無望
……それが、この時代『大戦』
いかに人間は弱者で、無力である。
その為最善とは言えなくても、もてる手を打ち続けなくてはならない。
人間は生き延びる いや、逃げ延びるために。
泥と血にまみれ、欲望を押し殺し、いつか訪れる終戦まで。
一つの犠牲でたくさんの命を救えるのなら、多の為に少を切り捨てる。
誰を犠牲にしてでも……
全員を救えるのならば。
我々にはそれ以外の選択を選べるほどの余裕もない。
そのルールを徹底し、そうさせたのはこの世界のせいだ。
今更、反省や後悔はない。
振り返らず全力で集落の近くまで逃げたところで、頭の中に、妙な感覚に襲われていく。
ある男の顔が思い出せなくなってくる。
ジース、自分よりふた回り年上の男。勇敢で面倒見のいい人だった。
自分は、もう。
そんな勇敢だった彼をもう〝過去形〟で語っている。
「リト…おい待てリト」
目にまだなみだの跡があるスミスが、力強く肩をつかんできた。
「リト、そうやって一人で全てを背負いこんでいたら、お前潰れるぞ!」
だかリトは無表情で、その暗い暗い瞳で
「もし、俺が倒れたとしても、また誰かが俺の後を引き継ぐさ」
そして、彼らは再び、歩き始めた。