかしら。あたしが離れられないこと知りながら?
「貴方がいてくれるなら」
「……うんっ」
ずっと、いるよ。君の傍に、君が望むだけ。
眩しいほどの笑顔で、貴方は言った。あたしが一番欲しい言葉。ずっとずっと聞いていたい言葉。眩しすぎて、目をそらしてしまう。
その優しさが、あたしを苦しめても、貴方の優しさの、中毒者になってしまったから、もう離れるなんてできない。
繋いだ手を強く握れば、男の子の力で、でも優しく、貴方は握り返してくれた。見守るような視線を感じて、あたしは伏せていた目を上げる。ほら、貴方の笑顔は天使のもの。
その手がいずれ、あたしの命を絞め殺そうとしていることに、気がつくのかしらね。
あたしが貴方を殺してしまうのが先か、貴方があたしを殺してくれるのが先か、それとも一緒に息絶えるのか、それはわからないけど。
まだ、息はできるみたいだから、貴方と一緒にいるわ。