表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

第4話  ~トロイメライでダンスを~


「お前の世界では男は髪が短いのだろう? みろ、お前好みにしてみた」


そう言って、誇らしげにつんつん頭を引っ張ってみせた魔王。


腰まであったオニキス色の艶のある黒髪が、ずいぶん短く切られている。

確かに、ずいぶん普通っぽい髪形だ。


これで品のある切れ長の瞳でも赤紫と青紫のオッドアイでもなくて、


足が長かったり指も長かったり爪が長くもなくて、鼻もすっと高くなくて、


一見二十代半ばっぽいけど、ほぼ不老不死でもなくて、


着てるものも高級そうな赤いローブを羽織った、

墨染(すみぞめ)の黒い着物姿でなければ……。


……ってそれは無理か。


(それはもう魔王じゃないや)


だけど、失敗しちゃったみたいで、ちょっと左右で長さがばらばらだ。


魔王のことだから、自分でやるといってきかなかったんだろう。

家来達には秘密で切ってしまったのかも。


「ううん、長いほうがいい」

「?!!」


そうあっさり切りすてて首を振ると、

目を丸くして口を開いたまま固まる魔王。


ふふっ、とわたしは笑う。


(魔王、可愛い)


ソファーの上に立って、つんつん頭をなでると、

ちくちくしてハリネズミみたいだ。


痛んでいるわけじゃないけど、たぶんすごくこしがあるのだ。


そのままなでなでしていると、ぷるぷる震えだした魔王は、


「もうよい! 元に戻すぞ!!」と声を張り上げて魔法を使った。


するすると髪が伸びて、一瞬で元通りになった。


ふわり、とつややかなオニキス色の長髪が舞う。


「ふん、これでもう文句はあるまい」


魔王が偉そうに胸を張る(でもちょっと涙目)


(……可愛い)


「な、なんだおまえ……そんなでれっとしおって……。

 ――そんなに私が格好いいか」


……そして一瞬でめた。


「……かっこいいとか、魔王に求めてないから」


じとっと魔王をみつめると、魔王はがくっと肩を下げた。


「か……かっこよくない……? 

 ばかな……エヴェリーナは、まさか私のことが嫌いなのか……?」


ひとりごとのようにうなだれ、涙目の魔王に、

胸がまた、こちょこちょっとくすぐられた。


「……うそ。かっこいいよ。魔王はかっこいい」


「ほ、ほんとか……?」


「うん。時々。まれに。百年に一回ぐらいは」


「おまえな……。いや、待て。百年といったらおまえの寿命では……。

 それでは、エヴェリーナ、

 おまえは一生、私と一緒にいてくれるのか……?」


「……そ……、そんなこと言ってない」


「でも、そうなるのではないのか?」


「……お……おばあちゃんになったら、別れる」


「なぜだ」


「……みられたくないもん。しわとか、しみとか」


「私は気にしない」


「魔王はそのままじゃん。ほとんど不老不死、なんでしょ」


唇をとがらせ、そのまま唇をかむわたしを、

魔王はひょい、と抱き上げて、くるりと回った。


「お前は気にしいだな。

 ――だが私は、しわくちゃなお前もみてみたいと思うぞ。


 腰が曲がったら、さぞかし背が小さくなるだろうな。

 しみができたら、恥ずかしがるだろうな。

 

 ……だから私は、そんなお前がみてみたい」



「ば……ばかじゃない……? ま、魔王の頭はどうかしてるよ!」


「慌てた姿も可愛いな。いっそうおまえの未来が楽しみになってきたぞ」


「うるさいっ!!」


べちっ!! 魔王の顔面をたたく。

魔王は気にせず笑う。


「ははは……っ」


魔王なんて、魔王なんて……!



(……永遠音……)


――ん……?


なに、まお……。


「……永遠音!」


目を開けると、そこには若葉色の目があった。

一瞬、誰だかわからず、首をかしげる。


「……だれ……?」


「寝ぼけているのか? 早く学校に行かないと遅刻するぞ。

 昨日夜遅くまで起きていたのか?

 お義父さんとお義母さんはもう仕事に行ってしまったぞ」


「おに……ちゃ……?」


そっか、お兄ちゃんがわたしを起こしてくれたんだ。

いつの間に寝ていたんだろう。


まあいいや、早く起きよう。

お兄ちゃんまで遅刻しないようにさっさと支度しないと……。


「あれ……?」


昨日わたし、展覧会に行って、どうしたんだっけ……?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ