飛び立つ白鴉(はくあ)
なろう以前に活動していたオンラインゲームのサービス終了から着想を得て書いたものですね。
1
――滅び消えてしまった世界
管理者が創造せし大樹の
巨葉の元に築かれ
八つの種族が互いに共存しあい
魔物という侵略者から
互いを助けつつ
手にした武器で撃退する
楽しくもあり 苦しくもあり
嬉しくもあり 悲しくもあり
美しくもあり 醜くもあり
希望もあり 絶望もある
そんな物語たちが秘められていた
2
いつの頃からか
人はいなくなっていった
多かったのが
少しずつ少しずつ
煌めく宝石の輝きを
荒い砥石で削るように
手桶に盛られた砂が
零れ落ちるように
人々は新たな世界に去っていった――
3
停滞した世界
終わりを迎えた物語
やりがいの無い目標
楽しさは薄れ
退屈さが満ちた
新たな楽しさを見つけるために
全ての人々は去った
現在(今)はもう
一人の老人と 老人の肩に乗った
一匹の白い鴉だけだ
4
雄大な大樹は
人々が去っていったことで
青々とした幹は朽ち始めており
今にも倒れそうだ
大樹の下に
封印された黒く深い闇が
今か今かと解放を待つ
誰も彼も去った世界に
終焉をもたらすために
解放の時を待ち続ける――
5
「白鴉よ
私は託そう
この世界の思い出を
この世界で綴られた物語を」
老人の瞳から一筋の涙が流れ落ちると
涙は結晶となり
白鴉へと吸い込まれた
白鴉の瞳は写す
美しいモノを
醜きモノを
白鴉は得る
愛しきモノを
憎きモノを
白鴉は生きる
楽しい時を
苦しい時を――
6
老人の想いを宿し
白鴉は飛びだった
世界には老人がただ一人となり
封された深い闇という洪水が
大樹を飲み込んで
世界に終焉をもたらす
老人は抗うことなく
思い残すこともなく
ただ瞳を閉じて
終焉の洪水に飲み込まれた――
7
終焉の洪水は飲み込む
衣装を仕立て、余興を行う婦人が住まう丘陵も
貧しき親子と黄金の魚が生きる湖も
静寂の隠れ里から抜け出した
エルフの少女が住まう砂丘も
失ったものが集まる島がある計りの山も
美しい川と牧場のある高原も
ブドウを愛する老人がいる沼地も
無慈悲な太陽に照らされ続ける
鍛冶師が住まう大地も
幾千の時を生きた老樹が佇む森林も
大賢者の魔法によって造られし
寡黙な名人がいる地溝も
灼熱の炎と料理人が住まう火山も
太古の遺跡と優しき狩人が住まう草原も
破壊から創造をする少女が住まう街道も
迷いの森の奥深くにある隠れ里も
創造者の涙より生まれた湖にある幻の都も
創造者が羽を休める地である聳え立つ岳も
魔物たちの支配者がいた廃墟となった城も
創造者によって滅ぼされた巨塔も
花と芸術に囲まれた美しい都も
黄金の穂波と
穏やかな風に揺れる都も
美しい自然を見せる
山に築かれし都も
何もかもが終わりを迎える
8
白鴉は終わりゆく世界を振り返らずに
ただただ次なる世界へと
小さな羽を羽ばたかせる
数多の本がある世界へと
終わる世界の思い出を宿して――
これは次なる世界へと繋がる
悲しき詩の系譜
滅んだ世界の導き手の
最期の言葉
「ボクであるキミたちへ
これでボクが伝える物語は終わりだ
最後にこの言葉は贈ろう
ボクはキミたちのことを
この身が滅んでしまっても
キミたちの記憶の中で
ずっと見守っているよ
それじゃあ バイバイ」
《終》
サンホラメジャーデビュー前の、最後の同人活動作であるChronicle2ndのオマージュだらけです。