痛いんだ!――ポップガールとパンク少年
ふんふーんなんて、彼女は鼻歌を歌いながらストリートの壁に絵を描いている。彼女のお気に入りの形、リンゴ色の水玉が壁に領地を広げていく。じわじわ砂色グレーの壁を侵食して、オレンジ色の水玉も加勢し始めた。両方、オレの好きな色。
彼女のタンポポ色の髪が揺れる。頬にリンゴ色のペンキをつけてオレを振り返った。其処に浮かぶのはいつものニコニコ安心する笑顔。
「ねぇ、アートっぽくない?」
彼女はそう笑って言ってオレに意見を求める。にぎやかな色彩なのは解るけど、それがアートかどうかなんてオレには興味ない。彼女が描きたいものを描けるなら、それで良い。
「ねぇ、そのブーツ、お洒落だね」
よくぞ気づいてくれました。オレがこのブーツを買う為にライブ何回分のオレの分け前使わずに残しといたと思う? なんて彼女に言ってもオレのファッションにあまり関心のない彼女は、カッコいいね、とだけ言ってまた自分の絵に向き合ってしまう。
だけどオレはそれでも良い。オレのベースを聴いて描いてくれた絵に、どれだけ感動を覚えたか言えないオレには、これで良い。
見た目に反してオレは彼女が好きすぎて、彼女の手を繋ぐくらいが精一杯だ。ステージの上のロックなオレしか見たことがない子は意外に思うんだろう。だけど彼女はオレのそんなとこを、かわいいと笑った。その笑顔に、オレが胸キュンしたなんて彼女は知らない。
「ねぇ、ココはキミの髪の毛の色にしてみたんだよ」
彼女が振り返ってオレに言う。そんなの用意したペンキの色ですぐ判るんだけど、オレはうんと頷いた。座っていたドラム缶から腰をあげて、また絵に向き合う彼女の頭を撫でる。彼女はびっくりしたのかハケをびくっと振って、リンゴ色の水玉にオレンジ色の飛沫が飛んだ。
なにするのよー、と彼女が口を尖らせる。いつもの悪戯にも、絵に対して真剣になる彼女にとっては慣れないものらしい。
「あーあ、せっかくの絵が」
彼女が思い描いていたものとは違うものになってしまったらしい。
「けど、新しい表現が生まれた」
オレの言葉に彼女はしばし思案してから、そうだね、と笑う。その笑顔が見たくてオレは悪戯を仕掛けるんだけど、彼女が抱きついてくるから彼女の方が一枚上手なんだろうか。
オレがドキドキするのに、気づいてる?
「ねぇ、どうして、ぎゅってしてくれないの?」
彼女が大きな瞳で見上げてくる。好きすぎて出来ないなんて言えなくて、オレはパンクファッションのせいにした。
「アクセサリーが、痛いからだ」
なるほど、と彼女が笑む。とげとげだね、とオレのチョーカーに触りそのチョーカーを引っ張るようにしてオレを引き寄せ、彼女の唇がオレのに触れた。
「――っ!」
「ココは柔らかくて痛くないのにね」
髪の毛と同じリンゴ色になってオレは叫んだ。